能力者主義の世界で俺は無能なチート能力者

高桐AyuMe

文字の大きさ
32 / 55
本編

終止符を打つとしよう

しおりを挟む
  一瞬の出来事に理解がいまだ及ばない頭を何とか活性化させつつ、この状況を整理する。
 ただの誰も油断などしていなかった。全員の共通認識として、一気に引き上げられた最大レベルの警戒をしていた。それでも、今目の前で起こった事実に説明をつけるならば、
(それらすべてを凌駕して、一瞬にして舞原たちを倒した。ということか)
  逆にそれでなければ説明がつかない。つまりあの静寂は西園寺にとって力をためるという選択肢の表れ。そして、今になってそれを解放して爆発的なパワーを生み出した、と。
(そんなの反応できるわけねえな……)
  現に西園寺の動きを目で追うことが出来ず、今になって過去形として考えている。
  だが、考えがまとまり諦めという結論を出したことによって、思考がクリアになっていく。
  今やるべきことが、既に選択肢にはできないほどに定まった。
 さて、そろそろこの長い戦いに終止符を打つとしよう。

「これで純粋な一対一だな、椿零」
「俺にとっちゃ負け同然な状況だ。それに一対一っていうのは同じくらいの実力者がやるもんなんだよ」
「まだ、謙遜するつもりか?」
「お前のほうが下に決まってんだろうに、寝言は寝て言うんだな」
「今のを見て、まだ戦意は薄れないか。無能力者かどうかの疑いがさらに深くなるな」
「戦意?  そんなものは最初から持ち合わせてない」
「何?」
  そもそも俺はこの試験への意欲は全くない。ここまで戦ってきたのは舞原の考えに合わせてきただけのこと。そこに戦意もクソもない。
  それに、
「で、こんな関係ない話をしてまた同じことをするつもりだろう?  そりゃあ、俺が反応できなかった攻撃方法だからな。当然のことだ」
  わざと会話を挟んで先ほどと同じように力を溜めて一気に解放する。先ほどと同じだが、俺は反応できずに状況理解に終わった攻撃。有効打といえば有効打ではある。が、同じ手が二度も通じるとは限らない。当然、俺はそれを警戒するし、打開策だって既に考えられている。
 果たしてそれが通じるかは別問題として、俺一人でやらなければ負けるのだ。
   一度、深呼吸。今一度集中する。思考を止めて、視界すらもクリアに。敵を、前を見据える。
   そして、一瞬視線をそらした。
   刹那、西園寺は動く……!
   恐らく、俺のような常人の動体視力ではとらえきれない速度。ならば、視界に頼らなきゃいい。目を閉じ、右腕を少しだけ撫でた。そこから流れるような動作で右拳を振りかぶると迷いなく打ち込んだ……。

   ……。先ほどとは打って変わってしんと静まり返る会場。そんな不気味な静寂の中、俺はやっと吸い込んだ息を吐き出し、その場に座り込んだ。
   その一連の動作の後、止められた時が戻ったかのように歓声がわいた。
   俺の近くには完全に伸びた西園寺があおむけで倒れている。
   視界に頼らず、感覚だけで戦うというのは俺の一種の博打だった。
   基本的には視界が失われれば、五感が得る情報というのは激減する。だが、その分、ほかの器官に集中しやすい。そして、決め手となったのは俺の本能による反応速度だ。この戦いも含めて、本能により考えるよりも先に身体が動いている。ということは少なくなかった。明らか西園寺の速度は、考えていたら反応は間に合わない。
   その結果、博打としてその本能、反射にかけることにした。そして、それをより生かすためにわざと五感からの情報をシャットアウトし、集中力を高めつつ、フラットに構えた。
   一撃で決めるという前提条件から放たれた渾身の一撃は西園寺の顔面へ突き刺さった。自身の速度と相まって爆発のような轟音が響き渡り、西園寺は倒れた。
   まさかここまで追いやられるとは思っていなかったが、まあ結果が問われるこの世界では過程など些細な問題だろう。
   何はともあれ、天王山となるこの戦い。恐らく、この試験において最大に激化したこの勝負は俺たちに軍配が上がった。
 この激戦を勝ち抜き、目標として掲げるランキングトップへの道。全勝という結果を守り抜いたのだった。

「ハハハ、……冗談でしょ?」
   勝負を終え、備え付けられた救護室にいた俺は、舞原とミサの現在の状態を聞き、思わずそう漏らした。
「外傷は少ないものの、骨折や内出血が多く見られます。私の能力で治すことはできますが、今日のところはリタイアという形をとらざるを得ないです」
「まだ試合、残ってんだけど……」
   え、後2、3試合を俺一人で戦えと?   いくら何でも俺に任せすぎでは?    俺も結構ボロボロですが?
「残念ながら、今日のところは面会も難しいです。ただ、明日には完璧に直しておくので、今日のところはお帰りください」
「はあ……。分かりました」
   絶望的な事実を突き付けられ、俺は頭を抱える。
   さて、どうしたものか……。
   圧倒的に不利な状態で俺は会場へ向かった。
 まあどうするかとか、もう選択肢なんて残ってないんだけどな……。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

処理中です...