生きずらさを感じる少女、異世界に転生する

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何時間歩いただろう。
太陽は西に傾き、影はどんどん長くなっていた。足取りは重く、息も荒い。
「……やばい、もう限界かも」
そう思った瞬間――。

「――っ!」

視界いっぱいに、巨大な影が迫った。気づいたときには遅く、私は勢いよく横に弾き飛ばされ、地面に転がっていた。耳をつんざくような馬のいななき。どうやら、馬車に轢かれたらしい。

「大丈夫か!」

低くよく通る声が耳に響く。顔を上げると、馬車から降りてきた男の姿に、思わず息をのんだ。

黒髪、黒目。
それも、私の隠している色と同じ――。だがその男は、ただの旅人ではなかった。身に纏う衣は上質で、仕草一つに圧倒的な威厳が漂っていた。

「私は、この国の国王だ」

……よりによって。
心臓が跳ね上がる。まさに、今いちばん会いたくない相手だ。もしウィッグとカラコンが外れでもしたら、一瞬で全てが終わる。

「先ほどは申し訳なかった。私の馬車が君を轢いてしまったようだ。せめて謝罪の印に、王城まで送らせてもらおう」

「え……い、いえ! そんな、大丈夫ですから……!」

必死に拒もうとしたが、国王は穏やかながらも強引だった。
「いや、傷を負ったかもしれないのだ。責任は取らねばならぬ」

髪と瞳の色をさりげなく確認する。ウィッグもカラコンもずれていない。……大丈夫。そう自分に言い聞かせ、私はおとなしく馬車に乗り込んだ。

中は、私の部屋よりも広いのではと思えるほど豪奢だった。柔らかな座席に身を沈めると、緊張で余計に背筋が強張る。

それでも、国王は意外なほど気さくに話しかけてきた。
「名前は?」
「……葵、と申します」
「珍しい名だな。どこから来た?」
「えっと……遠くの村から、です」

曖昧にごまかしながらも、会話は続いた。世間話のようなことを重ねていくうちに、国王は時折笑い声を漏らす。

「ふむ……なるほど。君は面白い子だな」

やがて王城に到着すると、信じられない言葉を聞かされた。

「ちょうど娘が退屈しておってな。よければ今夜は泊まって、話し相手になってやってくれぬか」

私は、固まった。
王城に泊まる? 国王の娘と?
――断るわけにもいかず、私は頷いてしまった。

こうして、思いもよらぬかたちで、私は王城に足を踏み入れることになったのだった。
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