七夕伝説

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星を抱く剣 七星 姫奈 視点

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 日常が少しだけ変わった。

 高校へはこれまで通り通い続けている。でも、放課後に向かうのはカフェでも遊び場でもない。
 毎日、制服を脱ぎ捨てて、道着に袖を通し、刀を握る。

 目の前にあるのは、重い木刀。
 けれど、その重さは単なる物質の質量じゃない。
 それは、「自分の弱さ」を浮き彫りにする重さだ。

 屋敷の訓練場は広く、風通しも良い。
 けれど、稽古中の私は、いつも汗と息にまみれていた。

 何度も振った。何百回も。
 手のひらに豆ができては潰れ、血が滲んだ。
 けれど、それでもやめなかった。

 「今のあなたたちは、“刀の記憶”に頼っているにすぎません」

 屋敷の主はそう言った。
 五芒星で顕現させた月星刀――あれは、確かに不思議なくらい自然に動けた。
 でも、それは自分の力じゃない。
 星に宿された過去の“記憶”が、自動的に体を動かしていただけ。

 本当に戦うためには、自分の力で刀を振れるようにならなきゃいけない。

 だから、私は血を流してでも、前に進むしかなかった。

 ふと視線を向けると、流星がいた。

 彼もまた、額に汗を滲ませ、黙々と刀を振っていた。
 決して無理に声をかけてくることはない。でも、彼の姿を見ていると、不思議と力が湧いてくる。

 ――負けていられない。

 私たちは、世界を守るためにここにいる。
 そしてそれ以上に、お互いを守るために。

 あの七夕の夜、初めて異形と戦ったとき。
 彼が隣にいてくれたから、私は恐れずにいられた。
 剣を持ち、空を駆け、闇に斬り込んだ。あの時の熱が、ずっと心に残っている。

 次の七夕まで、あと十ヶ月弱。
 今は九月。
 まだ時間はある――けれど、それは決して“長い”とは思えなかった。

 異形は確実に、世界に浸食してきている。
 星空が再び割れるその日、また必ず現れる。

 その時、ただ“運命に導かれた存在”で終わるわけにはいかない。

 ――私は、私の意志で、この刀を振るう。

 それが、姫奈という一人の人間の、選んだ道だった。
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