親友は砂漠の果ての魔人

瑞樹

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ムー大陸編

35王宮内と周辺の探索

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「今日は外を久しぶりに散歩してみないか」

 朝、神谷が目を覚ますとアルハザードが涼やかな声で言った。そういえば、飛行船に乗って以来、王宮の中に閉じこもりきりで、外の景色を眺めていない。

「とはいっても、昼食までだけどね」

 昼食後、アルハザードには精神同調の訓練が待っている。

「いいけど、そんなの許可が出るかな」

 アルハザードが目を閉じて胸のブローチに両掌を当てた。

「昼食に間に合うように帰ってくればいいそうだ」

「今のは誰に訊いたの」

「もちろん、ラ・ムーに決まってるじゃないか」

「すごい便利な物だね、その装置は」

「そうだね、現代で例えると、無料のwihiの環境で使うスマホみたいな物だね、映像も考えも瞬時に送りたい相手に送れる、但し、その装置を持っているのは、黄金人と一部の白色人だけだけどね」

「それじゃあ、それを与えられるっていうことは、すごいことじゃないのかい」

「それはこの王宮の客人であることと、神谷のギタラのお陰だよ、ラ・ムーは神谷が望めばいつでも訓練を受けさせてくれるよ、そうすれば、いつかはこの装置が使えるようになるさ」

 そのいつかが、何ヶ月先か、何年先か、普通の人間である神谷には見当もつかない。

「まずは王宮の中で見たい所はあるかい」

「そう言われても、この建物の見取り図さえ知らないしね」

「そうか、それじゃあ」

 アルハザードが言うと、神谷の頭の中に王宮の各階の見取り図が浮かんだ。王宮は地上五階地下二階で、最上階は二人が金色の飛行船に乗った部屋だ。

  二人が滞在している部屋は二階の一番南側にあるようだ。部屋に大きく赤い矢印がついている。

 上のフロア、三階には先日ラ・ムーが言っていた闘技場がある。御丁寧に図面には小さく日本語で注意書きがしてある。

「見取り図の中で赤や黄色の色で塗られている部屋があるけど、やっぱり使える人種によるのかい」

「いや、それは人種ではなく、危険度だ。闘技場は黄色マークだろ、多少危険があるという程度だ。それに比べて何部屋か赤く塗られている部屋は、危険度マックスだ。入らない方がいい、もっとも、入ろうと思っても入れないよ、普通の人間には」

 アルハザードが普通という所を強調しているような気がするのは、考え過ぎだろうか。

「例えば、地下二階のこの赤く塗られた部屋は、この前の夜二人で行った黒い玉を製造している部屋だ」

「やっぱり、あの玉のことは知られたくないのかな」

「ラ・ムーも車の行く先については詳しく教えてくれなったろう、あまり語りたくない理由があるんじゃないかな。そのうちに分かるとは思うけどね」

 このアラブの魔人の言葉には、説得力があり過ぎるほどあった。

 久しぶりに吸う外の空気は少しすえたような匂いがしたが、狭い部屋の中とが違う開放感が心地良かった。

「王宮の裏手に回ってみようか」

 アルハザードは返事も聞かずに神谷の先を歩いて行く。

 初めて見る王宮の正門は、裏門と同じく青色人が警護していた。二人が初めて王宮に入った部屋は二階の大広間で、正門の真上のようだ。

 正門を出る時に振り返ってその佇まいを眺めたが、壁が全て金色をしているせいか、豪華というよりも唯の成金趣味のように思えた。

「これがこの国の最高権威だからね、価値観が違うんだから仕方がないんだよ」

 アルハザードの言う通りだった。現代でも国が変われば価値観も変わる、ましてやここは一万二千年という時を隔てた地なのだ。

「この国の外で会った赤色人は君のことを『いい戦士になれる』と言ってたよね、でも、衛兵はいても戦士はいないね。それとも彼女は衛兵のことを戦士と言ったのかな」

「さあ、どうかな、ラ・ムーは先頭集団はいないと言っていたのだろ、それって、この国にはいないっていうことじゃないのかな」

「どういうこと」

「それも、そのうちに分かるんじゃないかな」
 
 話しながら歩いているうちに王宮の裏門、先日黒い玉を積んだ車が出て行った場所に出た。スクリーンで見た時と同じように二人の青色人が守っている。

 神谷とアルハザードは客人として彼らの脳に文字通り刻まれているのだろう。特に話しかけられることもなく、その目前を通り過ぎることができた。

「裏手に回ってみようか」


 アルハザードについて行くと、王宮の裏口の外に広がっている敷地に出た。そこは広大な牧場になっていた。

 人間の腰の高さほどの木で作られた柵で区切られた中に、ヒラニプラの入り口にあった門に刻まれていた動物、牙のある馬、牛の祖先らしきもの、足の長い象に似たものなどが多数飼育されている。その周りを赤色人たちが掃除や餌やりなどの世話をしている。

「あれが僕たちが食べた肉だろうね」

「牛や馬の祖先だね」

「祖先かどうかは分からないよ、何といっても滅んでしまう種族だからね」

 偶々似ている容姿をしている動物ということなのだろうか。

 動物を飼育している隣ではやはり広大な敷地に畑らしき場所もあった。ほうれん草に似た葉物や根菜を作っていると思われる、葉が僅かに地上に生えている所など、様々な野菜が栽培されている区画が多数あった。大きな柄杓で水を撒いたり、雑草を取ったりしているのは、やはり赤色人だった。

 作物の周りには虫らしい物も飛んでいる。今になって思えばヒラニプラの外では、なぜか虫すら目にしなかった。

 よく見ると、牧場も畑も囲っている柵の色が白色、黄色、赤色、青色に分かれている。

「あれは動物や野菜の種類で食する人種が違うことを意味しているんだろうね」

「金色の柵は見当たらないね」

「王族の食する物はここでは作られていない。宮廷内に専用の部屋があって、そこで動物の飼育や野菜の栽培が行われているんだ。さっき見せた見取り図に載っていたろう」

 そんな所あっただろうか、大体一回見ただけで全てを憶えられるはずなどないのだ。

「えっ、そうなのか、それじゃ砂漠では生きていけないよ。闇の神官なんか親切に紙に書いたりしてくれないからね、一度聞いたり見た物は全て記憶しないと、すぐに死んでしまうよ」

 砂漠で生きていくつもりなど、あるはずがないのだが。


「現代のように機械が発達して便利になると、人間の機能が低下するということだね」

 普通の人間と魔人を比較してはいけないと思う。

「この島に来て初めて動物を見たけど、野生の動物っていないのかな」

「他の国にはいるようだね、しかし、ここヒラニプラにはいないらしいよ、かつてはいたようだけどね」

「理由はあるのかな」

「どうかな、自分で調べろって言ってるよ」

 アルハザードが肩に乗っているはずの姿の見えない邪神の方を見た。

「王宮内に戻ったら黄金人用の食物生産をする部屋も見てみよう」

 二人で広大な敷地を散策した。現代では良く広さを表す単位として東京ドーム○個分という表現があるが、果たしてこの場所は東京ドーム何個分の広さがあるのか、見当もつかない。

 王宮の裏門から外に向かって黒い色の道路が続いているが、途中で四方向に道が分岐している。其々の国に行くための分かれ道なのだろう。

「ここって、言わば王宮御用達の牧場や畑だよね、それを全然警備していないんだね、周りに柵もないし、この国には泥棒はいないのかな」

「泥棒なんていうのは、ヴァイタリティーのある者がやることなんだよ。この国の人間は皆生体エネルギーを吸い上げられて、唯生きているだけの奴らが多いんだ、与えられた物を食べて暮らすだけの存在なんだ、泥棒なんてする力は残っているはずがないだろう」

 そういえば、泥棒とスパイが世界で一番勤勉な職業だと何かの本で読んだ記憶がある。

「その通り、決められた法に従って生きるのが一番楽なんだよ、イスラム教やキリスト教が世界で一番普及している理由が分かるだろう、戒律に従って生きる方が人間は何も考えなくてすむからさ」

 イスラムを棄教した魔人が自嘲気味に呟いた。

「でも、王宮の出入り口には衛兵が立ってるよね」

「それは他国からの戦士に備えてのことじゃないかな」

「この国以外の国には、戦士がいるんだね」

「そうだろうね、但し、ここ三百年くらいこの国に攻め入って来た国はないようだけど」

 三百年前といえばラ・ムーが現王となった時だ。
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