能力者主義の世界で俺は無能なチート能力者

高桐AyuMe

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本編

迷わない

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 瞬間、俺は考えるよりも先に体が動いていた。
 仕掛けてきた秋田の拳が俺にたどり着く前に手首を掴むと、こちらに引きずり込む。勢い余ったようにつんのめった秋田の背中を蹴ることによって加速。
「舞原!」
 加速すると同時、俺は舞原の名前を呼ぶと、舞原がこちらを一瞬見る。そして、すぐに俺の意図をくみ取ると持っていた槍を俺へ軽く投げてきた。俺はそのままその槍を蹴り飛ばし、ミサと西園寺の間へ。その間に俺は地に片足をつけるとそのまま地を蹴り再加速。今まで以上のスピードで西園寺の眼前へ。
 西園寺はミサへの攻撃をキャンセルし、突如飛来した槍を薙ぎ払う。そしてもう一度拳を振り上げた。が、もう遅い。
 俺は猛スピードで西園寺とミサの間に割って入ると、その間にミサを軽く突き飛ばして、一時の危険を回避させる。
 少々手荒な対応になったが、少しは我慢してほしい。
 西園寺は標的がミサから俺に変わったことにはためらわず、迷いのない攻撃を放つ。俺はそれを真正面から受け止めた。
 思わず耳を塞ぎたくなるほどの轟音が響き、その音に負けず劣らずの拳の威力が受け止めた手のひらを伝って腕へと響く。
 感じたことないほどのしびれを腕に感じた俺は、一瞬顔をしかめるが、すぐさま西園寺と距離をとる。
 ……正直言って危なかった。あんな威力の攻撃なんか食らったら、打ち所が悪ければ死すらあり得る。うまく受け止めたとしても、骨の二、三本が折れることは間違いないだろう。
 まあ、それがその事例に俺が当てはまるかと問われれば勿論、首を横に振るが……。
「あんた……、なんで?」
 ミサが有り得ないといった風に俺を見る。
「なんで? それを聞くのは野暮ってもんじゃないか? 仲間は助け合うものだろ」
「それでも、私を信頼していた。私の防御が破られることは考えていなかったはず。なのにあんたは瞬間的に反応した。それについての理由を聞いてるの」
「信頼していたというのは正解だ。だが、防御が破られることを考えていなかったわけじゃない。あらゆる可能性を考えていた結果の行動だ。まあ、一撃で破られるとは思ってはいなかったが、反射的な反応で何とかなった」
「あんた、ずっと思ってたけど何者?」
「その答えは勝ってからするとしよう」
 そして、俺はミサに秋田の対応に行かせ、西園寺と対峙する。
「不思議だな、椿零」
「何の話だ」
「さっきの一撃。骨が折れるぐらいのダメージは与えられたと思ったのだが、まさか無傷だとは」
「確かに外傷はないが、腕は尋常がなくしびれてるし、全くと言っていいほど無傷じゃねえよ。骨が折れなかったのは元々人より少し骨太なんだ」
「骨太、か。とてもそれだけの話には見えなかったがな。だが、身体能力が高いということは納得できた。無能力者を名乗るだけはあるようだな」
「いつまでも上から目線で物言えると思うなよ。その伸び切った鼻、へし折ってやる」
「やれるものならやってみろ」
 その言葉を言い終える前に俺は動いた。
 予備動作を極限まで省いた一切無駄のない動きで、西園寺の懐へと潜り込む。狙うはみぞおちへの一撃。だが、西園寺も鋭い反射を見せ、一、二歩退くことによって攻撃を回避する。
 俺は攻撃をキャンセル。胸部への一撃に変更するが、一瞬遅れたことによりそれも回避される。
 不意打ちに近い形でこちらから仕掛けてみたが、有効打となるダメージは与えられず。西園寺との距離はより一層開けられることになった。
 先程の攻撃で俺の間合いを読んだのか、その読みに乗じての西園寺の対応だった。
「浅はかだな。お前が言う無能力者ということを信じれば、俺への攻撃は素手による打撃のみ。事実、今までの試合での戦い方で打撃による攻撃しか行ってきていない。無能力者なら仕方のない話だがな」
「だが、お前が仕掛けてこないのはその浅はかで単純な打撃による攻撃を恐れての行動だろ。お前が警戒して自由に行動できないのであれば、どれだけ浅はかでも十分効力を発揮しているといえるだろ」
「勘違いするな。お前から仕掛けてきたのに対して対応しただけだ。元々、自分から仕掛けるような戦い方ではない」
「屁理屈も理屈ってか」
 そう言って、俺は腰を落として臨戦態勢をとる。
 それに応じて西園寺も一歩足を前に踏み出す。
 俺は西園寺が攻撃を警戒していると理解した上で、思い切り地を蹴り、直線的な軌道で西園寺に迫る。
 すると、西園寺の肘が少し後ろに下がる。すぐにカウンターが来ると予測した俺、空中で急ブレーキをかけながら西園寺の真正面に片足で着地。そしてそのまま踏み込んで、跳んだ
 西園寺にとっては予想外の行動だろう。仕掛けてきたと思っていた者が突然、直前で跳躍し、自分の頭上を飛び越えていったのだから。
 そして、西園寺が俺を視線で追えば、次に視界に入るのは……、
「戦場でよそ見は禁物よ」
 瞬間、西園寺は回避行動を余儀なくされる。後ろに大きく飛ぶことによって、その攻撃を回避した。。それまで西園寺がいた場所を回避行動から0.1秒もかからず何かが薙ぎ、残像が残る。
「次から次へと、厄介な戦い方だな」
 改めて西園寺は目の前に対峙する少女、舞原千歳見据えて言った。
「それはどうも。どうやら観客がこの組み合わせを期待していたようなのよね」
 そう言いながら、舞原は妖艶な笑みを浮かべた。
 
 金属同士がぶつかるような音が響き、戦いっている秋田は一度仕切り直して距離をとる。
 それに対して私は、ミサは今一度防御魔法を展開する。
 しかし、思うような展開ができず乱れた防御魔法を治す程度に終わる。
 思うようにいかない理由は明白だ。心が、精神が落ちついていない。要は動揺している。
 私のせいだ。作戦通りに行けば私が西園寺を足止めしなきゃならなかったのに、10秒も持たなかった。
 結局、私の自信のあった防御魔法を一瞬で打ち破れられ、戦闘不能を覚悟したが、間一髪であいつが間に割って入った。
 自信が崩れていくのと同時に、情けない気持ちにかられる。二人は必死に戦っている。勝つための道筋を残そうとしている。
 でも、私は……
「どこ見てる」
「……っ!」
 瞬間、私の意識は現実に引き戻される。不完全に展開された防御の穴をくぐって、秋田の攻撃が迫る中、放たれた拳は吹き飛ばされた。
 あいつが、椿零が蹴り上げたせいだ。
「ボーっとしてんな。集中しろ」
 零は私には目もくれず、私を?責する。
「ごめん……」
 謝るしかなかった。何もかも私が悪い。今この状況を作ったのは私が原因で、零が私をカバーしなければならない戦況も全て。
 昨日もそうだ。舞原がリタイアをして私と零の二人になったとき、チームを前進し続けたのは誰だ? それに対して私は何をしていた? 何ができた?
 零はたった一人で三人をも相手をして、それを何試合をこなして全戦全勝という記録をつなげた。
 もしかしたら、舞原を無理矢理リタイアさせたからこそ彼が責任を全うしようとしていたのかもしれない。だけど、チームとして背負うべき事態であった。
 それでも私は何もできなかった。
 怖いのだ……。
 いくら私が学校で強い防御魔法をできたとしても、所詮井の中の蛙なのだ。
 そして、さっきの出来事でそれすらも勘違いだと知った。
 元々、私は戦闘に向いてない。闘いに対する恐怖心が私を支配する。
 相手の攻撃が怖い。自分の知らない能力で攻められるのが怖い。下手したら命を奪いかねない武器が怖い。誰かが傷つくのが怖い。私が傷つくのが怖い。
 当然だ。私は別に戦闘の訓練なんて学校に入る前に受けたことなんてない。能力者というだけでそれ以外は普通の学生だ。そんな普通の女子学生がただ能力を持っているというだけでこの学校に入学され、いきなり命をも危険にさらされるような実戦に巻き込まれる。
 そんなの、恐怖心を抱いて当然だ。
 だからこそ、私はこの能力で自分を守って恐怖から目をそらしてきた。虚勢を張って軽口をたたいて強気な言葉を吐いて自分を強く見せていた。でもそれは限界に達した。私を守っていた能力は打ち破られ、目をそらしていた恐怖は私を容赦なく支配していく。
 もうダメだ。もう私は戦えない。
 だが、そんな私の考えを払拭するかのように、零は淡々と言った。
「謝罪するなら、降りろ」
「……え?」
「謝罪するなら、ステージを降りろって言ってんだ」
 まさかのもう戦うなという零の言葉に私は驚きを隠せない。
「なんで」
「うるせえな。いつまでも過ぎたこと引きずって足引っ張るならいないほうがいいって言ってんだよ。お前がこの戦況を作ったんだろ。お前が原因なんだろ。だったらお前が何とかしろ。俺はお前の尻ぬぐいなんかしたくはない。それができないなら降りろ」
「……」
 零は勿論、私の恐怖心なんて知らない。恐らくは私の能力がいとも簡単に破られたことを言っているはずだ。それでも何も感じないわけじゃなかった。
「それを決めるのは俺じゃない。やるのか、やらないのか。さっさと決めろ。決めないなら俺が場外に蹴飛ばすぞ」
 それ以上は言わない。というか、こいつなら本当に蹴飛ばしかねない。
 ただ、私には恐怖心よりも気に食わない事があった。
 こいつに貸しを作ること。絶対に嫌だ。こいつにだけは貸しは作りたくない。どうせこれが終わったらあーだこーだって貸しを盾にしていろいろ言ってくるんだ。
 そんなこと気に食わない。こいつにだけは負けたくない……!
 だから私は、恐怖心を忘れてただただこいつに負けたくない一心で叫んだ。
「うるさいのはそっちよ。何勘違いして『女子守った俺ってかっこいい』とか思っちゃてんの?」
「いや、一ミリも思っちゃいないが」
「余計なお世話だって言ってんの。さっさと相手倒して私を手伝ってくんない? 私、守ることはできても攻撃できないから」
「威張るなよ。そして上から目線でものを語るな」
 そんな愚痴を吐き捨てて、零は千山の対応に走った。
 あいつのおかげで目が覚めたのは気に食わないけど、それでも今は感謝する。
「もう、迷わない」
 ずっと引っかかっていた懸念は消えた。恐怖心がなくなったわけじゃない。だけど、今そんなただの気持ちで振り回されている暇じゃない。迷いもためらいも何もない。ただ、あいつに勝つ……!
 視界の端で秋田が飛び掛かってくるのが見えた。でもあわてる必要はない。
 既に防御魔法の展開は終了している。
 金属に跳ね返るような音が響き、秋田が顔をしかめる。どんな能力だろうともう彼の攻撃が私に届くことはない。
「そんな防御なんか、打ち破ってやる!」
 すぐに態勢を整えた秋田は目にも止まらぬ速さで……、いや実際に肉眼ではとらえきれないスピードで迫ってくる。
 このことから推測して彼の能力は瞬間移動とか、そのような類だと考えるのは浅はかか。
「終わりだ」
 その声は後ろから。でも、後ろに回ったとしても既に展開は終わっている。
 秋田は背中からの攻撃は通らないと判断すると、そこらじゅうを走り回り隙を探す。が、時折仕掛けてくる攻撃も防いで見せる。
「なんで!?」
 反応できるはずがない。そんな驚愕の表情を浮かべる。
 当たり前だ。先程の展開する早さとは全く異なる。極限を越えた速度での展開。それがどれだけ瞬間移動で迫ったとしてもその速さをも軽く上回る。
 これが私が求めた戦い方だ。
 
 
「ちっ……くっそ」
 僕は顎まで垂れた汗をぬぐい、今一度敵を認識する。
 対峙する男。かつて最弱ともいわれた無能力者の男が悠然と僕の前に立っている。
 戦い続けて、ここまで攻撃が一回も通らなかったことは初めてだった。普通はどれだけ防戦一方でも一、二回は攻撃のチャンスはあるのだが今回は違った。
 そもそも奴に触れることさえできない。闇雲に攻撃を放っても当たる気配は微塵もない。
「どうした? もう終わりか?」
 余裕ぶった表情でこちらを見る最弱の男、椿零。
「千山、お前の能力は発生する力を操る能力だろ?」
 突然、彼が発したのは僕の能力に関する発言だった。
 図星を突かれた僕は黙りこくるしかない。
 奴が言ったとおりだ。
 僕の能力は発生した力を操る能力。発生する力学的エネルギーから、摩擦なども含めて操ることができる。重力や垂直抗力など例外はあるが、基本的にはほとんど操ることができる。つまり、自分が運動したときに能力を使えば、拳の力も地を蹴る強さも自由自在。
 だが、その力を行使してもなお自分が勝てるビジョンは思い浮かばなかった。
 それほどまでに感じた圧倒的実力の差。能力ではなく身体的な大きな差がここまで苦しめるとは。
 でも、まだ勝機はある。結局はどれだけ守っても倒すためには攻撃するしかない。ならば、それに合わせてカウンターを……。
「カウンターを……、と狙ってるようだが、そもそも反応できなきゃ意味ないよな」
 突如として発せられた言葉は背中から聞こえ、僕が後ろを振り返る前に意識は刈り取られた。
 
「は~。思ったよりも楽だった」
 俺は腕時計に点滅したランプを確認して倒れた千山を場外まで運ぶ。
 いつもなら放っておいてもいいが、さすがにこの試合は危ない。何しろAクラスのエース二人の直接対決だ。巻き込まれることはたやすく想像できる。
「まあ、俺ももたもたしてる暇はないんだがな」
 半ば無理矢理舞原を西園寺の相手に任せてしまった。
 の前に、
「ミサのほうが先か……」
 そう呟いて、俺はミサのヘルプを優先して秋田の対応に急いだ。
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