生きずらさを感じる少女、異世界に転生する

AOI

文字の大きさ
3 / 15

3

しおりを挟む
何時間歩いただろう。
太陽は西に傾き、影はどんどん長くなっていた。足取りは重く、息も荒い。
「……やばい、もう限界かも」
そう思った瞬間――。

「――っ!」

視界いっぱいに、巨大な影が迫った。気づいたときには遅く、私は勢いよく横に弾き飛ばされ、地面に転がっていた。耳をつんざくような馬のいななき。どうやら、馬車に轢かれたらしい。

「大丈夫か!」

低くよく通る声が耳に響く。顔を上げると、馬車から降りてきた男の姿に、思わず息をのんだ。

黒髪、黒目。
それも、私の隠している色と同じ――。だがその男は、ただの旅人ではなかった。身に纏う衣は上質で、仕草一つに圧倒的な威厳が漂っていた。

「私は、この国の国王だ」

……よりによって。
心臓が跳ね上がる。まさに、今いちばん会いたくない相手だ。もしウィッグとカラコンが外れでもしたら、一瞬で全てが終わる。

「先ほどは申し訳なかった。私の馬車が君を轢いてしまったようだ。せめて謝罪の印に、王城まで送らせてもらおう」

「え……い、いえ! そんな、大丈夫ですから……!」

必死に拒もうとしたが、国王は穏やかながらも強引だった。
「いや、傷を負ったかもしれないのだ。責任は取らねばならぬ」

髪と瞳の色をさりげなく確認する。ウィッグもカラコンもずれていない。……大丈夫。そう自分に言い聞かせ、私はおとなしく馬車に乗り込んだ。

中は、私の部屋よりも広いのではと思えるほど豪奢だった。柔らかな座席に身を沈めると、緊張で余計に背筋が強張る。

それでも、国王は意外なほど気さくに話しかけてきた。
「名前は?」
「……葵、と申します」
「珍しい名だな。どこから来た?」
「えっと……遠くの村から、です」

曖昧にごまかしながらも、会話は続いた。世間話のようなことを重ねていくうちに、国王は時折笑い声を漏らす。

「ふむ……なるほど。君は面白い子だな」

やがて王城に到着すると、信じられない言葉を聞かされた。

「ちょうど娘が退屈しておってな。よければ今夜は泊まって、話し相手になってやってくれぬか」

私は、固まった。
王城に泊まる? 国王の娘と?
――断るわけにもいかず、私は頷いてしまった。

こうして、思いもよらぬかたちで、私は王城に足を踏み入れることになったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

元公務員、辺境ギルドの受付になる 〜『受理』と『却下』スキルで無自覚に無双していたら、伝説の職員と勘違いされて俺の定時退勤が危うい件〜

☆ほしい
ファンタジー
市役所で働く安定志向の公務員、志摩恭平(しまきょうへい)は、ある日突然、勇者召喚に巻き込まれて異世界へ。 しかし、与えられたスキルは『受理』と『却下』という、戦闘には全く役立ちそうにない地味なものだった。 「使えない」と判断された恭平は、国から追放され、流れ着いた辺境の街で冒険者ギルドの受付職員という天職を見つける。 書類仕事と定時退勤。前世と変わらぬ平穏な日々が続くはずだった。 だが、彼のスキルはとんでもない隠れた効果を持っていた。 高難易度依頼の書類に『却下』の判を押せば依頼自体が消滅し、新米冒険者のパーティ登録を『受理』すれば一時的に能力が向上する。 本人は事務処理をしているだけのつもりが、いつしか「彼の受付を通った者は必ず成功する」「彼に睨まれたモンスターは消滅する」という噂が広まっていく。 その結果、静かだった辺境ギルドには腕利きの冒険者が集い始め、恭平の定時退勤は日々脅かされていくのだった。

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

異世界ファンタジー的短編まとめ

よもぎ
ファンタジー
異世界のファンタジー的短編のまとめです

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

俺の伯爵家大掃除

satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。 弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると… というお話です。

処理中です...