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次の獲物

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ジュウゾウとシルフィーは町中を回っていた。
こうやって町をうろつきながら、地面に落ちている金目の物を探し回っているのだ。
いわゆる「地見師」という商売だ。
地見師とは地面に落ちている金品を拾う事を生業にする者を指す。

日本だと江戸時代からあった商売でもある。
勝海舟はこれを著書である<氷川清話>の中で、
『地見と云ふは地を見て金の落ちたり隠したりしてある処を探し当てて、商売にする者也』と言っている。

「あそこに1オーブ落ちてたわよ」
シルフィーが道端の隅に落ちていた硬貨をジュウゾウに渡す。
「へへ、ラッキー」

オーブはこの世界の貨幣単位の一つだ。
ちなみに町の日雇い労働者の日当が30オーブほどになる。

ジュウゾウが地見師という商売を始めたのは、他のきつくて泥臭い仕事をしたくないという事と、
犬も歩けば棒に当たるで、何か面白いことでも見つかるんじゃないかという思いつきからだった。

はっきり言えば行き当たりばったりで計画性に乏しいのだが、
それでも何もせずに一日中テントで過ごすよりは良いとも言える。

町の表通りからL字路に入ると、この前潜り込んだ路地裏のトイレをチェックする。
だが、誰もいないようだ。
「ああ、あの時吐かずにきちんと食えてればなあ……」
「過ぎた事を言ってもしょうがないわよ」
「わかってるよ……ああ、でも、美人のウンコなんて、中々手に入らないだろうな……」

そう、ぼやきながらジュウゾウは、後ろ手に頭を組んで空を見上げた。
今日もいい日和だ。晴天の青空に白い雲がゆっくりと流れている。
「ねえ、なんで空が青くて雲が白いのか、ジュウゾウは知ってる?」
「んな事知らねえし、別に知ってても意味ねえし」

興味がないと言いたげにジュウゾウが欠伸をした。

それでもシルフィーは気にした様子もなく続ける。

「あれはね、太陽の光が大気の分子や粒子を四方八方に飛び散らせるからなのよ。
それを『レイリー散乱』って言うわ。
太陽光は七色で出来てるのは知ってるでしょう?いわゆる虹色ね」

「ああ、そういえば虹って七色だったな、確か」

「そうよ、その七色の中で青い光が一番散乱するから空は青く見えるのよ。
青い光の散乱率は赤い光の五万倍くらいかしらね。
それから夕焼けが赤く見えるのは、太陽の光が大気圏から来る距離が伸びるからよ。
その時に紫や青、緑といった光が散乱して取り除かれるからなの。
反対に赤や黄色が残るんだけどね。だから夕日は赤や橙なわけ」

「へえ」

「それから空が白く見えるのは、青色の光の粒子よりも大きい粒子を太陽光が飛び散らせるからよ。
その時に七色が均等になって、空は白く見えるの。
これを『ミー散乱』っていうわ」

「ふうん」

「この原理を応用して、光源を使ってタバコの煙を青くしたりする実演を見せる科学者もいるわ」
「あっそ」
ジュウゾウは心底興味がないと言いたげに生返事を繰り返した。

耳の穴をほじりながら、横を見やるジュウゾウ。
その時、向こう側から早足でトイレに駆け込んでいく少女の姿がジュウゾウの目に飛び込んできた。
「おお……いくぞ、妖精っ」
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