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134 胸を貸してやる
……なんだろうな、俺。
性格、悪いんだろうか。
こんなに、悲嘆にくれる朝霧を前に。
――こんなに、笑みがこみ上げてくるのは。
さすがに、よくないと思って堪えていたけれど。
何も言わない俺に、朝霧がそっと視線だけこちらに寄越す。
そして……案の定、きょとんと目を瞬かせてこちらを向いた。
たまらず、ふくっと声を漏らした俺は、満面の笑みを浮かべる。
途端、朝霧の無表情がくしゃりと安堵に歪んで、顔を背けた。
「……笑うな」
膝を抱えて小さくなり、ポメ犬に顔を伏せた朝霧。
その声は唸り声のように、とても低いけれど。
でも……あんな顔を見てしまえば、何の効果もない。
「お前も、そんな凹んだりするんだなあ」
ぽんと頭に手を置くと、ぴくりと反応したものの、振り払うそぶりはない。
気を良くした俺は、案外手触りのいい短い髪を、そっと撫でた。
じっと動かない朝霧が、それこそ本当にしょげた犬のようだったから。
……かわいいな、と思ったから。
二人して何も言わず、ただ頭を撫でて、撫でられて。
大人しいな、お前。
顔を伏せたまま動かない朝霧は、どんな表情をしているんだろうか。
俺、どうしたいんだろう。
いいのか、このまま朝霧を許すような真似して。
……そもそも、俺は怒ってるか? なんで、腹が立たねえんだ。
今、俺の中にあるのは、むしろ真逆の――
「……ナオ」
「なんだよ」
「……泣きそうだ」
朝霧にあるまじき小さなくぐもった声が、確かにそう言ったようで。
思わず手を止めた俺は――
「ふっ……! お前が?!」
「笑うな」
遠慮なく笑ってやると、むくれた声が返って来て余計に可笑しくなる。
じいっと覗き込んでいると、やがて不貞腐れた朝霧の顔が少し持ち上がり、恨めし気に俺を見た。
「泣いてねえじゃん」
「……うるさい」
思い切り笑ってやれば、ぐっと歪んだ顔。
本当にそうなんだなとありあり伝わって、胸苦しい。
だから、言ってやった。
「胸を貸してやろうか?」
からかいの口調で、少しだけ両腕を広げてみせる。
ぴたりと動きを止めた朝霧が、まじまじと俺を見た。
「なんだ、いらねえのか」
「……いる」
おずおず手を伸ばした朝霧が、俺に触れる前に止まる。
もう一度俺の顔を見て、ゆっくりゆっくりその腕の輪を狭めていく。
胸を貸すっつったのに、なんで俺を抱き込む。逆だろ、逆。
……まあ、いいけど。
動かない俺を確認して、そうして、柔らかく抱き寄せられた。
今だけ、だからな。
珍しいお前を見たから、俺も珍しいこと、してもいいだろ。
段々強く締まる腕の中、こっそり笑った。
……俺より、お前の方がよっぽど怖がってるよ、今は。
性格、悪いんだろうか。
こんなに、悲嘆にくれる朝霧を前に。
――こんなに、笑みがこみ上げてくるのは。
さすがに、よくないと思って堪えていたけれど。
何も言わない俺に、朝霧がそっと視線だけこちらに寄越す。
そして……案の定、きょとんと目を瞬かせてこちらを向いた。
たまらず、ふくっと声を漏らした俺は、満面の笑みを浮かべる。
途端、朝霧の無表情がくしゃりと安堵に歪んで、顔を背けた。
「……笑うな」
膝を抱えて小さくなり、ポメ犬に顔を伏せた朝霧。
その声は唸り声のように、とても低いけれど。
でも……あんな顔を見てしまえば、何の効果もない。
「お前も、そんな凹んだりするんだなあ」
ぽんと頭に手を置くと、ぴくりと反応したものの、振り払うそぶりはない。
気を良くした俺は、案外手触りのいい短い髪を、そっと撫でた。
じっと動かない朝霧が、それこそ本当にしょげた犬のようだったから。
……かわいいな、と思ったから。
二人して何も言わず、ただ頭を撫でて、撫でられて。
大人しいな、お前。
顔を伏せたまま動かない朝霧は、どんな表情をしているんだろうか。
俺、どうしたいんだろう。
いいのか、このまま朝霧を許すような真似して。
……そもそも、俺は怒ってるか? なんで、腹が立たねえんだ。
今、俺の中にあるのは、むしろ真逆の――
「……ナオ」
「なんだよ」
「……泣きそうだ」
朝霧にあるまじき小さなくぐもった声が、確かにそう言ったようで。
思わず手を止めた俺は――
「ふっ……! お前が?!」
「笑うな」
遠慮なく笑ってやると、むくれた声が返って来て余計に可笑しくなる。
じいっと覗き込んでいると、やがて不貞腐れた朝霧の顔が少し持ち上がり、恨めし気に俺を見た。
「泣いてねえじゃん」
「……うるさい」
思い切り笑ってやれば、ぐっと歪んだ顔。
本当にそうなんだなとありあり伝わって、胸苦しい。
だから、言ってやった。
「胸を貸してやろうか?」
からかいの口調で、少しだけ両腕を広げてみせる。
ぴたりと動きを止めた朝霧が、まじまじと俺を見た。
「なんだ、いらねえのか」
「……いる」
おずおず手を伸ばした朝霧が、俺に触れる前に止まる。
もう一度俺の顔を見て、ゆっくりゆっくりその腕の輪を狭めていく。
胸を貸すっつったのに、なんで俺を抱き込む。逆だろ、逆。
……まあ、いいけど。
動かない俺を確認して、そうして、柔らかく抱き寄せられた。
今だけ、だからな。
珍しいお前を見たから、俺も珍しいこと、してもいいだろ。
段々強く締まる腕の中、こっそり笑った。
……俺より、お前の方がよっぽど怖がってるよ、今は。
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