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23 新婚夫婦のその後 後 ☆
しおりを挟むダルニウス辺境伯は「他人」に過ぎない妻の故郷に大金を投じている――として、帝国中枢がフェリクを通じて物申して来た。
叱責ではなく「大丈夫か?」と献身ぶりを心配している。
「そなたら、いっそ領地をセルヴァの奴と入れ替えてもよいぞ」
苦笑したフェリクに辺境伯夫妻は揃って首を横に振った。
旧公国はセルヴァが上手く回している。急なトップの入れ替わりは発展の邪魔以外の何でもない。
それにダルニウス辺境伯領はラクロが先代辺境伯から引き継いだ大切な土地だ。
凡そ十年前、先代の養子となった際にダルニウスの名と共に継承した。
先代夫妻の一人息子は南方戦線で戦死した。
新卒の士官だった彼は出撃した南の半島でラクロと出会い、感激した。当時第三皇子付きをしていたラクロの強さは既に軍では有名だった。
敵の猛攻をものともしない第三皇子もラクロも兵士たちの誉れで憧れで、彼らに続けと皆高い士気で以て戦いに挑んだ。
どんな善戦でも犠牲は必ず出る。前に出過ぎて新兵は撃たれた。
「……ヘマをしました」
ラクロは瀕死の新兵の傍らに片膝を突き「望みはあるか」と問うた。
新兵は告げた。
「私の故郷を、老いた両親を、頼みま……」
作戦終了後、ラクロは新兵の燃え残りを手に彼の故郷を訪ねた。
新兵は戦場から故郷に遺書を送っていて、そこにラクロの事も書かれていた。
「私の死後、もし彼が了承してくれるなら辺境を彼の故郷に出来ないものでしょうか。私などより余程力強く辺境を導いてくださる筈です。父上、母上、万一の際は何卒ご一考ください」
国からも誰からも異議は無く、息子の遺志は叶った。
息子の死の翌年、先代辺境伯が病没し大任はラクロに託された。
因みに先代辺境伯夫人はというと――元気だ。南海のリゾート地で療養という名のバカンスをエンジョイしている。
月一で辺境に手紙が来る。「ダイキリ飲み過ぎて二日酔いした」とか「主人似のナイスミドル発見しちゃった」とかそんな内容だ。
それが最近こうなった。
「孫、見せに来てね」
ラクロは返事を書いた。
「励みます」
そして執務机の一番上の引き出しの封印が解かれた。
第三皇子より賜りし「夜のテクニックの手引き書」を熟読し、いざ本番へ。
手引き書通り「女のほとを徹底的に舌でねぶる」をベッドの上で実行した。
淑やかなシロールが盛大に騒ぎ、乱れ、ラクロは嘗て無い興奮を得た。
口では「いや」だの「ダメ」だの言いながらもシロールは熟れた絶景から洪水のように蜜をとろとろと滴らせてラクロを求めていた。
妻の求めに応じるのは夫の務め。ラクロはズボンの前を寛げて、今にもはち切れそうな逸物を大洪水の吹き出し口にあてがった。
「太い栓をしてやる」
栓をされた途端、シロールは狭い穴をきゅうんと収縮させて一足先に天国へいってしまった。
搾り取ろうとする挑発的な肉のうねりにラクロは敢えて乗った。
細い腰を掴み、窮屈な穴でぼちゅぼちゅと逸物を扱き、妻の可憐な唇を貪った。
一際激しく穴を穿った後、最奥をずんと突き上げ切っ先から大量放出。
濃い迸りに体の内側を叩かれながら、シロールはぷるぷると震えて「あ、あん」と甘い声で啼いた。
それは甘えて強請っているようで、ラクロは放流中の栓が衰えるどころか滾っていくのを感じた。
妻の求めに応じるのは夫の務め。放流を終えても栓を抜かず、恍惚としている妻に言い聞かせた。
「愛している、シロール。――もう一度いくぞ」
もう一度というのは嘘で、もう三度挑ませてもらった。
シロールとの暮らしは天国そのものだ。
ドラゴン便が庭で発着するようになって半年が経過した。
今現在、略奪された公国の美術品の約八割が辺境に集結している。
シロールの私室だけではスペースが足りなくなった為、このほどラクロは邸宅の増築工事を始めた。回廊を作り一時置き場にする。公国の品々が無事故郷に帰った暁にはサロンにでも何にでもすればいい。
増築にはドラゴンの力が役立っている。
着工前、シロールはラクロに告げた。
「恐らく太古の王もテンペストを用いて橋や教会を建てています」
根拠は構造物の継ぎ目の少なさ。幼児向けの積み木みたく一つ一つの石材パーツが異様に巨大なのだ。人力で運んで積んだとは到底思えない。
太古の王のテンペストに関する記録は無い。
「私は勝手ながらお手手のある動物を想像しています。案外ドラゴンだったかもしれませんよ」
太古の王が各地に遺した巨大建造物がドラゴンの積み木遊びの跡だと考えるのは楽しかった。
シロールの他愛もない話にラクロは「そうか」と目を細めた。
丁度ラクロのドラゴンが邸宅に戻って来た。
南から運んできた巨大な建材をお土産みたく手にぶら下げている。
これから積み木遊びをして回廊を完成させる。あっという間に終わるだろう。
住宅建設にもドラゴンの怪力が活躍している。
各国に散っていた旧ゴルダナ王国の出身者らで、辺境からの呼びかけに応じる者が少しずつ集まって来た。移民申請をすればすぐにでも住めるし働ける。
申請時、一応審査をして反乱分子で無い事の確認がされるものの、ほぼ意味の無い作業である。現在までの移住者は、年配夫婦と幼児連れの一家のみ。
そもそも帝国軍の将軍が統べ、ドラゴンが飛び回る領地で反乱もない。
辺境伯領は至って平和だ。
大陸全土がそうならいいがちらほら戦火が発生している。
嘗てのルクニェ王国の属国が最近反乱を起こした。王妃の故郷だ。姫を殺された敵討ちというのが名目らしいが、実際にはルクニェ王国という目の上の瘤が消えたのに今度は帝国が来て、爆発した。
制圧に乗り出したフェリクは「ははは」と反乱軍を笑い飛ばした。
「そなたら、その元気をなぜルクニェ統治下で発揮しなかった。ルクニェ王国軍よりこの私の軍隊の方が遥かに強いというのに。――遅いのだ、決起が」
反乱軍は返り討ちに遭った。フェリクの軍勢は西方に来たばかりで土地勘もなく数も少なく、戦後間もないから疲弊しているだろうという反乱軍の読みは外れた。
数が少ないのは機動力重視の精鋭だからだし、城攻めに土地勘は要らない。
制圧された後、軍幹部たちは牢の中で互いに責任の擦り付け合いを始めた。
「やれやれ。ルクニェ王妃のデジャヴだな」とフェリクは呆れた。
処刑前の王妃も無様で往生際が悪く、誰を犠牲にしてでも自分だけが生き残ろうと必死だった。詫びも祈りも何も無い。最期はフェリクの一太刀で喧しい口ごと首を落とされ、永遠に沈黙した。
嘗て戦争は娯楽と笑った彼女。
娯楽じゃないと思い知るのが遅すぎた。
初秋の風が吹くテラスで、シロールはキャンバスと向き合っていた。
週二回、教会で子供たちに絵を教えているのでその手本を描いている。
流派を作ろうとかではなく、未来の修復家を育成出来れば地元民だけで教会を守っていけると考えた。
「――シロール」呼び声に絵筆を止め、首で振り返る。
テラス窓から外に出てきたラクロは、五分袖ワンピース姿のシロールに眉根を寄せた。椅子に座るシロールの背後に立つと、自分のジャケットを脱いで細い肩に被せる。
「冷えてきた。薄着は止せ。大事な体だ」
肩に回された太い腕に抱き寄せられてシロールは微笑んだ。
「ええ。屋外での作業はそろそろ自重します」
「そうしてくれ」
屈んだラクロはシロールの耳元に口付け、片掌で彼女の腹部に触れた。
妊娠初期の妻を労わっている。
シロールは腹部をさする大きな手に掌を重ね、肩越しにラクロを振り返った。
「男の子と女の子、どちらでしょうね」
ラクロはシロールを覗き込み、唇を合わせた。
「どちらでも構わん。君たちが無事ならそれでいい」
ふっふとシロールは肩を揺すった。
「ラクロ様はとっても我が子に甘いお父様になりそうですね」
「……女子ならば多少は大目に見る。男子ならば厳しく鍛える」
「出来ると良いですね、厳しく」
「……出来ないと思っているな」
「思っています」
即返したシロールを強く抱きしめてラクロは小さく「見ていろ」と呟いた。
夫に羽交い絞めされながらシロールは笑った。
笑い声を聞きつけて、庭先からドラゴンの首が伸びてきて「なになに」という顔で紅い瞳を瞬かせていた。
春が来て、家族が増えた。
辺境伯夫妻の第一子、と第二子が同日に誕生した。
男女の双子だった。大仕事を終え「重い荷物でした」とシロールは微笑んだ。
くたりとベッドに沈んだ妻の手を握り、ラクロは胸がいっぱいになった。
「君は私の誇りだ。有難う」
「どういたしまして」
ハッピーな一報を受けて西から金ぴか巨大鳥が飛んできた。
背から皇子が飛び降りると、ホウオウは青空の中をぐるぐる旋回しながらドラゴンと世間話をした。
「おめでとさん」
「一緒にイキんで頑張った」
「ドラゴンの頑張りに意味あったの?」
「あったと信じる」
テンペストらが飛び回る空の下では邸内の使用人たちが万歳したり泣き喚いたりと大賑わいしていた。
辺境は賑やかになった。
益々、賑やかになっていく。
FIN
数ヶ月後のある晩。
双子を寝かし付けてきた妻に、ラクロは詰め寄った。
「そろそろ三人目を検討しないか」
「……何かおかしなテクニックを披露しようとなさってます?」
「――ああ」
「きりりとしたお顔ですがそれほど決まっていません」
それほど決まっていない夫を突き放す事はせず、シロールは彼に体を寄せた。
ラクロは妻を抱き上げてベッドに雪崩れ込んだ。いざ本番へ――。
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ヒロインの
亡きお祖父様カッコいい!
侵略戦争が続く世界なので
死に際まで美しい人と
生き様も死に様も醜悪極まる外道との
対比が眩いです。
ヒロインヒーローの見せ場以外にも
心に残るシーンの多い物語でした。
凄い面白いです!
侵略に次ぐ侵略で真っ暗な世界なのに
強かに生きるヒロインと
強かで真っ直ぐなヒーロー。
そして絶妙にツボる
真面目な会話に挟まる天然な脳天気台詞!
天国て。(笑)
重そうだな、
笑えそうなトコから読もうかな
と思いきや
あちらもこちらもと
全編楽しく読めました!
ローカル保存して繰り返し読み返させて頂きます!
ラクロが、、、
ジワジワくる~!
2人の会話が
後から
ツボるのよね〜🤣
やだぁ、
思い出し笑い( ≖ᴗ≖)ニヤッ