お友達係から解放されたのですが、

C t R

文字の大きさ
27 / 35

27 因果




ルペリ侯爵邸の門前には、皇太子直下部隊二名の立哨がある。
「普通」の陸軍兵士の制服を着用し、能力にまるで見合わない、低過ぎる階級章を付けている。一番恐ろしい軍人だ。

封鎖された邸内では、客室を即席の取調室にして拘束した犯人らの尋問が行われている。
犯人の一人、五十年配のルペリ侯爵は手錠で繋がれた両の手を机上で上下させ、興奮の口を絶えず開いていた。

「さすがさすが! 聖女パワー炸裂! 一般人とは出来が違いますな! もう親子みんなでビックリ仰天ですよ! ホント! ビックリ!」

終始、楽し気。ハッピー過剰で言い逃れるという発想ごと頭のネジが飛んでいる。
拘束前、侯爵は呑気に駅で汽車に乗ろうとしていた。逃走ではなく、クラゲ見物の遠足に出掛けるところだった。

この手の「飛んでいる」輩に少々免疫不足だったラギュオルは、初め話について行けなかった。ラファルが合流し、追加情報を得てどうにか理解にこぎ着けた。

「……では夜汽車を横転させた巨大クラゲは聖女なのだな?」
「なんと、それは凄い! いえね、私が把握してるのは伯爵家をペシャンコって報告までで。いやー、聖女パワー炸裂ですな!」
「…………」

ラギュオルも、途中入場のラファルも閉口した。
一旦放り出して、別室の共犯者のもとへ足を向ける。
神官をしている長男だ。適性から神殿に潜入する役目を仰せつかった彼もまた、父親と似たり寄ったり。ハッピー過剰で飛んでいた。

「聖女パワー炸裂ですね! あああ、クラゲ見たかった。ほら、こっちの魔物は巨大ヒトデのなりそこないみたいな酷い出来だったでしょう? 素養の問題でしょうね。魔物の外見ってのは一番強いイメージに引っ張られる傾向にあります。魔物はみんなで力を合わせて完成させるアート作品なんです。だから滅茶苦茶な時も多い。それもまたアートですよ。芸術はドカンと爆発するものですからね!」
「…………」

やはり、ラギュオルもラファルも閉口した。
しかしここに来て収穫も多かった。
頭が痛くなる連中の、長年の研究結果を纏めるとこうだ。

「魔物はアート!」

ではなく、

「人造魔物、爆誕!」

魔物は、ある程度は計画的に造り出せるという事が連中によって証明された。むしろ、そうでなければ同年に同一国内で被害が多発した事の説明が付かない。
敢えて南方の戦地に長居していたラギュオルはこの可能性を疑い、探っていた。

本来であれば自然発生の魔物をコントロールしている輩がいる。
一人な筈は無い、必ず組織立っている。巨大な魔物をどうこうするには労力も時間も金もかかる。
皇太子の進言に従い、皇城は密かに疑わしい連中にマークを付けた。その中にルペリ侯爵家も含まれていた。

長らく連中を疑う理由は無かった。総本山に近い規模の神殿を築く程、信仰心の強い家系。いっそ魔物とは真逆の立ち位置にいるように思える。
一方で、監獄を運営している。嫌うなら分かる。汚れは女神信仰の敵みたいなものだ。しかし信仰があるからこそ平気でいられるという側面もあるし、国としても助かるから誰もが連中の行動心理を深く考えたりしなかった。
連中の積極的な姿勢に、最初に違和感を示したのは南東の同盟国から嫁いで来た皇后だ。よそ者の方がよく見える。

「女神関連の祭りは年に一度だけか」

声高に女神を讃える割に少ない、と皇后には思えたらしい。現に、月一で何かしらのイベントを催している国や地域は割とある。
この違和感の答えはすんなり判明する。連中の信仰の先を突き止めれば、自ずと。

魔物というのは人間の悪意を養分にしている。
その上、魔力も頂戴している。人間は誰しも大なり小なり魔力を持つ。それらがこつこつと積み重なって巨大な魔物を造り上げる。普段は意図しない自然発生とは言え、魔物というのは最初から人造と言えるのだ。

人間に悪意と魔力が備わっている所為で世界に魔物が誕生した。因果だ。

聖女ソリアは大いに素養があった。いや悪意を持った人間によって素養を引き出されてしまった。
聖女捜索の為、神殿に多額の支援をしていたルペリ侯爵家は、果たしてどこまで計画していたのか。
魔物被害のアーカイブ目当てに神殿勤めをしていた侯爵家の長男こと神官は、問うたラギュオルに「今回は偶然の産物! 棚ぼた!」とのたまった。

「勿論、お馬鹿さんを上げて落とせばデカい花火になるのでは? と期待はしてました。だから聖女に真っ当なお友達とか邪魔だったんですよ。あれ、神官長の余計なお世話ですから。ホント古い人間はダメです。何も分かってません。その点、第二皇子はいい仕事をされました。期待を裏切らない優等生! 百点満点!」

熱弁に誰もが閉口した。尋問中でなければ首を絞めていた。
聖女には浄化の能力がある。神官と聖女の違いは修行や祈りの要不要の一言に尽きる。努力しなくてもいきなり浄化が使える。それ故に聖女と呼ばれる。
浄化パワーの正体とてとどのつまり魔力だ。聖女はその体内に、超自然現象を引き起こす莫大な魔力を有している。ルペリ侯爵家の連中はそこに着眼した。

聖女は、たった一人で巨体を生み出す事が出来た。
百パーセントの自力ではない。魔術の助力があった。
人工ダイヤのインクルージョンだ。炭素のカプセルに守られ劣化も消散もしない。
この内容物の正体が実におぞましい、毒に冒された皮膚片である。
聖女が渡されたダイヤには過去、魔物の毒で死んだ者の皮膚片が封じ込められていた。これが魔物を狙ったポイントで生じさせる錨の役割を果たす。更に一定レンジを振り切ると悪意ごと魔力を吸い上げ、強制チャージが始まる。軍用の魔術が施されていた。
聖女の死因は、体内の魔力残量がゼロになった事だ。一滴残らず徴収された。
ルペリ侯爵領で生じたヒトデのなりそこないの魔物は、戦力分散要員としてクラゲをサポートする急ごしらえだったが、なんと第二皇子の皮膚が使用され、魔物の合成に必要な魔力を得る為に大量の魔石が投じられた。膨大なエネルギー資源が無駄になった。
第二皇子の魔物被害とて連中の仕込みだ。皇室に恩を売り、聖女に実績を与えつつインクルージョンをゲットする。一石三鳥を狙い成功させた。
ラギュオルのバカンスを台無しにしたのも当然侯爵家の仕業で、実験ついでにあわよくば連中にとっての真の天敵である竜の乗り手を始末しようとした。

大帝国の日陰で、秘密の研究が進んでいた。
何と言っても侯爵家の連中は実験台に困らない。囚人どもがいる。密かに大勢犠牲になった。監獄誘致の裏には恐怖の思惑が潜んでいた。
聖女が見出され、連中の研究熱は一気に過熱した。

連中は巨大神殿を建造し、女神と見せかけて魔物を崇拝していた。
かれこれ親子四代に渡って魔物に傾倒している、との事だった。



深夜二時。頭の痛い話を一旦終えた。
帝都の侯爵邸は既に軍が封鎖し、線路沿いを馬で爆走していた侯爵令息も拘束された。クラゲ見物が叶わず悔やんでいたそうだ。どいつもこいつも。
連中は、聖女の肉体が魔物の体内で融解せず原形を留めていたと知り「聖女ゆえ」と推測した。保有する浄化機能が保存の役割を果たした。最期にラファルとクレムが目撃した現象も、聖女ゆえの奇跡。
完全に取り込まれることは無かった。だがその奇跡のパワーを以てしても我が身の魔物化プロセスを抑止する事は出来なかった。
ラファルは想念した。溺れている最中の人間に治療は施せない。心臓マッサージも人工呼吸も「まだ」早い。聖女の浄化とはまだ早い治療だったのだ。

とんでもない一夜となった。
帰り支度のラファルを、ラギュオルが呼び止めた。

「言い忘れるところだった。実はな、ルペリ侯爵領に出た魔物を主に始末したのは私ではない」

ラファルが首で振り返る間にも彼は続けた。

「父君、前カダリーニャ侯爵だ。私が現場に到着するより先に、青竜と共に駆け付けておった。彼もまた魔物の頻発に疑念を抱いていたようだ」

ラファルは唖然とした。





感想 20

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

婚約者が聖女を選ぶことくらい分かっていたので、先に婚約破棄します。

黒蜜きな粉
恋愛
魔王討伐を終え、王都に凱旋した英雄たち。 その中心には、異世界から来た聖女と、彼女に寄り添う王太子の姿があった。 王太子の婚約者として壇上に立ちながらも、私は自分が選ばれない側だと理解していた。 だから、泣かない。縋らない。 私は自分から婚約破棄を願い出る。 選ばれなかった人生を終わらせるために。 そして、私自身の人生を始めるために。 短いお話です。 ※第19回恋愛小説大賞にエントリーしております。

ヒロインと結婚したメインヒーローの側妃にされてしまいましたが、そんなことより好きに生きます。

下菊みこと
恋愛
主人公も割といい性格してます。 アルファポリス様で10話以上に肉付けしたものを読みたいとのリクエストいただき大変嬉しかったので調子に乗ってやってみました。 小説家になろう様でも投稿しています。

『病弱な幼馴染を優先してください』と言った妻が消えた翌日、夫は領地の会計書類が全て白紙になっていることに気づいた

歩人
ファンタジー
侯爵家に嫁いで五年。ルチアは夫エミルの領地会計・社交・使用人管理を全て一人で担ってきた。だがエミルはいつも幼馴染のアリーチェを優先する。「アリーチェは体が弱いんだ、お前とは違う」——その言葉を百回聞いた日、ルチアは微笑んで離縁届に署名した。「ええ、私は丈夫ですから。どうぞ幼馴染様をお大事に」。翌朝、エミルが目にしたのは——税務報告の締切、領民からの陳情の山、そして紅茶の淹れ方すら知らない自分。三ヶ月後、かつて「地味な妻」と呼ばれたルチアは、辺境伯の財務顧問として辣腕を振るっていた。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。