親友は砂漠の果ての魔人

瑞樹

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ムー大陸編

36魔人VS黄金

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 王宮の裏口に戻り中に入ると、アルハザードが目を閉じて胸のブローチに両掌を当てた。

「大丈夫だってさ、闘技場を見学できるよ、今ラ・ムーの許可を取ったから」

「確か三階だったね」

「そうだ、もうグラムダルクリッチの案内は必要ないよ、王宮の見取り図は全てここに入ってるからね」

 アルハザードが自分のこめかみを指差した。

 三階までつるつるすべる石の階段を上がった。しばらく歩いて金色の壁をアルハザードが触れると、人が通れる大きさの穴があいた。

 部屋は向こう側の壁が見えないほど広く、中には所狭しと甲冑をつけた青色人が、身長と同じ長さの青い金属製の棒を持って二人ずつ対になって闘っていた。

 青色人は全員身長が二メートルはありそうだ。王宮の入り口に立っていた衛兵と違うのは、体以外に顔もフルフェイスのヘルメットを被っていることだ。

「まさにナイト、戦士だね」

「奥の方を見てごらん、筋トレをしている奴らもいるね、と言っても神谷には見えないか」

 特に近視という訳でじゃないのだが。

「奥の方は霞んで見えないけど、君には見えるのかい」

「ああ、見えるよ」

「君の視力はどのくらいなんだい」

「そうだね、現代の日本式で表すと、四、〇くらいかな」

「そんな人、現代の日本にいる訳ないじゃないか」

「そんな視力じゃ、とても砂漠では生きていけないよ」

 だから、砂漠で生きていくつもりなど毛頭ないのだ。

「君たちが海の向こうから来た者だね」

 背後から声をかけられた。振り返ると神谷よりもやや背の高い黄金人だった。身長は変わらないが、身につけている甲冑から露出している手足の筋肉が凄まじく発達していることが分かる。

「ラ・ムー様より話は聞いている。自由に見学して構わんよ」

 地を走るような低い声で黄金人が言った。この闘技場の教官なのだろう。

「そう、彼はこの闘技場の教官であり監視役だ、そして、この王宮であらゆる人種の中で最も強いそうだ」

「ラ・ムー様から聞いたのだが、あの黒色人に勝ったそうだな」

「まあ、何とか」

「ならば、この闘技場で一番の戦士と闘って見せてはくれないかね」

「怪我しない程度の戦いでよければ、これでも痛いのは嫌いなので」

「大丈夫だ、痛いのが嫌いなのは私も同じだ」

 壁に立てかけてあった金色の棒を手に取った。どうやら闘う相手はこの黄金人らしい。

「全員、整列せよ」

 雷鳴のような大声で黄金人が叫んだ。部屋にいた青色人全員が動きを止め、その場で直立不動の姿勢をとった。

「では、君は武器は必要ないのだったね」

 言いながら片手で軽く棒を振っている。その金色の棒がどれほどの重さなのか急に確かめたくなった。

「その棒を持たせてもらってもいいですか」

「構わないよ」

 神谷の頼みに黄金人が気安く応えてくれた。

「多分君が思っているよりも重たいと思うがね」

 黄金人に片手で手渡された棒を両手で受け取ったつもりが、重さに耐え切れずに瞬時に床に落としてしまった。部屋中に「ガシン」という大音量が響き渡った。

「良かったね、足の上に落とさなくて。その棒は重さが百二十キロあるらしいからね」

 手渡される前に教えて欲しかった。

「僕もこいつに今教えられたんだよ」

 姿を消している邪神の欠伸をしている姿が一瞬見えたような気がした。

 黄金人がゆっくりと金の棒を片手で拾った。

「君はもう少し筋肉を鍛えた方が良いのではないか、それではこの地で生きていけまい」

 いや、この島で生きていく気は更々ないのだが。

「では、始めようか」

 黄金人が中央よりに数歩進み、棒を両手で構えた。その姿は剣道の中段の構えに似ている。

 アルハザードが黄金人の前に進んだ。両手をぶらりと下げ、唯立っているだけに見える。

 先に黄金人が動いた。アルハザードに向かって棒を恐ろしい早さで振り下ろした。棒の色が金色なだけに、稲光のように見える。

 アルハザードの脳転に棒が食い込んだと思った瞬間、魔人の姿は僅か数歩分横に動いていた。

 黒色人と闘った時よりには残像が見えたが、今のアルハザードの動きは速過ぎて残像すら見えない。まるで瞬間移動したような早さだ。

 今度は黄金人が棒を横に払った、同じように当たったと思った時にはアルハザードの姿は数歩分後ろに下がっていた。

 何度か同じことが繰り返され、黄金人の顔に困惑の色が浮かんだ。

「これでは何度やっても同じのようだ、ではこれはどうかな」

 言い終わる前に黄金人が一歩踏み込み、真上から振り下ろし、アルハザードが横に動く瞬間に金色の稲妻は横に方向を変えた。

 当たった、と思った時、苦痛に歪むはずのアルハザードの顔に笑みが浮かんだ。首筋に食い込こむと思われた棒は魔人の手に握られていた。

「方向を変える、スピードが緩む一瞬を逃さぬとは……」

「こんなところでいかがでしょうか」

「うむ、さすがだ、私では敵わないようだ」

 黄金人が右手を棒から離して頭の上に掲げた、降参の合図のようだ。

 アルハザードがようやく棒を掴んでいた手を離した。アルハザードの掴んでいた所には、くっきりと指がめり込んだ跡がついていた。

「君はどれだけの握力をしてるんだい」

 戻って来たアルハザードに訪ねてみた。

「さあね、計ったことがないから分からないけど、さっきの棒くらいなら、握りつぶそうと思えば握りつぶせたよ」

 以前、黒色人と闘った時に、デコピンで頭蓋骨を陥没させられると言ったのは本当だったようだ。

「元々そんなに力が強かったのかい」

「そんな訳ないだろう、経験が人を強くする、これは世界共通の常識じゃないか」

 自分と同じような体格の魔人の言葉には、彼の壮絶な過去を彷彿とさせる重さがある。

「結果ほど力の差があった訳じゃない。この人には殺気がなかったしね。精々急所に当てて気絶させるくらいのつもりだったんじゃないか。その証拠に邪神が僕の肩に乗ったままだ」

 戦闘ではなく、試合だったということなのだろう、そんな生優しい攻撃とは思えなかったが。

「では、好きに見学をして行くがいい」

 黄金人が棒を再び壁に立てかけ、大きく手を叩くと、部屋中の青色人が訓練を再開した。

 二人でしばらく青色人の試合の様子を眺めていたが、体が大きいだけで動きが緩慢で、とても戦士と呼べる動きではない。まるで剣道を習いたての子供同士の稽古を見ているようだ。

 先ほどのアルハザードの動きを見た後だけに、なおさらその動きの遅さが目につく。

「君から見ればこの者たちの動きはひどく拙く見えるだろう、しかし、これでも訓練の成果は出ているのだよ」

 黄金人が感慨深げに言った。  

 部屋の奥の方へ移動すると、青色人たちが大きな青い石を持ち上げては下ろす作業を繰り返していた。

「これが彼らの筋トレ」

「そのようだね、この石一つが大体百キロくらいあるらしいよ」

「それじゃあ、あの棒も」

「ああ、あの黄金人の物ほどではないが、八十キロはあるようだね」

 緩慢な動きとはいえ、それを振っているのだから、ここにいる者たちはあの精神力増幅装置に生体エネルギーを吸われてはいないのだろう。

「そうみたいだね。いざという時に王宮を守る役目がある彼らは、あの装置にかけられることはないみたいだね」

「でも、あの動きじゃあ、君どころか黒色人にも敵わないね。パワーはあるけどスピードがないんだね」

「ああ、敵わないだろうね、でも、それはあの黄金人も同じだよ、僕を本気にさせてくれなかったからね」

 このアラブの魔人の本気を見ることがあるのだろうか、できることならば、そんな場面には遭遇したくないと思った。
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