【完結】異教(男)の聖女は監禁・強制労働エンドを迎えるはずでした。が、冷徹騎士がオレの手を掴んでいます

藍 雨音(アイ アオト)

文字の大きさ
17 / 68
第一章 偽りの聖女と冷徹の騎士

17 誰のための救いか

しおりを挟む
起きたら、腹が減っていた。
薄明るいテント内は、しんと静かだ。
リンドヴァル――シグルスはいない。あいつ、いつ寝てるんだろう?
空腹感が嬉しいなんて、変な話だ。
荷物を支えにゆっくり立ち上がり、しばしくらくらするのを耐えれば、動けそうな気がする。

「おー……さすがにまだ若いな。回復しだしたら、早いな」

氷上を歩くようなへっぴり腰で、よたよたしながらテントから出ようとした時、布地に影が写った。
あ、やば……と思っても体は咄嗟に動かない。
案の定、入って来た人影がオレにぶつかって、貧弱な身体は呆気なく弾かれる。

「……何をしている」

……さすがの反応速度。ひっくり返ろうとするオレの身体は、シグルスの片腕ががっちり支えていた。
もう一方の手には、湯気のたつ椀。
朝食かな? なんだかんだ、結構世話やいてくれるやつだ。

「ちょっと、動けるかなって」
「余計なことをするな」
「腹減ったんだよ」

相も変わらず冷徹な瞳は、それでもオレを冷やさない。
ちゃんとオレのままで、人と話ができる。それは、思いのほかオレの内側を建て直していた。

「なら、残さず食え」
「食うよ! ……わ、これ何? 肉が入ってる?! オレ、聖女だけどいいの?! あ、もういいのか?!」

渡された椀の中を覗き込み、無造作に入った肉らしきものに目が輝いた。聖女じゃなくなったら、肉が食えるのか?!

「何を言っている? 聖女の食事にも入っていただろう」
「入ってねえよ! 冷えてほとんど具のないスープとパン、以上! それ以上もそれ以下もねえよ」

愕然としたシグルスの表情で、察した。
あ、これも嘘だ。
他の聖女、きっと普通に食ってたんだ。
そう……だよな、お肌ツヤツヤでメイドさんとか連れて、飯だけアレってことはないよな。

あの子らは貴族だから一緒に食うことなんてないし、オレだってマナーも知らない。
だから、ずっと部屋に運んでもらっていた。
当然メイドさんなんていないし、多分部屋もあの子らとは違ったんだろう。
正直、疲れ切ってたから、寝られればなんでも良かったけど。

「あのさあ、オレに教えられた中で本当のことって、一体何なの」
「……お前は、もっと知識をつけるべきだ」
「すげえ今さら。……はあぁ、美味い。うわあ、美味い」

肉の美味さに悶絶していると、シグルスが深々と溜息を吐いて何かを取り出した。地図だろうか?

「王都から来て――今、ここだ」
「うん」
「ここが国境、これが砦。ここは検問があるが、他は山と森で区切られている」
「……うん。あのさ、それオレに説明してどうすんの? オレ、これから幽閉されるけど」

本当に今さらだ。生真面目なシグルスに苦笑した。
だけど、地図を見るのは面白かった。

「……幽閉が解かれることもある。知識がなければ、解放されてもどうにもならん。森に迷い込めば、魔物に食われて終わるぞ」
「……ふふ。まあ、いいよ。そうだなあ、解放されたらどうしよっかな。せっかく国境にいるなら、向こうの国に行ってみようかな」

宝くじは、買う前が楽しいんだ。当たったら何をしようか、考えて考えて、それで、結局買わないんだよな。買わなきゃ当たるはずがないんだけど。でもいいんだ、それで。

「グリマールは、比較的多様な国だ。しかし、それでも信仰は女神だ」
「へえ。ひとまず、聖女がどうとか言うつもりはないけどさ。飯の美味い国に行きたいよな」
「……飯は、リズウェンも美味い。この辺りなら――」

美味い具沢山スープを噛みしめながら、うんうん頷いて真剣な横顔を眺めた。
生真面目な顔で地図をなぞるシグルスに、少し笑う。
……馬鹿だなあ、解放されるわけないだろ。
たとえ力がなくなっても、オレ自身が機密だぞ?
でも、いっぱい聞いておこう。砦を出たら、何をしようか。その想像は、きっとオレを助けるだろうから。

「ふうん? けどオレ、金持ってないし」

それに……いつか、解放されるかもしれない。それは、コイツの救いになるかもしれないだろ。

「回復の力があれば、いくらでも稼げるだろう」
「なるほど! じゃあ、いっぱい稼いでお前に驕ってやるよ! だから、美味いとこに連れてけよ」
「…………断る。もう関わるな」
「なんでだよ?! ここは、快くOKする場面だろ?!」

どこまでも真面目なシグルスに、オレは思わずスープを吹き出しそうになって笑ったのだった。

しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。

ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。 異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。 二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。 しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。 再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

異世界で聖男と呼ばれる僕、助けた小さな君は宰相になっていた

k-ing /きんぐ★商業5作品
BL
 病院に勤めている橘湊は夜勤明けに家へ帰ると、傷ついた少年が玄関で倒れていた。  言葉も話せず、身寄りもわからない少年を一時的に保護することにした。  小さく甘えん坊な少年との穏やかな日々は、湊にとってかけがえのない時間となる。  しかし、ある日突然、少年は「ありがとう」とだけ告げて異世界へ帰ってしまう。  湊の生活は以前のような日に戻った。  一カ月後に少年は再び湊の前に現れた。  ただ、明らかに成長スピードが早い。  どうやら違う世界から来ているようで、時間軸が異なっているらしい。  弟のように可愛がっていたのに、急に成長する少年に戸惑う湊。  お互いに少しずつ気持ちに気づいた途端、少年は遊びに来なくなってしまう。  あの時、気持ちだけでも伝えれば良かった。  後悔した湊は彼が口ずさむ不思議な呪文を口にする。  気づけば少年の住む異世界に来ていた。  二つの世界を越えた、純情な淡い両片思いの恋物語。  序盤は幼い宰相との現実世界での物語、その後異世界への物語と話は続いていきます。

【土壌改良】スキルで追放された俺、辺境で奇跡の野菜を作ってたら、聖剣の呪いに苦しむ伝説の英雄がやってきて胃袋と心を掴んでしまった

水凪しおん
BL
戦闘にも魔法にも役立たない【土壌改良】スキルを授かった伯爵家三男のフィンは、実家から追放され、痩せ果てた辺境の地へと送られる。しかし、彼は全くめげていなかった。「美味しい野菜が育てばそれでいいや」と、のんびり畑を耕し始める。 そんな彼の作る野菜は、文献にしか存在しない幻の品種だったり、食べた者の体調を回復させたりと、とんでもない奇跡の作物だった。 ある嵐の夜、フィンは一人の男と出会う。彼の名はアッシュ。魔王を倒した伝説の英雄だが、聖剣の呪いに蝕まれ、死を待つ身だった。 フィンの作る野菜スープを口にし、初めて呪いの痛みから解放されたアッシュは、フィンに宣言する。「君の作る野菜が毎日食べたい。……夫もできる」と。 ハズレスキルだと思っていた力は、実は世界を浄化する『創生の力』だった!? 無自覚な追放貴族と、彼に胃袋と心を掴まれた最強の元英雄。二人の甘くて美味しい辺境開拓スローライフが、今、始まる。

この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!

ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。 ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。 これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。 ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!? ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19) 公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年BLです。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

新年に余り物でおせちを作ったら、冷酷と噂の騎士団長様に「運命の番」だと求婚されました

水凪しおん
BL
料理人だった俺が転生したのは、男性オメガというだけで家族に虐げられる不遇の青年カイ。 新年くらいはと前世の記憶を頼りに作ったのは、この世界にはない『おせち料理』だった。 それを偶然口にしたのは、氷のように冷酷と噂される最強の騎士団長リアム。 「お前は俺の運命の番だ」 彼の屋敷に保護され、俺の作る料理が彼の心を溶かしていく。 不器用で、だけどまっすぐな愛情を注いでくれる彼と、美味しい料理で紡ぐ、甘くて温かい異世界スローライフ。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

処理中です...