親友は砂漠の果ての魔人

瑞樹

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ムー大陸編

55魔人VS黒鳥再び

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 五日も経つと王宮の上空にまた黒鳥が飛来するようになり、邪神が3Dプリンターで作った仕掛けの在庫も底をついたようだった。

「そろそろ二回目の黒鳥退治を頼まれる頃かな。こいつに仕掛けを作ってもらわないとならないしね」

 後四、五回の治療で体が元に戻るアルハザードは、体に気が満ちているように見える。

 頭の中にラ・ムーの映像が浮かんだ。

「僕たちに用事があるようだね」

「また黒鳥退治を頼まれるのかな」

「それだけかな」

「と言うと」

「黒鳥の他に黒色人のことについて話があるかもしれないよ」

 アルハザードがそう言った時に壁に穴が開いて、グラムダルクリッチが入って来た。

「ラ・ムー様がお呼びです。一緒に来て下さい」

 相手の都合を訊かない無愛想な態度は相変わらずだ。

 グラムダルクリッチの後ろについて階段を上り、最上階の飛行船の泊まっている部屋に入ると、ラ・ムーが窓から外の景色を眺めていた。上空には何十羽という黒鳥が猛烈なスピードで飛び交っている。


「見たまえ、またあの鳥どもが上空を飛び始めた」

 ラ・ムーは背中に腕を組み、いかにも困ったように言葉を吐いた。そこにはいつもの威厳は微塵も感じられなかった。

「僕で良かったらいつでも退治しますよ、この前と同じように」

「いや、それでは根本的な解決にはならぬ。そなたの治療は後五回ほどで終了すると聞いている。治療が終わればそなたたちはこの島を出て行くだろう。その後にあの鳥の始末をどうするのか、そなたやそなたが作ったあの仕掛けがなくなれば、この国はあの黒鳥に滅ぼされてしまうことだろう」

 そうか、島が沈む以前に黒鳥や黒色人によって滅ぼされてしまうということもあり得るのだ。

「どうしたら良いのか、それをそなたに訊ねたいのだ」

「僕たちに尋ねる以前に、この国の神に訊いてみてはいかがですか」

「もちろん訊ねるつもりではいる、しかし、神もこのことについては明確には答えてはくれぬのだ、それに……」

「それに」

「神はそなたたちのことを特別な存在と思っているようなのだ。現に黄金人の中にはそなたたちを現人神と思っている者もいると聞いている」

 そなたたちということは、神谷も神と思われているということか。

「そうだよ、僕が武の神なら、君は芸術の神と思われているようだね」

 芸術の神、言われただけで罰が当たりそうな呼称だ。アルハザードのような人間離れした者ならばいざ知らず、自分のことをそう思うのだけは止めてもらいたい。

「そうかい、別にいいじゃないか。この国の人間の目にはそう映るんだから、そう思わせておけば。悪いことではないと思うけど」

 悪いことどころか、それこそ神をもおそれぬ、と、思ったがいつも近くにいる邪神に気に入られているのだ。多少の自惚れがあっても良いことにした。

「そうだよ、こいつに気に入られているんだから、少しは自信を持ってもいいと思うよ、少しだけだけどね」

 最後のところは聞こえなかったことにした。

「僕たちは神とはほど遠い存在の者です。特別な者でもありません、少し運動能力に長けているだけの者です」

「それが特別だと言っているのだかね」

「僕たちが去った後のことについては、僕たちにも分かりませんよ。黒鳥や黒色人、草木が枯れてしまったことについても、それこそ神様でも何でもありませんからね」

 アルハザードの言葉にラ・ムーは何も答えなかった、いや、答えられなかったのだろう。

「しかし、目の前の黒鳥は退治しなければならないでしょう、取り敢えずはこの前と同じ方法を取るしかないでしょう」

「そうだな、今はそれしかあるまい」

 長い沈黙の後にラ・ムーが苦渋に満ちた声で答えた。

 その夜は邪神特性の3Dプリンターによる仕掛け作りが王宮の裏の空き地で行われた。もうオリジナルを作る必要がないため、作業は実に簡単だ。


 青色人の手を借りる必要はない、アルハザードと神谷の二人だけ(実際には邪神もいるというか、全ての実務を行うのだが)の作業となった。作業と言っても、プリンターを動かしている邪神のためにギターを弾くだけなのだが。

 途中からは神谷だけは邪神の用意してくれた簡易ベッドで仮眠を取った。

 朝日が顔に当たり目が覚めると、空き地には前回と同様の仕掛けが山積みになっていた。

 アルハザードの左右の手には、白い剣が其々一本ずつ握られている。

「こいつが仕掛けを作っている間に剣を作ったんだよ。この前ラ・ムーに借りた物は重過ぎて使い難かったんだ、こいつに頼んで軽くて切れ味の良い物を出してもらってね、丁度研ぎ終わったところさ」

 アルハザードが手にしている二本の剣を上に立てて神谷にマジマジと見せた。それは正に切れ味抜群の短めの日本刀のようだった。

「今回は二刀流かい」

「二本あった方が二倍の速さとまではいかないまでも、戦闘力は上がるだろう」

「だったら頭にも刀つきの帽子を被ったらどうだい」

「それは思いつかなかったな、今度試してみよう。但し、機会があったらの話だけどね」

 魔人には冗談も通じなかった。

「なんだ、冗談だったのかい、僕はてっきり日本にはそういう武器があるのかと思ったよ」

 魔人と一緒にいる時は、思うのは勝手という訳にはいかないようだ。

 夜が明けてしばらくすると、白色人を伴ったラ・ムーが現れた。

 前回同様の仕掛けの山を見てしきりに頷いている。

「やはり見事なものだな」

 上空には昨日よりも数を増した黒鳥が飛び始めた。

「今日はおとりの子牛の用意は必要ないです」

 アルハザードがラ・ムーに言った。

「何やら考えがありそうだな。全てそなたに任せる、自由にやって構わぬ」

 アルハザードが剣を両手に下げて歩き出し、空き地の中央部で立ち止まり、剣を二本とも地面に突き刺した。両手を目の前に掌を上にして胸のあたりで広出ると、そこに陶器製と思われる茶色い瓶が現れた。
 それをゆっくりと足元の地面に置いた。

 アルハザードが数歩離れた所で両手に剣を持って構えていると、黒い固まり、数羽の黒鳥が瓶に向かって空から降って来た。

 アルハザードの構えた剣が光の塊に変わった瞬間、足元に頭と胴体を切断された黒鳥が飛来した数だけ転がっていた。

 上空を飛んでいた黒鳥が一斉にアルハザードに向かって「ギャー」という耳を覆いたくなるよな鳴き声を上げて急降下した。

 アルハザードが黒い固まりに覆い尽くされた直後、黒鳥の鳴き声が止み、バサ、バサという音と伴に頭を切断された黒鳥が地面に落ちて行った。

 時間にして本の一分足らずだろう、全ての黒鳥が地面に落ち、剣を両手に下げたアルハザードの姿が現れた。

 アルハザードは剣を二本共地面に突き立て、空になった両手茶色の瓶を抱き上げてこちらに向かって歩いてくる。

「その瓶の中身は何だい」

「これかい、これにはガラガラ蛇の生き血入りの水が入っているんだよ」

 言いながら、瓶のふちに口をつけ、一気に呷った。唇の端から赤い色の液体が滴り落ちている。

「蛇は鳥の好物だ、あいつらもそうだと思ったのさ」

 ガラガラ蛇の生き血入りの水を飲み干したアルハザードが、口元の蛇の生き血入りの水を手の甲で拭いながらクスリと笑った。
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