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2.音の消えた世界
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第二番 イ短調 Lento
季節は少し遡り6月の梅雨の始まりの出来事。音楽だけが聴こえなくなった僕は原因を探すため病院巡りをすることになった。耳鼻科に通院し、検査をしても聴覚に異常はみつからない。高齢になると高音が聴こえなくなる、所謂モスキート音が聴こえなくなるなど特定の周波が聴こえないといったこともない。突発性難聴やメニエール病の疑いも考えられたが症状はあてはまらなかった。脳のCTを撮ったが異常はみつからない。いくつかの病院を巡り、精神神経科の紹介を受けることになった。
「カクテルパーティ効果という言葉は知っているかな?」
上縁の無い眼鏡に白衣を身にまとった女医の先生は先日行った診察結果のカルテをみながらそう僕に問いかけてきた
女医の先生はまだ30手前といった感じで若く経験を考慮すると診察を任せて大丈夫なのかと最初心配だったけど、熱意をもって僕の治療にあたってくれている。
「いえ、知りません」
僕は端的に返答した。
「うんうん」
女医の先生は軽くうなずく。小棚から心理学の本を取り出して目的のページを開くと、
「まずカクテルパーティじゃ君にはまだちょっとイメージ沸きにくいかな。パーティという場じゃイメージわかないよね。そうだな、君がざわついた教室にいるとして、たくさんの人がそれぞれに雑談しているなかでも、君が興味のある人の会話とか、とっさに君の名前が話題に出てた時などは、自然と聞き取とれたことがないかな?」
女医の先生は本から一旦顔を上げて僕の表情を窺ってくる。
「たしかにそういう時はあったかもしれません」
実際のところは教室にいても僕はたいていイヤホンで耳を塞いでいるのだが、そうした経験はあったようは気はする。
僕がそこまでの話は理解できたことを表情で確認するとまた心理学と書かれた本に視線を落としながら話を続ける。
「声も音。人間は音を処理する場合、必要な情報だけを再構築していると考えられているの。この機能は音源の位置、音源毎に異なる音の基本周波数の差があることによって達成されると考えられているわ。つまり、このような音源位置の差や基本周波数の差をなくした状態で、複数の人の音声を呈示すると、聞き取りは非常に難しくなってしまう」
教室の喧騒で誰かの話声が聞き取れる例の話まではすぐに理解できたけどこの説明についてはよく理解することができなかった。
「先生、そのカクテルなんちゃらと僕の症状との関係が理解できないのですが」
説明に理解できなかったことへ少し苛立ちを感じてしまった。
「もう少しだけ話の続きを聞いてね」
女医の先生は僕の心情を察しったような仕草をみせつつ、さらに説明を続ける。
「聞きたい人の声の特徴や、その人が話であろう会話の内容や口癖などについては、実際にはその音声が確実に存在しているというボトム・アップな証拠がないような場合でも「聞こえたつもり」に感じることができる。また、実際のカクテルパーティ、ごめん、ここではざわついた教室のことね、のような状況では、話し手を視覚的に確認することができることによって、その人の口の動きなどから得る情報で、聞こえを補っている可能性も否定できない」
女医の先生は心理学の本について少し補足しながら説明を続けてきた。
「それは、聞きとれない音を補間出来たり、また、聞こえた音の中でも、都合のよい音が、脳に伝達されると、考えられる」
「難しいかな?でも次が最も大事なところだからしっかり聞いてね」
問診というよりも授業を受けている気分だ。
女医の先生は一呼吸おいてから確信について話を切り出した。
「さらに音楽においても、オーケストラの演奏などにおいて、複数の楽器がそれぞれ別のメロディを奏でている時にも、特定の楽器のメロディだけを追って聞くことができるのも、同じ効果、これがカクテルパーティ効果と言われるわ」
先生は本を机の上に置き、椅子の背もたれに少し体を預け、天井に視線を泳がせながら言葉を探している。
「喧騒のなかでも聴きたい声、音を認識することを人はできるの」
「だけと君はまったくの逆の効果が現れてしまっていると考えられるわ」
「見たくないものがあれば目を反らすよね」
女医の先生が目を手で覆う。
「臭いものがあれば息を止める」
女医の先生が手で鼻をつまむ。
「そして、聴きたくない音があれば耳を塞ぐ」
女医の先生が両手で両方の耳を塞ぐ。
なんだか日光の三猿のポーズのようだ。鼻ではなく口だったらまさに。
「こうやって手を使えば耳を塞ぐことってできるよね」
「だけど君はそれを無意識がやってしまっているの。手ではなく脳が。今の君にとって音楽は聴きたくないものなんじゃないかな?音楽だけを脳が遮断させ、無意識に思考回路を別のところにもっていってしまっている」
「何かに集中していると周囲の音なんて聴こえなくなるじゃない?」
「今の君は、聴きたい音だけを聴き取るカクテルパーティ効果が充分に機能できていないと考えられるわ」
先生は診断結果についての説明は「以上です」と口にしているかのような表情をしながら視線をまた僕の顔に戻してきた。
「ピアノを幼少の頃から弾いていたから聴覚が通常の人よりも発達していると思うわ。その分、感覚が敏感だからこのような症状が起きているのかもしれないね」
「音を拒絶したくなるような出来事ってなかったかな?」
その日の診察はそこで終わった。僕がだまりこんでしまったのもある。
先生は、治療ははじまったばかりなのだから焦らなくていいよと言ってくれた。
音楽を拒絶したくなる原因となった日のことは覚えている。ただまだ、診察のため、医者だからといっても出会って日の浅い他人に胸の内を告白することは躊躇う。そして言ったところで何が解決するのかとまだ精神科医に対する懐疑心もあったからだ。
一方で症状についての説明が少しでも付いたことへの安堵もあった。原因がわからないことが不安を助長させ恐怖が増してしまうからだ。音楽を無意識で拒絶してしまっているという診断結果は今の僕の症状を知るうえで有益な情報であったことは間違いない。
*
僕が音楽を拒絶するようになったきっかけ。
それはさらに遡ること5月の連休中の出来事。
僕は、ピアノコンクールで敗退した。
名演奏なんてもうとっくに世界には溢れている。名盤と呼ばれる録音もごまんとある。偉大な演奏家と今更勝負するなんて馬鹿馬鹿しい。僕は今の生きる時代の演奏家に勝てればいい。コンクールで勝つ。音楽性だなんて知らない。
中学生になってゲームセンターに初めて足を運んだ時だった。音楽に合わせてボタンを叩く、所謂『音ゲー』なるものを知った。ノーミスでクリアすることで周囲から賞賛の声を浴びている姿に目を奪われた。つまりはそういうことなのかと考えるようになった。
コンクールで勝つにはミスをしないこと。サイボーグと化すれないいだけ。高難度な曲をいかにミスなく速く弾く。
音ゲーと同じ。
そして他人に勝ち一番になる。
承認欲求が満たされればそれでいい。
ピアノは競技。陸上選手が誰よりも速く走り一番でゴールすることが目的なら、僕がやろうとしていることとさほど違いはないことだ。陸上だって毎回世界新記録が出ているわけじゃない。それでも人はその大会での一番の者に対して最大の賛辞を贈る。
僕は難曲と呼ばれるリストの超絶技巧練習曲に取り組み、そしてピアノコンクールに挑んだ。
僕は二次予選までは通過できたものの三次予選で敗れ本選には進めなかった。
ミスタッチがあったのか?
速度が遅かったのか?
思い返しても事故となるレベルの演奏はしていないと自己分析している。
二次予選までなんなく通過できた。当然の結果と思った。僕がやってきたことが肯定されていると確信できていたことが一夜で否定に変わった。たかが17年の人生。それでも17歳の僕が信じたことに裏切られる。信念が折れた瞬間だった。
そして世界から音楽が消えた。それは僕が音楽のない世界を自ら望んで逃げ込んだからかもしれない。
季節は少し遡り6月の梅雨の始まりの出来事。音楽だけが聴こえなくなった僕は原因を探すため病院巡りをすることになった。耳鼻科に通院し、検査をしても聴覚に異常はみつからない。高齢になると高音が聴こえなくなる、所謂モスキート音が聴こえなくなるなど特定の周波が聴こえないといったこともない。突発性難聴やメニエール病の疑いも考えられたが症状はあてはまらなかった。脳のCTを撮ったが異常はみつからない。いくつかの病院を巡り、精神神経科の紹介を受けることになった。
「カクテルパーティ効果という言葉は知っているかな?」
上縁の無い眼鏡に白衣を身にまとった女医の先生は先日行った診察結果のカルテをみながらそう僕に問いかけてきた
女医の先生はまだ30手前といった感じで若く経験を考慮すると診察を任せて大丈夫なのかと最初心配だったけど、熱意をもって僕の治療にあたってくれている。
「いえ、知りません」
僕は端的に返答した。
「うんうん」
女医の先生は軽くうなずく。小棚から心理学の本を取り出して目的のページを開くと、
「まずカクテルパーティじゃ君にはまだちょっとイメージ沸きにくいかな。パーティという場じゃイメージわかないよね。そうだな、君がざわついた教室にいるとして、たくさんの人がそれぞれに雑談しているなかでも、君が興味のある人の会話とか、とっさに君の名前が話題に出てた時などは、自然と聞き取とれたことがないかな?」
女医の先生は本から一旦顔を上げて僕の表情を窺ってくる。
「たしかにそういう時はあったかもしれません」
実際のところは教室にいても僕はたいていイヤホンで耳を塞いでいるのだが、そうした経験はあったようは気はする。
僕がそこまでの話は理解できたことを表情で確認するとまた心理学と書かれた本に視線を落としながら話を続ける。
「声も音。人間は音を処理する場合、必要な情報だけを再構築していると考えられているの。この機能は音源の位置、音源毎に異なる音の基本周波数の差があることによって達成されると考えられているわ。つまり、このような音源位置の差や基本周波数の差をなくした状態で、複数の人の音声を呈示すると、聞き取りは非常に難しくなってしまう」
教室の喧騒で誰かの話声が聞き取れる例の話まではすぐに理解できたけどこの説明についてはよく理解することができなかった。
「先生、そのカクテルなんちゃらと僕の症状との関係が理解できないのですが」
説明に理解できなかったことへ少し苛立ちを感じてしまった。
「もう少しだけ話の続きを聞いてね」
女医の先生は僕の心情を察しったような仕草をみせつつ、さらに説明を続ける。
「聞きたい人の声の特徴や、その人が話であろう会話の内容や口癖などについては、実際にはその音声が確実に存在しているというボトム・アップな証拠がないような場合でも「聞こえたつもり」に感じることができる。また、実際のカクテルパーティ、ごめん、ここではざわついた教室のことね、のような状況では、話し手を視覚的に確認することができることによって、その人の口の動きなどから得る情報で、聞こえを補っている可能性も否定できない」
女医の先生は心理学の本について少し補足しながら説明を続けてきた。
「それは、聞きとれない音を補間出来たり、また、聞こえた音の中でも、都合のよい音が、脳に伝達されると、考えられる」
「難しいかな?でも次が最も大事なところだからしっかり聞いてね」
問診というよりも授業を受けている気分だ。
女医の先生は一呼吸おいてから確信について話を切り出した。
「さらに音楽においても、オーケストラの演奏などにおいて、複数の楽器がそれぞれ別のメロディを奏でている時にも、特定の楽器のメロディだけを追って聞くことができるのも、同じ効果、これがカクテルパーティ効果と言われるわ」
先生は本を机の上に置き、椅子の背もたれに少し体を預け、天井に視線を泳がせながら言葉を探している。
「喧騒のなかでも聴きたい声、音を認識することを人はできるの」
「だけと君はまったくの逆の効果が現れてしまっていると考えられるわ」
「見たくないものがあれば目を反らすよね」
女医の先生が目を手で覆う。
「臭いものがあれば息を止める」
女医の先生が手で鼻をつまむ。
「そして、聴きたくない音があれば耳を塞ぐ」
女医の先生が両手で両方の耳を塞ぐ。
なんだか日光の三猿のポーズのようだ。鼻ではなく口だったらまさに。
「こうやって手を使えば耳を塞ぐことってできるよね」
「だけど君はそれを無意識がやってしまっているの。手ではなく脳が。今の君にとって音楽は聴きたくないものなんじゃないかな?音楽だけを脳が遮断させ、無意識に思考回路を別のところにもっていってしまっている」
「何かに集中していると周囲の音なんて聴こえなくなるじゃない?」
「今の君は、聴きたい音だけを聴き取るカクテルパーティ効果が充分に機能できていないと考えられるわ」
先生は診断結果についての説明は「以上です」と口にしているかのような表情をしながら視線をまた僕の顔に戻してきた。
「ピアノを幼少の頃から弾いていたから聴覚が通常の人よりも発達していると思うわ。その分、感覚が敏感だからこのような症状が起きているのかもしれないね」
「音を拒絶したくなるような出来事ってなかったかな?」
その日の診察はそこで終わった。僕がだまりこんでしまったのもある。
先生は、治療ははじまったばかりなのだから焦らなくていいよと言ってくれた。
音楽を拒絶したくなる原因となった日のことは覚えている。ただまだ、診察のため、医者だからといっても出会って日の浅い他人に胸の内を告白することは躊躇う。そして言ったところで何が解決するのかとまだ精神科医に対する懐疑心もあったからだ。
一方で症状についての説明が少しでも付いたことへの安堵もあった。原因がわからないことが不安を助長させ恐怖が増してしまうからだ。音楽を無意識で拒絶してしまっているという診断結果は今の僕の症状を知るうえで有益な情報であったことは間違いない。
*
僕が音楽を拒絶するようになったきっかけ。
それはさらに遡ること5月の連休中の出来事。
僕は、ピアノコンクールで敗退した。
名演奏なんてもうとっくに世界には溢れている。名盤と呼ばれる録音もごまんとある。偉大な演奏家と今更勝負するなんて馬鹿馬鹿しい。僕は今の生きる時代の演奏家に勝てればいい。コンクールで勝つ。音楽性だなんて知らない。
中学生になってゲームセンターに初めて足を運んだ時だった。音楽に合わせてボタンを叩く、所謂『音ゲー』なるものを知った。ノーミスでクリアすることで周囲から賞賛の声を浴びている姿に目を奪われた。つまりはそういうことなのかと考えるようになった。
コンクールで勝つにはミスをしないこと。サイボーグと化すれないいだけ。高難度な曲をいかにミスなく速く弾く。
音ゲーと同じ。
そして他人に勝ち一番になる。
承認欲求が満たされればそれでいい。
ピアノは競技。陸上選手が誰よりも速く走り一番でゴールすることが目的なら、僕がやろうとしていることとさほど違いはないことだ。陸上だって毎回世界新記録が出ているわけじゃない。それでも人はその大会での一番の者に対して最大の賛辞を贈る。
僕は難曲と呼ばれるリストの超絶技巧練習曲に取り組み、そしてピアノコンクールに挑んだ。
僕は二次予選までは通過できたものの三次予選で敗れ本選には進めなかった。
ミスタッチがあったのか?
速度が遅かったのか?
思い返しても事故となるレベルの演奏はしていないと自己分析している。
二次予選までなんなく通過できた。当然の結果と思った。僕がやってきたことが肯定されていると確信できていたことが一夜で否定に変わった。たかが17年の人生。それでも17歳の僕が信じたことに裏切られる。信念が折れた瞬間だった。
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