【完結】異教(男)の聖女は監禁・強制労働エンドを迎えるはずでした。が、冷徹騎士がオレの手を掴んでいます

藍 雨音(アイ アオト)

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第一章 偽りの聖女と冷徹の騎士

12 大規模討伐の日

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――ここは、戦場だ。本当に。
リンドヴァルが言っていたことが、よく分かる。

これ、狩られてるのはオレたちでは?
必死で回復を施した人が、また立ち上がって駆けていく。

「ここを離れる! 死ぬ気で側に居ろ! 俺から離れることは許さん!」
「は、はい!」

鬼の形相で言われる、全然キュンとしないセリフ。
普段の衣装と違って今は一般兵と同じ服、身動きはとりやすいものの、オレがついていくのは結構無理筋。
お前が死ぬ気で側にいてほしい。

木々の生い茂る森の中、方々で唸り声と悲鳴と、剣戟が聞こえる。バリバリ、と砕ける音は一体何だろうか。
これは、想定外の事態。
オレのいる後方救護地は安全だったはずが、魔物の数が多くて前線を突破されてしまったらしい。

「離れて、どうするのですか?!」
「俺が打って出る」

思わず目を瞬いた。リンドヴァル個人が前に出たからと言って、一体何になるんだろう。

「チッ……遅い!」
「わっ?!」

横合いから掻っ攫うように、小脇に抱えられた。
い、痛い……締めつけられる腹も痛いけど、物凄い速度でバシバシ当たる草木が痛い。
上下左右へ体が振られ、もう地面がどっちか分からない。

だけど、振り回されて何も見えないのは幸いだったかもしれない。
凄まじい唸り声と、草がなぎ倒される音。まともに目にしていたら、腰を抜かしていただろう。
そして、絶え間なく響くのは魔物の断末魔。
四方八方から襲い来る魔物を、右手の剣一本でどうやって。

「そこに居ろ! 何もするな!」
「うわあっ?!」

突如投げ出され、何かに引っ掛かった。必死にしがみ付いたのは、どうやら太い木の枝。
洗濯物のように引っかけていかれたらしい。いつの間にこんな高さにいたんだ。
慌てて枝に腰を落ち着けると、見てしまった周囲の光景に震えが止まらなくなった。
無数の獣に、人間が襲われている……!

怖い。
初めて感じた、捕食者への恐怖。
こんな所に置いて行かれた。リンドヴァル、リンドヴァルは……
彷徨わせた視線の先で、1人の騎士が駆けていた。

あんなに苦戦していた魔物が、まるで草でも刈るように。
兵と騎士の差が大きいんだろうか。それとも、彼と他の差?

跳んだ瞬間、放たれた魔矢が複数の魔物に風穴を空けた。
着地と同時に不可視の一閃がもう一体を、返す刃で別の首が飛ぶ。
不規則な軌道を描きながら、彼の居る場からみるみる魔物の数が減っていく。

たった一人の騎士が、魔物の群れを押し返そうとしていた。

オレがいなかったら、ああして前線で最初から活躍できたんだろうか。
きゅっと唇を噛んだ。
もはや一人一人を回復はできない。オレが下にいる方が迷惑になる。
でも、できることはある。

「大魔法を使います! 長くはもちませんよ!!」

声を張ると、気付いたらしいリンドヴァルがこちらを見た。何もするな、と言うんだろ。知ってる。

「ヒーリングストーム!」

オレを中心に回復の光が渦を巻く。唱和するような魔物の悲鳴があがり、光の中立ち上がる兵たちの姿が見えた。
魔物の能力を下げ、周囲一帯を回復し続ける、戦術級の大魔法。多分、オレにしか個人発動できない大魔法。

盛り返せ、盛り返せ。回復ならオレがする。
ぽたり、ぽたりと落ちる汗を感じながら、オレは必死にリンドヴァルを見つめていた。
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