生きずらさを感じる少女、異世界に転生する

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目を開けると、風の匂いがした。
そこには、どこまでも広がる草原。地平線まで続く緑の波が、陽光を受けてきらきらと揺れている。

「……ここが、異世界……」

私は思わずつぶやいた。
自分の姿を見下ろすと、そこにいたのは地球での私と同じ黒髪黒目の少女。ただ――鏡を持っているわけではないのにわかった。顔立ちは整いすぎていた。どこか現実感の薄い、絵画の中の人物のような美しさ。歳はそのまま十八のまま。

次の瞬間、頭の奥に洪水のような情報が流れ込んできた。
この世界の歴史や常識、地理や言語……。一度も学んでいないはずなのに、自然と理解できる。

――ここは、地球でいう中世ヨーロッパに似た世界。
――人々は「ギフト」と呼ばれる力をまれに授かる。
――そして、私に与えられたギフトは二つ。

ひとつは、容量無限・時間経過なしの《異空間収納》。
もうひとつは、あらゆる言葉を理解し、話せる《全言語理解》。

「……すごい。これなら生きていけるかも」

けれど、すぐにもう一つの情報が胸を冷やした。
――黒。
この世界で黒い髪や黒い瞳は「王族の証」であり、平民が持つことはあり得ない、と。

「……いきなり目立つのは、絶対まずい」

私は慌てて《異空間収納》に意識を向けた。すると、そこには最初から用意されていたように、いくつかの物品が収められていた。その中から茶色のウィッグと、灰色のカラコンを取り出す。

「これで……少しは紛れ込めるはず」

黒髪を覆い、瞳の色を変える。鏡はないけれど、髪が肩に沿って落ちる感覚が確かに違っていた。

そして、私は歩き出した。
ただ、ひたすらに。
どこかにあるはずの街を探して。

草原を渡る風が頬を撫でる。心臓は少し速く打っていたけれど、どこか懐かしいような高揚感があった。

「今度こそ……普通に、人と生きられるかな」

私はそうつぶやきながら、まだ見ぬ街へと歩を進めた。
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