【完結】異教(男)の聖女は監禁・強制労働エンドを迎えるはずでした。が、冷徹騎士がオレの手を掴んでいます

藍 雨音(アイ アオト)

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第一章 偽りの聖女と冷徹の騎士

18 もらえなかった思い出

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小さく、溜息を吐いた。
……突き刺さる視線が気になって仕方ない。
毛布にくるまりながら、ただぼうっと座っているオレ。
それをじぃーっと穴のあくほどまじまじ見つめている兵士。そんなに見張ってなくても、オレ逃げられないって。やっと一人で歩けるようになったばっかりのヨチヨチだぞ?

シグルスはテントの中。どうやら、この人数になってから夜中ずっと起きているみたいだ。そして、魔物の来ないだろう日中に少し休む。
そろそろ目の下にクマでもできそうなものだけど、こういうところも頑丈なんだろう、いつでも同じ精悍な顔だ。

そして、大分動けるようになったオレは、明るくなるとすぐ外に出される。
日に当たれと言われるけど……オレ、観葉植物か何か?

日光を浴びても元気にはならない、と思ったものの、外に居る方がなんとなく元気な気もする。

火を絶やすなと言われたので、こうして焚き火を見つめながら、時々木を追加するだけのお仕事だ。
だけど思うにこれ、オレが暖を取るための火じゃないだろうか。

小枝がなくなったので、仕方なく大きめの枝を追加してみた。傍らから何か言いたげな視線を感じるけれど、しょうがないだろ、オレにこの枝を小さくできるような力はない。

だけど、それがよくなかったらしい。
もくもく煙が上がり始めて、せき込んだ。
あ、これダメなやつ。
咄嗟に立ち上がれず、完全に煙にまかれて涙目になった。
よくない、これ。息苦しい、マズイ。

全然完治していないオレの肺が、思いっきり拒絶している。
ヒュウヒュウ鳴り始めた喉に手をやった時、横合いからさっと抱え上げられた。

「うわ、軽……細っ! これが男……?」

シグルスかと思った。
突如ゼロになった距離に、焦りが募る。
呼吸を落ち着けるのに必死になりながら、下ろしてくれと身を捩った。

「……あんた、本当に男か?」

煙から遠ざけてくれようとしたのなら、いつまでも抱える意味が分からない。抵抗を封じるように、力を籠める意味も。

「そ……だって! 下ろ、せ」
「ふーん。……さすが、悪魔って言われるだけあるな」

気持ち悪い。意図的に抱き寄せる腕が、手のひらが。寄せられる顔が。
オレが嫌がっていると、分かっているくせに。
ちょうど良い暇つぶしだと思っているのだろう。一向に腕の力が緩まない。

「何をしている!」

鋭い声が響いた途端、兵士が飛び上がって振り返った。

「あっ……すみません! ざ、罪人が煙でむせ込みましたので……」

うわ……怖。
つかつかと歩み寄ってくるシグルスに、兵士の腰が引けた。普段から怖い顔をしていると思っていたけど、そうでもなかったのかも。だって兵士に向ける顔は、こんなに怖い。

「下ろして座らせておけ。いいか、惑わされるな」
「はい……!」

放り投げるように座らされ、やっと解放された体をゴシゴシ両手で擦った。
何なんだ、本当に。何に惑うってんだ。
こんな嗜虐趣味なヤツらを兵やら騎士にしていていいのかよ! ……それとも、そんなヤツらだから、護送に選ばれているんだろうか。

兵を睨みつけたシグルスが、次いでじろりとオレを睨む。
……機嫌、悪いな。そりゃそうだよな、やっと寝られたのに。見張りもせずに、毎日ぐっすり寝てるやつに起こされたらさ。
うん、オレならブチ切れるわ。

「……起こして悪い」

一応、助かったし。夜安全に寝られるのはこいつのお陰だし。
小さく呟いた、礼と謝罪を兼ねた一言。
だけど、少し目を見開いたシグルスは、深い溜息を吐いた。

「違う、お前がすべきは有事に俺を起こすことだ。声を出せ。俺を呼べ。お前にはそれが足りない。……ここでの不祥事は俺に責任がある」
「あ……そう、か。でも――」
「余計なことに、気を回す必要はない」

そんな言い方しなくてもいいだろ。
ぴしゃりと遮られて少しムッとした時、シグルスがぐっと唇を結んだ。

「……お前が、ただの罪人であることを忘れるな」

吐き捨てるようなセリフと、断ち切るように向けられた背中。
そのままテントに戻る後ろ姿を、オレはただ視界の中に収めていた。

「そう、だな」

……今、言わなくてもいいじゃん。
最後にさ、ちょっとくらい友人みたいな雰囲気でさ。そういう思い出くらい、残してもいいじゃん。
じゃないとオレ――。

苦しい胸の内で小さく息をしながら、焚火を見つめる。
水分の蒸発したらしい大きな枝の周囲に、小さな火がちらついていた。

ダメだなあ。
……オレ、この数日、結構楽しかったんだよ。
むしろ、この世界に来て一番楽しかったよ。
それを大事に持って、砦に行こうと思ったんだけど。
やっぱお前は冷たくて真面目だ。友人ごっこくらい、してくれてもいいのに。
わざわざ、くれたもんを叩き落とさなくても。

燃え上がりもせずに段々赤く炭化していく枝を見つめながら、オレは悶える胸苦しさを押し殺して耐えていた。
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