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40 ブッフェ
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「朝霧、早く早く!」
「急ぐ必要がどこにある……」
「ここにあるんだよ!!」
まったく、何のために来たと思っているのか。
呆れた顔の朝霧をぐいぐい押して、最上階へ急ぐ。
そこには既に何組か先客がいたけれど、長蛇の列とは言わないだろう。ほくそ笑みながら最後尾につくと、最上階からの展望に目を細めた。
「見ろよ、最上階の景色を眺めながらのランチ! 凄くねえ? 浪漫だよなあ」
「そうか……? どうせ食ってたら見てない」
「はあ……お前に浪漫を求めた俺が悪かったよ!」
そわそわしながら待つことしばし、列が動き始めた。
入り口から見えるあの展望窓からは、尻がこそばゆくなるような眼下の景色が臨めるのだろう。なんてゴージャスなんだ。
「足元はふかふかの絨毯、この景観。これでシャンパンとかゆらゆらさせたら、天下を取ったような気になるよな?」
「シャンパンを揺らすな、泡が抜ける」
もおお、妄想なんだからいいだろ! 格好いいじゃねえか、シャンパングラスって!!
そうこうする間に俺たちの番。
ピシッと制服のキマったスタッフに案内された席は、バッチリ窓際だった。まあ、ほとんどの席が窓に面しているんだけども。
あくまで上品で高級感溢れる店内は、そんじょそこらの食べ放題とは格が違う。大皿に山盛りされた料理ではなく、美しく配置された料理たち。取り分けが必要な物は、既にきちんと小皿に盛られている。
テーブルには、清潔なクロスと、カトラリー。
すげえ、なんかすげえ。
ララウンのブッフェは高いけど、手が出ないような金額じゃない。飯を食うには高い、というだけ。だけど、これは飯を食うための金じゃない。
これは、この体験のための金額。
深く感銘を受けて、真正面の男を見上げた。
思ったよりガッツリと視線が合って、少しビックリする。
頬杖をついてまじまじ俺を見下ろす表情が、柔らかい。
「まだ何も食ってないぞ。……すげえ嬉しそう」
「ふ、ふん! お前にはこの、諸々に感銘を受けるという感覚を理解することはできないようだな!」
「俺は、佐藤の目がキラキラすることに感銘を受けてるぞ」
「う、うるせー! 感動してんだよ!」
微笑ましいものを見るような目をやめろ!
違う、そうじゃない、俺はブッフェが嬉しくてキラキラしてんじゃねえんだよ!! 職業人として、この場の整え方に感銘を受けているだけで!
そんなことを考えるうちに、ぐうと腹が鳴る。
よし、全ては食ってからだ。
「とりあえず、行くぞ!!」
「ああ。スキップはやめろよ」
「しねえ!!」
蹴ってやろうかと思って、やめておく。こいつに蹴り返されたら普通に死ぬ。
俺は無駄な争いはしないのだ。
「うわ、どうしよ?! やべえ、全部美味そう! 食えるかな、今なら全部食えそうな気がする!!」
「無理だろ」
冷静な朝霧の声は聞こえなかったことにして、嬉々として皿に載せていけば、あっという間に皿いっぱいになってしまった。
だって、目の前でシェフが提供してくれる料理、それだけでも相当な数がある。これでも厳選したつもりなのに……。
そしてまだ、居並ぶ料理列の半分も来ていないというのに。
「くっ……そうだ! 朝霧、これ持て!」
「俺が取れないが」
「代わりに取ってやるから!」
「また取りに来ればいいだろ……」
そうなんだけど! でも、一回で一通り目を通したいだろ?!
俺の皿も朝霧に渡して、3枚目の皿を活用したものの、それでも料理列の最後までいかない。
そして、俺の腹も結構限界を迎えている。
「戻るぞ! 早く早く!」
「なぜ急ぐ……」
腹減ってるからだよ!!
こぼれ落ちそうになるヨダレを堪えつつ、滑り込むように席について、手を合わせた。
カトラリー、何使えばいいんだ?! とりあえず、フォークでいいか!
色とりどり、美しい料理の数々。
どれだ、まずどれを食う?!
欲望のままに肉へ行きたいところ……だが! 俺の腹、実力は知れている。いきなりラスボスを相手にしてはいけない。
「まずは前菜っ! ホタテのカルパッチョから!」
贅沢に盛られた瑞々しいホタテ。散りばめられたピンクペッパーが目にも鮮やかだ。つうっと垂らされたオイルがドレッシングだろうか。
艶やかなそれを、そっとフォークに載せ、口へ運ぶ。
この俺の、限界まで高まった期待、越えられるかな……?!
熱い口内を引き締めるような、ひやりと滑らかなそれ。
噛みしめる独特の歯触りと、香る柑橘。そして酸味によってMAX値をたたき出した驚くほどの甘み。ぷちり、と弾けたピンクペッパーの刺激。
思わず、目を閉じて咀嚼した。
「……美味い……!!」
はあっ、と息を吐き出して目を開けると、朝霧が視界に入った。
相変わらずド正面からでも真っ直ぐ俺を見る瞳。そして、はっきりと笑うその顔。
「……なんだよ」
「佐藤、料理漫画みたいだぞ」
「どういう意味だよ! 美味いだろ?! 感動してんだよ!」
「そうだな、一目で分かる。すげえ美味いんだな」
朝霧が俺の皿からホタテを取って食うと、美味いな、と笑った。
……お前、そんな顔で笑うの。
「お前こそ、まだろくに食ってねえのにさ、すげえ楽しそうじゃねえか」
最初の仕返しとばかりに言ってやると、朝霧は目を瞬いた。
「俺は、楽しそうか?」
「おう、そりゃもう遊園地の子どもレベルだ!」
「そうか。それならいい」
いいのかよ?! くそ、イジリがいのないやつめ……。
屈託なく笑う朝霧が――そう、珍しくて。
だから、俺はしばらくその顔をじっと眺めていたのだった。
「急ぐ必要がどこにある……」
「ここにあるんだよ!!」
まったく、何のために来たと思っているのか。
呆れた顔の朝霧をぐいぐい押して、最上階へ急ぐ。
そこには既に何組か先客がいたけれど、長蛇の列とは言わないだろう。ほくそ笑みながら最後尾につくと、最上階からの展望に目を細めた。
「見ろよ、最上階の景色を眺めながらのランチ! 凄くねえ? 浪漫だよなあ」
「そうか……? どうせ食ってたら見てない」
「はあ……お前に浪漫を求めた俺が悪かったよ!」
そわそわしながら待つことしばし、列が動き始めた。
入り口から見えるあの展望窓からは、尻がこそばゆくなるような眼下の景色が臨めるのだろう。なんてゴージャスなんだ。
「足元はふかふかの絨毯、この景観。これでシャンパンとかゆらゆらさせたら、天下を取ったような気になるよな?」
「シャンパンを揺らすな、泡が抜ける」
もおお、妄想なんだからいいだろ! 格好いいじゃねえか、シャンパングラスって!!
そうこうする間に俺たちの番。
ピシッと制服のキマったスタッフに案内された席は、バッチリ窓際だった。まあ、ほとんどの席が窓に面しているんだけども。
あくまで上品で高級感溢れる店内は、そんじょそこらの食べ放題とは格が違う。大皿に山盛りされた料理ではなく、美しく配置された料理たち。取り分けが必要な物は、既にきちんと小皿に盛られている。
テーブルには、清潔なクロスと、カトラリー。
すげえ、なんかすげえ。
ララウンのブッフェは高いけど、手が出ないような金額じゃない。飯を食うには高い、というだけ。だけど、これは飯を食うための金じゃない。
これは、この体験のための金額。
深く感銘を受けて、真正面の男を見上げた。
思ったよりガッツリと視線が合って、少しビックリする。
頬杖をついてまじまじ俺を見下ろす表情が、柔らかい。
「まだ何も食ってないぞ。……すげえ嬉しそう」
「ふ、ふん! お前にはこの、諸々に感銘を受けるという感覚を理解することはできないようだな!」
「俺は、佐藤の目がキラキラすることに感銘を受けてるぞ」
「う、うるせー! 感動してんだよ!」
微笑ましいものを見るような目をやめろ!
違う、そうじゃない、俺はブッフェが嬉しくてキラキラしてんじゃねえんだよ!! 職業人として、この場の整え方に感銘を受けているだけで!
そんなことを考えるうちに、ぐうと腹が鳴る。
よし、全ては食ってからだ。
「とりあえず、行くぞ!!」
「ああ。スキップはやめろよ」
「しねえ!!」
蹴ってやろうかと思って、やめておく。こいつに蹴り返されたら普通に死ぬ。
俺は無駄な争いはしないのだ。
「うわ、どうしよ?! やべえ、全部美味そう! 食えるかな、今なら全部食えそうな気がする!!」
「無理だろ」
冷静な朝霧の声は聞こえなかったことにして、嬉々として皿に載せていけば、あっという間に皿いっぱいになってしまった。
だって、目の前でシェフが提供してくれる料理、それだけでも相当な数がある。これでも厳選したつもりなのに……。
そしてまだ、居並ぶ料理列の半分も来ていないというのに。
「くっ……そうだ! 朝霧、これ持て!」
「俺が取れないが」
「代わりに取ってやるから!」
「また取りに来ればいいだろ……」
そうなんだけど! でも、一回で一通り目を通したいだろ?!
俺の皿も朝霧に渡して、3枚目の皿を活用したものの、それでも料理列の最後までいかない。
そして、俺の腹も結構限界を迎えている。
「戻るぞ! 早く早く!」
「なぜ急ぐ……」
腹減ってるからだよ!!
こぼれ落ちそうになるヨダレを堪えつつ、滑り込むように席について、手を合わせた。
カトラリー、何使えばいいんだ?! とりあえず、フォークでいいか!
色とりどり、美しい料理の数々。
どれだ、まずどれを食う?!
欲望のままに肉へ行きたいところ……だが! 俺の腹、実力は知れている。いきなりラスボスを相手にしてはいけない。
「まずは前菜っ! ホタテのカルパッチョから!」
贅沢に盛られた瑞々しいホタテ。散りばめられたピンクペッパーが目にも鮮やかだ。つうっと垂らされたオイルがドレッシングだろうか。
艶やかなそれを、そっとフォークに載せ、口へ運ぶ。
この俺の、限界まで高まった期待、越えられるかな……?!
熱い口内を引き締めるような、ひやりと滑らかなそれ。
噛みしめる独特の歯触りと、香る柑橘。そして酸味によってMAX値をたたき出した驚くほどの甘み。ぷちり、と弾けたピンクペッパーの刺激。
思わず、目を閉じて咀嚼した。
「……美味い……!!」
はあっ、と息を吐き出して目を開けると、朝霧が視界に入った。
相変わらずド正面からでも真っ直ぐ俺を見る瞳。そして、はっきりと笑うその顔。
「……なんだよ」
「佐藤、料理漫画みたいだぞ」
「どういう意味だよ! 美味いだろ?! 感動してんだよ!」
「そうだな、一目で分かる。すげえ美味いんだな」
朝霧が俺の皿からホタテを取って食うと、美味いな、と笑った。
……お前、そんな顔で笑うの。
「お前こそ、まだろくに食ってねえのにさ、すげえ楽しそうじゃねえか」
最初の仕返しとばかりに言ってやると、朝霧は目を瞬いた。
「俺は、楽しそうか?」
「おう、そりゃもう遊園地の子どもレベルだ!」
「そうか。それならいい」
いいのかよ?! くそ、イジリがいのないやつめ……。
屈託なく笑う朝霧が――そう、珍しくて。
だから、俺はしばらくその顔をじっと眺めていたのだった。
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