能力者主義の世界で俺は無能なチート能力者

高桐AyuMe

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本編

天王山

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  試験開始から5日目。
  終わりが見えてきたこの試験において、俺たちのチームは1番の山場を迎えようとしていた。
  Aクラスでも舞原と肩を並べる実力を持つ能力者。西園寺幸助にチームとの一戦だ。
  ここまで俺たちは全戦全勝。一昨日舞原にアクシデントがあったものの、昨日のうちに一時リタイアさせておいたことにより、充分な休養を取り体調は万全なはずだ。
  そして対する西園寺のチームも同じく全戦全勝。どちらもボーナスチャンスを一度使い、得点は同点。
  まだ二日と残っているこの試験だが恐らくは天王山となる試合になりそうであった。
  
  俺は微睡の中から意識を覚醒させると、素早く手を伸ばし枕元に置いてあったスマホを手に取る。
「勝った……」
  スマホにセットしておいたアラームがなる前に止められたことにぼそりとつぶやく。
  そのことに満足した俺はあくびをかみ殺しながら洗面所に向かった。
  そのまま身支度を整えると、まだまだ舞原に言われた集合時間まで時間が有り余っていたが、食堂でゆっくり朝食を食べている時間はなさそうだ。
  まあ、元々疲れ果てた体を少しでも休めるために睡眠時間を長くし、朝食はこの宿舎に備え付けられたコンビニで済まそうと思っていたため、何ら問題はない。
  俺は朝食確保のため、コンビニへ向かった。
  
  朝食を買い終えると、一々部屋に戻って食べるのは効率が悪いと思い、ロビーのベンチで食べることにする。
  袋を開封し、パンに噛り付く。
  そのまま食べ進めていると見知った顔を見かける。あちらも俺に気づいたようでゆっくりと歩み寄ってきた。
「食堂で見かけなかったと思ったらここにいたのか」
「ああ、生憎と時間がなくてな」
  近寄ってきた人物―汗衫は俺に問いかけながら同じくベンチへと腰かける。
「別に試験開始まではまだ全然時間があるじゃないか。わざわざコンビニで済まさなくてもよかったんじゃないか? けっこうここの食堂おいしかったぞ」
「舞原が試験開始前に集まるように言われてるんだ。なんか作戦とか何とか説明してるんだが、ぶっちゃけ俺は興味ないし。ただ、集合時間に遅れると殺させるんでな」
「え、舞原さんってそんなに時間に厳しいのか……」
  汗衫は驚愕の意を示す。俺は食べ終わったパンの包装紙を丸めるとすぐ横にあるごみ箱へと入れた。
「で、成績のほうはどうなんだ? 汗衫のチームは中々の実力者がいるだろ」
  俺は自分が実際に手合わせをした感想を交えて問い掛ける。
「順位は見てないのか?」
「俺は別に自分の順位さえ分かればいいからな」
「まあまあかな。お前のところを含めて敗戦は少なからずあるけど、ボーナスチャンスをうまく使って賄ってるよ。そういう零はどうなんだ、って聞くのは野暮か……」
  未だに全戦全勝のチームは舞原のチームと西園寺のチームのみ。既に戦い続けて4日も経っているのにも関わらず、まだまだ連勝記録を伸ばしていくたった二つのチーム、率いる二人のAクラスのエースの戦績を知らないわけがない。
「そういえば今日か、最強決定戦は」
「まだ試験は終わってねえよ」
「そうかもしれないけど、今日から全勝したってこの二つのチームを抜くことは不可能だ」
「分かんねえよ? もしかしたらこっから全敗もあり得る」
「でも負けるつもりは?」
「毛頭ないが?」
  ここまで来て今更わざと負けるなんて冗談じゃない。そもそも乗り掛かった舟を降りるなんてことは俺のプライドが許さない。
「なら大丈夫だな。はっきり言って、お前に勝てる可能性があるやつはこの学校じゃそういないだろ。言うなら、舞原か西園寺か」
「ずいぶんと俺のことを買って出るじゃないか。どんな心境の変化だ?」
「俺が直接戦って感じた感想を言ったまでだ。嘘偽りはない」
「そうか……」
  汗衫にもどこか感じたものがあったということだろう。
「まあ、精々期待に沿えるよう努力するさ」
  そう言って俺は立ち上がり、集合場所へと向かう。
  そこまで言うのであれば俺もやる気にならざるを得ない。
  褒められてうれしくないやつはこの世に存在しないだろう。

  俺が集合場所に到着すると既にほかの二人は集まっていた。
「お前ら、少し早すぎやしないか?」
  俺がそう声をかけると、二人―舞原とミサは会話を中断して俺に目を向ける。
「あなたが遅いんじゃないの?」
「いや、時間ぴったりなんだが……」
「世の中はね、五分前行動ってもんがあるのよ」
「そんなことは知っている。ただ小さな集まりでこんなに時間に厳しいものなのか?」
「時間のゆとりは心のゆとりと同義よ」
「何だその、○○の乱れは心の乱れみたいな言葉は。聞いたことない」
  いつもに調子の二人に嘆息しつつ、俺もいつもの調子で聞いた。
「で、作戦は何だ、舞原先輩?」
「その呼び方ムカつくし、きもいからやめてくれないかしら?」
「すみません……」

 天王山の決戦を控えた俺たちだが、肝心の試合は第5試合。つまりはその前に4試合もあるということだ。
 体力を疲労が心配されるが、その点は問題ない。
「瞬殺して休養の時間を無理矢理確保すればいいだけの話だ」
「ええ、その通りね」
 第一試合のステージで発した俺の言葉に舞原が首肯の意を示して答える。
「いや、普通疲労を癒やすためにって理由で瞬殺なんて簡単にするようなもんじゃないから……」
 ミサの冷静なツッコミを華麗にスルーし、対戦相手を見据えた。
 
 スタジアムは試験始まって以来の最高の熱気に包まれていた。
 理由は明白。現在全戦全勝の二チーム、Aクラスのリーダー同士の直接対決の試合が行われるからだ。
「流石に人が集まりすぎじゃないか? ワールドカップじゃないんだから」
「まあ、それなりに有名人であることは自覚してるわ」
「元々西園寺と千歳が戦ったことは一度もないのよ。ただ同じ年で二人とも驚異的な記録を更新し続けてるから比べられているだけ。つまりは皆興味深々なのよ。最強はどっちなんだってね」
「なるほどな。まあ、実際俺も舞原とは一度手合わせをしたが、西園寺とは戦っているところさえ見たことなかったからな。正直どっちが強いかはやってみなきゃわからない」
「そこは噓でも千歳っていう場面でしょ」
「一般人としての感想を代弁しただけだ」
 舞原は、強い。それは確信であるし、これからの『警察』という組織では間違いなく組織全体を支える人材になる素質、能力を持っていることはもはや言うまでもない。
 だが、西園寺はこの試験で初めて戦っている姿を見たが、舞原と比べられても差し支えない実力だった。
 恐らくはどっちかの実力が頭一つ抜けているとは考えられない。つまりは互角の実力差。だとすれば、勝利をつかむためには……、
 (ハハハ……、責任重大じゃねえか)
 実力が拮抗してるのなら、一対一にどれだけ介入できるか。つまりは長い時間数的優位の場面を作り、無理矢理突破口を開く。これに限る。
 俺は冷静に戦場となるステージを見つめる舞原を一瞥した。
 恐らくは理解してなお、俺たちに勝利をゆだねようとしている。言うなれば信頼、期待を寄せている。
 なら、俺はそれに応えられるだけ応えるよう努力しよう。
 
 時は、訪れた。
 ステージに上がった俺は前に立つ西園寺のチームを見た。
 もう言葉はいらない。
 静寂に包まれる空気で十分だ。
「双方メンバーのリタイアなし。ボーナスチャンスの申請なし。よってこれより試合を開始する」
 教師の高らかな開戦の宣言が発せられると同時、西園寺、そして二人のメンバー、秋田あきたよう千山ちやま倫太郎りんたろうが一気に仕掛けてきた。
 明らかな不意打ち。一瞬にして眼前にまで迫るスピードに通常なら面食らってそのまま倒れて終わりだろう。
 10メートル近くあった距離を一気に詰める。と言ってもそれなりに時間はかかる。俺たちは冷静に、予想通りだと頭で理解してから行動に移る。
 俺はそのまま突っ込んできた秋田を空中で蹴り飛ばすと、無理矢理一対一の状況を作り出した。と、同時に舞原目掛けて突っ込んできた西園寺の攻撃は舞原には当たらなかった。
 言うなれば、既に攻撃した場所には舞原の姿はなかった。舞原は奴らの動きと寸分違わぬ速さでミサと場所交換し、千山の攻撃を受け流すとこちらも一対一の状況を作り出す。
「貴様が俺の相手か」
 全ての不意打ちを防がれた西園寺は動じる様子もなく、悠然と対峙したミサを見据える。
「あんたの攻撃、通せるものなら通してみなさい」
 瞬間、俺と戦った時の倍、いやそれ以上の防御魔法を展開する。
「防ぎきってからいうといい」
 鉾と盾の譲れない戦いが始まった。
 俺も舞原もミサの力を信頼している。だからこそこの戦い方を選んだ。いくら西園寺といえどこの防御には手こずるはずだと、簡単には突破できないと、そう信じたからだ。
 だからこそ俺たちはミサに西園寺を任せ、一対一に集中する。
 ……その刹那の出来事だった。
 まるでガラスが割れるような大きな音が何度も響き渡った。
 それは一度聞いたことがある音で、俺が実際にミサと戦った時に聞いた事がある音で。それがミサの防御魔法が破られた音だと理解するのに1秒もいらなかった。
「ミサ!!」
 なすすべなく破壊された防御に驚愕するミサに向けて拳を固めた西園寺は、しかし、頭が理解するより早く、体が動いた。
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