七夕伝説

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星の継承者たち 夕島 流星 視点

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 それは放課後のことだった。
 教室を出た直後、スマホが震えた。

 差出人に見覚えがある。
 日本でも指折りの旧家。歴史ある家系で、政財界に強い影響力を持っているはずだ。
 そんな名家から――まさかの、こんな内容。

《あなたたちのことを知っています。力になりたい》

 短い文面だったが、逆にその簡潔さが真実味を帯びていた。
 俺の脳裏に浮かんだのはただ一つ。

 ――俺たちの「秘密」が、バレた。

 隣でスマホを見ていた姫奈と、目が合った。
 彼女の瞳も、少しだけ震えていた。

 「来たか……」

 このまま放っておく選択肢はなかった。
 知られている以上、こちらが動かなければ、いつか手遅れになる。
 だから、俺たちは決めた。会うと。

 指定された屋敷に向かったのは、週末だった。
 都心から少し離れた高台にある、日本家屋の屋敷。敷地の広さも、建物の古さも、ただ者じゃない雰囲気を漂わせていた。

 門をくぐると、すぐに黒い和服をまとった男が現れた。
 彼の第一声は、こうだった。

 「ようこそ。星の継承者たち――ずっと、お待ちしておりました」

 それは、歓迎の言葉ではなく、“確認”のように聞こえた。

 屋敷の中は静かで、時間が止まっているようだった。
 表の時代から切り離されたような空間。木の軋みすら意味を持って聞こえる。

 応接室で出迎えたのは、五十代ほどの女性だった。
 和装を纏い、背筋の通ったその人物は、俺たちに向かって、はっきりと語った。

 「私たちの家は、代々、織姫と彦星の血を引く者たちを守ってきました。
 あなたたちが目覚めたことも、ずっと……見てきたのです」

 思わず、眉が動いた。
 その言葉に証拠を、と求めたわけじゃない。けれど、彼女はそれを示した。

 屋敷の使用人や家族が現れ、首元を見せる。
 全員の首筋に、“中が空洞の星の痣”があった。

 空洞の星。輪郭だけの印。
 それが、彼らの「役割」だと、俺は直感した。

 俺と姫奈が持つ痣とは違う。けれど、確かに繋がっている。
 どこかで感じる“引力”のような感覚が、それを証明していた。

 彼女は言った。

 「闇は、日を追うごとに強くなっています。ですがあなたたちは、まだ何も知らない。ここで学び、備えてください。私たちはあなたたちを導きます」

 ――迷いは、正直あった。
 高校を辞めること、日常を手放すこと。
 けれど、それ以上に明確だったのは、“このままでは終われない”ということ。

 戦いはもう始まっている。
 なら、力を蓄える場所が必要だ。

 そして――

 隣にいる姫奈も、同じ決意をしていた。

「……分かりました。ここで、学びます」

 俺の声は静かだった。けれど、その言葉の中にある意思は揺るがない。

 翌週には転校手続きを済ませ、俺たちはこの屋敷で暮らし始めた。
 学び、鍛え、備える日々。
 もう、ただ“星の継承者”という言葉に頼ってはいられない。

 いずれ、闇は本気で牙を剥いてくる。
 そのとき、俺たちが立っていなければ、何も守れない。

 だから、俺は剣を取る。
 理由は一つ。

 ――姫奈を守る。それが、俺のすべての始まりだから。
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