親友は砂漠の果ての魔人

瑞樹

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ムー大陸編

54ヒラニプラの神再び邪神に謁見する

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「やっぱり後十回くらいで元に戻るそうだよ」
 
 治療を終えて部屋に戻ってきたアルハザードが涼やかな声で言った。

「それじゃあ、今でもかなり元に戻ってるの?」
「部分的にはね、まだ見せられる状態じゃあないけど、大分変ってきてるよ」
「やっぱり、あの装置はすごいんだね」
「そうだね、こうやって恩恵を受けているんだから、ひどいことは言えないかな」
 この国の住民の生体エネルギーのお陰で体が治るかもしれないアルハザードは、増幅器のことを悪く言うことは憚られるのだろう。

「問題は次の礼拝日だね」
「礼拝日がどうしたの」
「礼拝日にあのやたらと長い名前の神が降臨するだろう。その時、ラ.ム一は今のこの国に起こっていることを話す。それに対して、あの神がどう答えるかだ」
「本当のことは言わないんだろうね」
「分からないね。今、天上界でも会議の最中かもしれなし、もう結論が出ているかもしれない」
「結論というと」
「今この国に起こっていることを考えれば分かるじゃないか、こいつに訊くまでもないよ」
 アルハザードが足元で丸くなっている邪神を見下ろした。

「すでに瞀告ではなく、破滅へのカウントダウンが始まっているってことさ」
「破滅へのカウントダウンか、どのくらいの時間が残されているのかな」
「さあね、後十日以上残っていればいいけどね」

 他人のことを考えていないのは、目の前の魔人も同じだった。

「別に他人のことを考えていない訳じゃないよ。唯運命には逆らえないと思っているだけだよ」
「運命か」
 アルハザードは意味ありげにクスリと笑い、それきり何も喋らなくなった。


「今日、この国の神がここに来るらしいね」

 アルハザードが再び口を開いたのは、夕食後のワインを飲んでいる時だった。

「あの長い名前の神様が礼拝日でもないのにここに?」

「ああ、こいつに会いに来るらしいよ」

「何のために来るのかな」

「まあ、相談だろうね、この国の将来のあり方について」

「でも、この島に将来なんてあるのかい」

「それは分からないよ、こいつらが決めることだからね。破滅へのカウントダウンと言ったのは、あくまでも僕の思っていることだ。天上界では別の考えがあるのかもしれないからね」


 しかし、この島が海の中に沈んでしまうのは歴史的に現実問題だとアルハザードは言っていたはずだ。

「ああ、言ったよ。でも、歴史が変わってしまうことなんか、そんなに珍しいことじゃないからね」

 それでは、この島が沈まずに未来まで残っているという可能性はあるのだろうか。

「あるよ、限りなくゼロに近いけどね」

 アルハザードが意味ありげに苦笑した。


 アルハザードにとってこの島の将来は「運命」によって定められた方向に向かって行く、唯それだけのことなのだろう。しかし、この島の六千四百万という膨大な数の住民の生死について考えると、暗雲たる気持ちにさせられてしまう。

「そんなことは神谷が思い悩むことではない。この島の未来なんていう地球規模の異変なんていうものは、こいつらが天上界で運営しているものなんだ。人がどうこうできるものではないし、結果について一喜一憂することもないよ」

 アルハザードの言葉が終わるのを待っていたかのように、それまで体を丸めていた邪神が四本の足で立ち上がった。

「来たようだね」

 邪神の前の壁の当たりに白い霧状の気体が漂っている。邪神がその霧に向かって何かを話しているように見える。

「何を話しているのかな」

「こいつらの次元では話なんかないよ、こいつがこの国の神から送られた映像を見ているところさ」

「映像って、何の」

「会議だね、天上界で行われた会議の映像を今見ているところだ。人間の感覚で言うと、議事録を読んでいるようなものかな」

「神様の世界の会議、どんなことを話してるんだい」

「もちろんこの島の未来についてさ、今が分岐点だということらしい」

「分岐点というと」

「今のまま精神力増幅器の使用を続けて、王族だけが長く満ち足りた生活を送るか、増幅器の使用を止めて昔の原始的な生活に戻るか、道は二つに一つだけということだね」

「それをこの島の神様が邪神に相談に来たの」

「そうだね、ラ・ムーにそれを受け入れさせるためにはどうすればいいのか、それを相談しに来たみたいだね」

「それで邪神は何と言ってるんだい」

「簡単に言うと、そんなこと知ったことじゃない、お前が自分で考えろってとこかな」

「前にも同じ様なことを言ってたよね」
「そうだな、この国の神はそれでもまたこいつに助言を求めに来た、それだけ困ってるってことだよ」

「ラ・ムーに言ってみたらいいんじゃないかな」

「ことはそんなに単純じゃない、この国の神の神としての力も試されているしね」

「神としての力」

「この国の神が人々を正しい方に導けるならば、神としての位が上がるらしい。その代わりこの国が破滅でもしようものなら……」

「地位が下がる」

「そのようだね、会社で例えるならば昇級試験みたいなものかな。天上界での地位なんて上がっても仕方がないと思うけどね、何といっても最高の地位にいるのがこいつだからね」

「たとえ邪神でも?」

「いくら邪神でも最高神に変わりはないさ」


 邪神が白い霧に向かって「ふん」と鼻を鳴らして、再び床の上に丸まってしまった。

「まともに答えるつもりはないみたいだね」

「それじゃあ、どうするんだろうね」

「どうしようもない、天上界に帰ってこのことを報告するしかないんじゃないかな」

「上位の神様に?」

「そうだね、言わばこの国の神の上司だね。そして、期日までに何とかしろって怒られるんだろうね」

「何か人間の社会と大して変わらないね」

「前にも言ったろう。神なんで人間にできないことが多少できるだけで、同じようなものなのさ、いや、できることが多いだけに質が悪いかもしれないね」

 邪神の前にあった白い霧はいつの間にかなくなっていた。
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