アース ダンジョン核を持つ少女

生けもの

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1章 期待の新人探索者

007 作物泥棒

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 ー≪食堂(質より量)裏手の畑≫ー

「母さん、やっぱり駄目だよ」
「そうだねぇ、少しは料理に使える材料が出来るかと思ったけど無理かねぇ」
 食堂『質より量』の裏手にある小さな畑を前にして、ユッテとマリアンナがため息をついた。
「ねぇ、ユッテ。ここはなに?」
「ここは母さんが食堂を始めた時に店と一緒に買った畑なんだ」
「ふうん、でも何も無いよ」

 目の前の畑は、何かを植えたような跡が見て取れたが芽が出るような気配は感じられなかった。

「そうなんだよ、何を植えても育たなくてすぐ枯れちゃうんだ、高級食材が採れれば、儲かるんだけどなぁ」
「ここで作物が採れれば新鮮な状態でお客さんに出せるんだけどねぇ」
「「はぁ…」」

  理由はそれぞれだが、マリアンナとユッテが揃ってため息をついた。

「ここで眺めていたって芽がでるわけじゃないし、私は今夜の仕込みの準備にもどるわ。ほらあんたも手伝いに戻りな」
「はぁ~い」


「はぁ~、残念、母さんのジョガイモの蒸しや、ガボチャの煮込みは絶品なのになぁ」
「それ、美味しいヤツ?」
「ああと~っても美味いヤツだよ、こう、熱々のガボチャに切れ目を入れて中にバタタを挟んで食べてる間にとろ~っとなってきたところをパクって…」

 ユッテの話を聞いて、マリアンナの絶品ジョガイモの蒸しがアースの頭の中を埋め尽くす。口に入れた時に広がる美味しさを想像する。
 すると、アースの体の中で魔力が膨れ上がり、弾ける様に噴き出すとキラキラ光りながら畑の上に降り注いだ。

「なんだなんだ?何か光るものが畑に降ったように見えたけど、アースは見たか?」
「???」

 アースの頭の中はジョガイモの蒸しでいっぱいで他のことは目に入らなかった。


 翌朝、マリアンナとユッテが畑の前で呆気に取られていた。
 畑には昨日までは無かった作物がこれでもかと言うほど実っていたのだ。

「こっこれは…どういうことだい?」
「すっごーい、ジョガイモもガボチャも、あ、内緒で植えていたトムトも。それもこんなに大きく!」

 そう、普通の大きさの倍はあろうかと言うほどの巨大さでそれらは実っていたのだ。

「これだけ立派に実ったんなら今夜のメニューで使えるわね」
 マリアンナが嬉しそうに言った。 



 食堂では料理を食べた客の間で、ちょっとした騒ぎになっていた。

「うまっ!なんだよこれ、いつものジョガイモの蒸かしなのか?柔らかさが段違いじゃないか」
「ガボチャの煮込みだって蕩けるような甘さだぞ」
「これはトムトか、滅多に食べられないと聞いていたがこれほど美味いモノだったんだな」
「いや、俺は昔食べたことがあるが、これはその時のトムトの何倍も美味い!」

 食事をした誰もがその美味しさを絶賛した。が食事の効果はそれだけでは終わらなかった。

「??? 心なしか妙に体が軽い気がする…」
「なんかやる気が湧いてくるぜ!」
「古傷で痺れてうまく動かせなかった腕が思い通りに動かせるぞ」

 食堂の客もはじめはその美味しさに驚いていたが、次第に体の調子が良くなったり、軽い怪我が治る効果がある事に気づき始めた。
 その噂はあっという間に広がり、町の人はおろか遠くに住む人もわざわざ食べに訪れるようになった。



「あー!やられた!くそう!!」

 ある日の朝、料理に使う作物を畑に獲りに来た ユッテが叫んだ。
 見ると、畑に実っていたジョガイモやガボチャ、トムトが根こそぎ盗まれていた。
 昨日の夕方にはまだまだ残っていたから、夜中に忍び込まれ盗まれたのは間違いなかった。


 ー≪辺境の町 市場≫ー

 ユッテとアースは、畑に植える作物の種を市場に買いに来ていた。するとある一角で人だかりが出来ているのを見かけた。

「らっしゃい!らっしゃい!!食べると怪我があっという間に治っちまう幻の作物はいらないかー!」

 見るとクマみたいな巨漢の男が道行く人々を相手に店先に並べた作物を売っていた。
 それらは明らかにユッテ達の畑から盗まれたジョガイモやガボチャ、トムトだった。

「あーー!それ、ウチの畑から盗まれたヤツ!!」
「なんだ?うちの商品に言いがかりをつけるのか?」

 巨漢の男が営業スマイルを消して、ユッテを睨みつけた。

「だって、そんな大きなジョガイモやガボチャがあってたまるか!トムトだってすごく珍しいのに!!」
「知るかっ、たまたま噂の作物が入荷したんだよ。それともこれがお前の畑のモノだっていう証拠でもあるのか?ああん??」
「ぐぬぬぬぬ……」
「証拠がないのなら帰った帰った、しっしっ!」

 大男は勝ち誇るようにニヤニヤしながら、ユッテとアースを追っ払った。


 市場からの帰り道、突然ユッテがきれた。

「うがぁあああああああああああ!!悔しぃ!!!」
「!!びっくりしたー」
「ごめんごめん、でもあのニヤニヤ顔を思い出したら悔しくてさー」
「あんなクマオジなんか忘れて、帰ったら買った種を植えようよ、ユッテ」
「そうだね、いつまでもうじうじしてるのはあたしには似合わないね」


 ー≪食堂(質より量)裏手の畑≫ー

 市場から帰って来た2人はさっそく畑に種を植えることにした。定番のジョガイモやガボチャ以外に今度はミツダケの種も用意した。

「へへへ、ちょっと高かったけどこれで料理を作ったら…」

 ユッテが一皿いくらで何人分と、まだ手に入れていないお金の計算をしてウキウキしていた。



 町の人々もみんな寝静まった夜中、店の裏手の畑に忍び込む人影があった。

「まったく宝の山みたいな畑を見つけてラッキーだぜ」

 男はホクホク顔で畑の作物を盗んでいった。

「おっ、今度はミツダケも生えているじゃないか。これも頂いて、ン?…うぎゃーーーーー!」

 虫の音しか聞こえない夜空に野太い男の絶叫が木霊した。


 翌朝、昨日植えた作物の様子が気になるユッテがアースを連れて、畑の様子を見に来た。

「ん?なんだろあれ、なんか大きな…うわわっ、なんか変なのがいる!」

 ユッテが畑の真ん中にある奇妙な物体に気づいて大声をあげた。

 恐る恐るその物体に近づいて確認すると、それは市場で見たあのクマのような大男だった。
 そしてその大男に絡みついているものがあった。
 1つは足(のような根)を男の胴体に、また1つは腕(に見える根)を男の首に回すように何体ものマンドラゴラが絡みついていた。

「わぁーー沢山、くっ付いてる♩」
「なんでこいつがここに…」
「あっユッテ、あれ!あそこ」

 アースが指さす方を見るとそこには籠が転がっていて、そこからいくつかの作物が転がっていた。
 この大男が夕べも泥棒に来た事が明らかだった。

 マンドラゴラは日の光に弱いため、日中は葉っぱだけ外に出して本体は地面の下に埋もれているが、夜になると地面から出てきて徘徊する。
 元々は魔力が濃い森の奥などにしかいないが、もし運悪く徘徊しているマンドラゴラに出会ったら全力で逃げろと言われている。なぜなら一度絡みつかれると、死ぬまで少しづつ魔力を吸い取られ続けるから。

 大男は危ないところで助けられ、そのまま町の警備兵に連れていかれた。

「あたし、あんなモノまで植えたっけ?」

 ユッテが大男から引きはがされて悲しそうに見えるマンドラゴラを見ながらそうつぶやいた。
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