親友は砂漠の果ての魔人

瑞樹

文字の大きさ
33 / 73
ムー大陸編

20王宮での演奏会

しおりを挟む
 薄めを開けて声の聞こえる方を見た。どのくらいの広さがあるのか見当もつかないような広い部屋の奥にひな壇があり、そこに黄金色に輝く人が十人ほど座っている。その中央に一際大きな黄金色の椅子に座った、前身金色の服をまとい、大きな王冠を被った金色の男性が口を開いた。

「そなた達がこのヒラニプラで楽器を弾いているという者かね」

 今まで訊いたことのない、荘厳な声が部屋中に響き渡った。

 男性は四十代の半ばくらいの年齢だろうか、肌の色はもちろん、王冠の脇から見える髪の毛、鼻の下に生やした口髭、全てが金色だった。

「僕は弾けません。彼がこのギタラという楽器を弾くのです」

 アルハザードが神谷の背負ったギターケースを指差した。

 部屋にいた人たちのどよめきが聞こえた。ギタラという未知の楽器への興味と、アルハザードの声の美しさに対する驚きだろう。

「その楽器はギタラというのかね。街で評判になっているという演奏を私にも聴かせてもらえないだろうか」

 再び荘厳な声が響いた。

「あの方がこの島の王ラ・ムーですか」

 案内の女性に小声で訊ねた。

「そうです、あのお方がこの国を統治されている偉大なる王ラ・ムー様です」

 女性の目は神谷たちの方ではなく、ひな壇に向いていた。

 あたりを見回すと、ひな壇の上に乗って椅子にすわっているのは、金色の人々、おそらくは彼らがこの島の王族、金色人だろう。

 数え切れないほど部屋の中にいる白色人は、皆左右の壁の方に分かれて立っている。神谷の演奏に備えて、場所を空けているのだろうか。

「演奏をするにあたって、何か必要な物はありますか」

 案内の女性が神谷に訊ねた。

「腰掛けられる椅子が一つあれば、それだけで充分です」

 今日は邪神の手を借りることなく演奏の準備ができそうだ。

「分かりました」

 女性がその場を離れると、間もなく白色人の男性が、素材は分からないが、四角い箱を重そうに抱えてきた。色はもちろん黄色だ。

「これに腰掛けて下さい。見た目は石ですが、椅子として使われている物です」

 そういえば、ヒラニプラの公園で見た、白色人が腰掛けていた物と形は同じだ、唯色が黄色いだけだ。

 その石に腰を降ろした。やはり邪神の用意してくれた物の方が座り心地がいいが、それは仕方がない。

 ケースからギターを取り出した。

 周りの人々が乗り出すようにして凝視している。初めて見るギターという楽器に興味津々のようだ。

 チューニングをしていると、それだけであちらこちらから、溜息が聞こえる。

「先ほど弾いた曲をお願いします」

 案内の女性が神谷に小声で言った。よほど気に入ったのか、そうでなければ、王の好みにピッタリと思ったのだろう。

 先ほどと同じように速度をゆっくりめにアルハンブラ宮殿の想い出を弾いた。やはり、雑音が出ないように細心の注意を払いながら弾き終えた。

「素晴らしい、そのギタラという楽器を目にするのは初めてだ。その楽器を持って、近くに来てはくれないだろうか」

 ラ・ムーが両手を広げて感想を述べた。他の白色人たちは相変わらず無愛想だが、ひな段の上の黄金人たちだけは、楽しそうな顔をしている。


 間近で見るラ・ムーは長袖の法衣のようなデザインの服を着ている。白色人にそのまま金メッキをしたような顔立ちをしている。座っているだけで、他の金色人よりもかなり高身長なことが分かる。おそらくは二メートルを軽く越えているだろう。

「金色の人たちだけは嬉しそうな顔をしているね。彼らだけは表情が豊かなのかな」

「やっぱり、支配階級だからかな、それ以外にも何かありそうだけどね」

「何かって?」

「自分で調べろってさ、ゆっくりな曲を立て続けに聴いて少し機嫌が悪くなったみたいだな」

「それじゃあ仕様がないね」

「ああ、仕様がないね」

 立ち上がって、ひな壇に向かってゆっくりと歩き出した。アルハザードと案内係の女性が後ろからついて来る。

 ひな壇の真下に来て、頭を下げると「そうすることが、そなたたちの国の挨拶かね」頭上から先ほどと同じ荘厳な声が降りてきた

「そなたたちはこの島の者ではあるまい。黄色人の格好はしているが、どこから来たのかね」

 立ち居振る舞いの違いだけでこの島の人間ではないことがばれてしまったようだ。

「それだけではないよ。精神力増幅装置が関係しているようだね」

 アルハザードが小声で話しかけてきた。

「遠慮をすることはない、黄色人の扮装は解いて、本来の姿に戻るがいい」

 ラ・ムーの言葉が終わると同時に神谷とアルハザードは、本来の日本人とアラブ人の格好になった。

「さて、そなたたちはどこから来たのかね」

「海を越えてです」

 アルハザードが今までと同じように答えた。
「そなたたちはなぜこの国の言葉がしゃべれるのかね」
「この島に来てから荒野をしばらく放浪していましたから、その間に憶えました」

「ふむ、海の彼方にも人が住んでいる国がるという訳か。いや、信じられないことではない、しかし……」

 なぜかラ・ムーの顔が曇った。周りの黄金人たちも困惑の色を隠さなかった。

「どういうことかな」

 後ろにいるアルハザードに、ひな壇の上のラ・ムーには聞こえないように小声で話した。

「さてね、海の向こうから人が来ると困ったことでもあるのかもしれないね」

「何も教えてくれない?」

「ああ、さっき僕たちを黄色人から戻してくれた後から寝た振りをしているよ。こっちの話は聞こえているはずだけどね」

「そうだな、その男の言うことは間違ってはいない、この街の扉をそなたたちは開けることができないだろう、精神、体から発せられる波動と言ってもいいが、それがこれらの装置に反応していないからだ。この島の黄色人ならば反応するはずだからな。それにしても変わった格好をしているな、頭から布を被っているとは」

 ラ・ムーはアルハザードの被っているクウトラを指差して笑った。この島では男女を問わず、頭に布を被る習慣がないのだろう。

「そのようだね、僕の格好が異様に見えるらしい。その点、神谷はまだ普通に近いらしいよ」

 どうやら、邪神が目を覚ましたようだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...