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第3夜会 救済と奪取の裏切り者たち-アヴェンジャーズ(中編)
しおりを挟む「犯人はシルビアだ!」
チェルシーは探偵の如くその場に立ち上がりバシっ!……と指をシルビアに突きつけた。
「ほぅ……詳しく聞こうじゃないか」
指を刺されたシルビアは怒るわけでもなく口元をニヤリと浮かべ、祈るように両手を組み、身を乗り出しチェルシーの言葉の詳細を聞こうとした。そこに割り込むようにロサナが呟く。
「またですの……」
「またとはなんだ。またとは」
「……あはは」
ユアも愛想笑いを浮かべる。
「チェルシーはいっつもそうだよ~シルビアどうせ当たってないだろ? 無視しよう~」
「なんだとぅ……」
「まぁまぁ、僕はチェルシーの推理が聞きたいな」
「いいだろう。シルビアの話の中で私は非常に共感したところがある。キミは確か『犯人は時間を聞かない。なぜなら時間を知っているからだ』と。私も似たようなことをよくする騎士を一人一人呼んで『見回りをちゃんとしていないだろう』と言い。ちゃんとしている騎士は『いつの話しですか?』としっかり聞いてきて疚しいことがある騎士は言葉に詰まるんだ」
「チェルシーさん! 凄いです!」
「……チェルシーさんにもそんな知恵があったんですね~とユアがバカにする気持ちわかるよ~」
「アーニャさん! そんなつもりじゃ!」
「ユアまで……私はもうおしまいだ……」
見るからにチェルシーの顔色が悪くなり落ち込んだどんよりとした空気が彼女の周囲に漂う。慌てふためくユアを余所に呆れたロサナとシルビアがツッコミを入れる。
「そのしょうもない小話は結構ですわ」
「あはは……僕としても続きがきになるな」
「そうだな……私がシルビアに疑問を抱いたのは黒服の人物を男として断定していたからだ。背の高い女性もいるしどうして断定できるのか? それは犯人が女性と思われたくない人物。男性だという認識をしっかりと植え付けさせたい人物。つまりは女性というわけだよ! そこで私は話を聞きながらどうしてず~っと疑問に思っていた『どうしてシルビアは謎の黒服の人物を男性と断定できるのか』ということをだ!」
決まった……と言わんばかりのドヤ顔をしたチェルシーに対してシルビアはまたも不敵に笑う。その笑い声は周囲に不信感を漂わせるには十分だった。
「ふふっ……チェルシーよくそこに気が付いたね……」
「まさか!?」
「そんな!?」
追い討ちの如くシルビアの発言はメンバーを動揺させるには十分だった。とりわけロサナ、ユアの動揺は激しかった。そしてシルビアは口を開く。
「まぁ、僕じゃないんだけどね」
ガクっ!っとメンバーの緊張が一気に解かれた。
「だよね~こいつの性格は幼馴染みのアタシが一番よく知っているけどまあこんな感じでいい性格してるよ~」
「もう! 驚かせないでくださいよ!」
ユアはプンプン怒っている。
「あははははは! ごめんごめん! ただね。チェルシーの話したことは強ち間違っていないんだよ」
「ん? どういうことだ?」
「どうして僕が『黒服の謎の男』ということを知っていたかという部分だが、上から下までびっしりと黒い着衣をして顔の見えない人物を男と断定した人物がいたんだよ。その人物が男と自分から聞いてもいないのに吐露したんだ」
「……メイドの確かリリーナですわね」
ロサナが次の煙草に火をつけながら答えると、指をパチンっと打ち鳴らしながらシルビアが答えた。
「その通り!」
「ではそのメイドのリリーナさんが真犯人だということですか?」
「僕は個人的直感を頼りに答えるとそうだと思っている」
「個人的直感ですか?」
「証拠とアリバイですわね」
「証拠とアリバイ?」
シルビア・ロサナ以外が首をかしげる間に皆各々追加のお酒を注文していく。みなせがお酒を配っているとユアがみなせに尋ねる。
「みなせさんはどういうことかわかりましたか?」
「ええ。口を挟ませて頂きますとリリーナ様はギャスパー氏が死亡した時は屋敷を飛び出したサラ様を追いかけていて死体を発見した時は友人でおられるゼパール氏と一緒にいた。それに彼女は屋敷のメイドに御座います。家事をしているため指紋などは証拠として立証するのは難しいことで御座いましょう。例えば、凶器と思われるナイフは直近で買われたばかりの新品の物などでありましたら話は別で御座いますがシルビア様の先ほどの発言から察するにそうではないので御座いましょう。しかし、疑うように捉えられたら申し訳ございませんが『証拠とアリバイ』と仰られたということであれば、探偵のシルビア様はそのピースさえ埋まってしまえば犯人と立証できるということを暗に言っておられます。リリーナ様の『動機』なども掴んでらっしゃるのではないでしょうか?」
みなせの説明はメンバー全員を納得させるには十分であった。
「その通りだよ。みなせ。リリーナには動機があった。実は調べたところリリーナの両親は亡くなっている。ギャスパーと同じ劇団員でだった。しかしながら才能がなかった。演技にしろ裏方にしろ経営にしろ全てにおいてだ。リリーナの父親は劇団の金を横領していてそれを捉えたのがギャスパーさ。両親はそれがきっかけとなり劇団を追い出され路頭に迷い貧困のため死亡。リリーナは孤児院へと……それを知った成功者のギャスパーは子どものリリーナに対して罪悪感があった。そして、メイドとして招き入れた。つまり、ギャスパーは正しいことをしたのだが結果としてリリーナの両親を死に追いやった仇(かたき)とも言えるわけさね」
「なるほどね~確かに動機になりそうだね~ちなみに他の人物には動機はないのかな?」
「私が気になったのは窓のサッシの切れ込みですわ。それを状況を作るには工具が必要。建築家のゼパールについては調べていますか? 私は彼が怪しいと思いますわね」
「もちろんゼパールについても調べたさ。答えは真っ白だね。そもそもお互いに仕事は忙しいし好調。半年に一回一緒に食事に決まった友人の店にいくのだけどまさしく親友という言葉が似合う存在ってことだね。……ただ、ゼパールはドイルを完全に犯人と決めつけている。もともと今度の公演のチラシをギャスパーに見せて貰っていて窓枠の毛糸と最初に発見したのも彼だ。ドイルに掴みかかって言っていたよ『サラがお前の昔の女だったかもしれないが今は違う。てめえギャスパーを殺してまで手に入れたかったのか!』とね。危うくゼパールがドイルを殺しかねないと言った具合だよ。あの起こり具合、混乱の仕方は全く犯人じゃないね」
みなせがデザートのケーキを運んだ。ユアはケーキを口に運びながら話す。
「小説とかの物語にある遺産・金目当ての犯行でサラさんという線はありえませんか?」
ユアの発言に全員の顔が強張る。
「一番そんなこと言わなそうな子が……」
「ユアどうした~チェルシーのなんかが写ったか~?」
「もしかして意外と修羅場やドロドロした感じが好きとかですの?」
「そっそんなんじゃありませんよ。ただ小説とかが好きなだけで!」
何故か全員がほっとする中シルビアが続ける。
「正直な話その線もないかな。サラは事件の後ショックからか大分変わったよ。ストレスって怖いよね。若くてかなりの美貌だったのにもう20代だとは思えないよ……」
「……であれば唯一、怒り・悲み・絶望の感情を出していないリリーナがもっとも怪しいというわけですわね」
「そう……そして机の引き出しの中から遺言も見つかっている。まあ60代だから書いておくのはわかるけどね。『遺産の三割を自分の劇団へ。二割を妻サラに。そして残りを全てメイドであるリリーナへ』という内容だ。これを怪しいと言わずしてなんという」
「確かにそだね~」
「密室の謎ですけど『窓枠の毛糸』はカモフラージュで魔法で鍵開けとかってできませんかね? リリーナさんは魔法適正者ではありませんか?」
「ユア。魔法は便利ですけど万能では御座いません『鍵開けの魔法』などは聞いたことありませんわ」
王国において魔法だが『生まれた時点で適正者かどうか』をチェックされ管理される。スラムにおいても国の騎士総出でチェックに入る。そして適正者には腕輪をされ世界で管理される。
「そもそもおとぎ話の魔法とは違い現実は人体に関する秘めた力の解明ですわ」
余談であるが、この世界の魔法はモンスターを召喚などや全ての自然環境に介入するようなものではない。例えば『身体強化』であれば脳のリミッターや体の細胞を限界まで酷使させ、力量を超える力を一時的に出すというものだ。また、体に溜まっている電気を放出させ発火などもそうである。それを魔法詠唱としてイメージして発動させるのが魔法であり人体の神秘を追求しているのがこの世界の魔法である。因みにロサナは世界屈指の魔術師で自分の遺伝子情報を動物に入れることにより、相手の細胞を乗っ取り操るというもの。ユアの迷子犬騒動の際ペットの鷹を自在に操り、視覚情報を共有したのはそう言った部分である。また、煙を纏った息を鍵のように構成し、ロサナ本人でないと開けられない鍵や箱も作ることができる。
「リリーナにその適正は無かったよ。ゼパールと一緒に屋敷に戻り外の暖炉に薪を焼べてゴミを焼却していた。この焼却場所もギャスパーの部屋の窓側の大樹と目と鼻の先さ」
シルビアもケーキを口に運び顔を綻ばせる。
「であれば考えられる可能性は二つですわね。
①屋敷に一人残ったドイルが殺し、後からリリーナ・ゼパールが発見
②リリーナはゼパールよりも先にギャスパーの部屋に入り殺害、ドイルに見せかけるための証拠と密室を作り上げる
この二つのうちシルビアは後者の②だと推理しているということですわね。私も後者の説を押しますわ」
「そうだね。ただ証拠がないしアリバイも崩すのが難しい。短時間でぜパールの目を盗み、ギャスパーを殺害後に密室の仕掛けを作り部屋から逃げ出すというトリックもわからないんだ」
「私はやっぱり①でドイルなんじゃないかと思う」
「シルビアじゃないのか~?」
「あー引っ張るなー!」
「アタシも①でドイルだと思う。唯一証拠あるしリリーナには無理じゃないかな~」
「私もそう思います。ただ……問題なのはチェルシーさんと同意見ということです」
「あ~じゃあアタシも違うか~」
「ユアまで……なんかちょくちょく毒吐くよね」
「そんなことないです」
このやり取りに少し笑いが入った後、みなせに話が振られる。
「みなせはどう見る? 最近色々謎解きしているらしいじゃないか。それに一人で飲みに来てボソっと事件の話すると解決の糸口をくれるじゃないか」
『おい探偵守秘義務はどうした』
メンバーの声が重なる中みなせが声を発する。
「私は皆様のお話を聞かせて頂きまして、ただの憶測でしかお話することかできませんが構いませんか?」
メンバーおよびシルビアは頷く。
「私の考えは①でも②でもございません。そして私の推測がこのまま続くとこのままでは更に二人の人物が殺害されてしまいます」
「なっ……なんだって! どういうことだ!」
シルビアはガタっと立ち上がる。
他のメンバーも驚愕している。
その中でみなせは言葉を続ける。
「この殺人事件は続いております……」
救済と奪取の裏切り者たち-アヴェンジャーズ(後編)へ
つづく
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