【完結】異教(男)の聖女は監禁・強制労働エンドを迎えるはずでした。が、冷徹騎士がオレの手を掴んでいます

藍 雨音(アイ アオト)

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第一章 偽りの聖女と冷徹の騎士

19 描けない架空の未来

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「――近々隊が戻るだろう。その時点で出発する、備えておけ」

夜になってオレと入れ替わるようにテントを出ていくシグルスが、ちら、とこちらを見てそう言った。つまり、しっかり寝て体調を戻せということだろう。

「うん、そっか」

にこっと笑ってみせる。
どうだ、オレ、全然大丈夫そうだろ。お前のせいで傷付いたりしない。
渾身の虚勢だよ。
オレの最後の見栄かな? 
それとも……無駄な思いやりかな。

オレはまだどこかで、シグルスが未来にオレを気に掛けることがあると、信じたいみたいだ。
いいだろ、そう思うくらい。
一瞬何か言いたげにして、シグルスはスッと視線を逸らして出て行った。

止めていた息を吐き出して、小さく丸くなる。
……居てほしいなあ。
あと二日や三日、我慢してそばに居てくれよ。
怖いなあ。怖いよ、そりゃあさ。
話をしてくれよ。お前と、話をしたい。
仏頂面で頷くだけでいいから。

「と、砦を出たら……何をしようか」

震える声で、架空の未来を思い浮かべようとした。
何だっけ、ええと、飯を……そう、金を稼いで美味い飯を食いに行くんだった。
それで、シグルスを誘って――あ、断られたんだっけ。
ままならない、ものだ。

ほんのり苦笑して、胸苦しさをやり過ごす。
オレは馬鹿だなあ。楽しいことが、シグルスと繋がってしまった。
なんでこうなった。
美味い飯も、温かい毛布も、人間の体温も、会話も、過去も、未来も、なんであいつと繋がってしまったんだ。

眠れるはずもない闇の中、ふと言われた言葉を思い出した。
オレに足りないのは、声をあげることらしい。
辛い時、苦しい時、声をあげられたら、違ったのかもしれない。

だったら今、声をあげたら? どうするんだよ、お前。
脳裏に浮かぶ、困惑するシグルスへざまあみろと言ってやる。
できもしないことを考えて、少しだけ気が晴れた。

――と、ふいに蹄の音が近づいてくるのに気が付いた。
もう別動隊が戻って来たのかと肝を冷やしたけれど、聞こえる音は一騎……? 

覚えのある声がシグルスを呼んで、遠ざかっていく。
興奮したやり取りと、シグルスの苦々しい声。
何か、あったんだろうか。いや、あったんだろうな。

早鐘を打つ胸を感じながら息を潜めていると、誰かが勢いよくテントの中に飛び込んできた。
飛び上がるオレの腕を掴んで引き上げ、そのまま荷物のように小脇に抱えられた。
暴れようとした体から、力が抜ける。

「シグルス?! な、なに?!」
「すぐに発つ。状況が変わった」


蹄が地面を叩く、激しい音。
ほとんど真っ暗な空間を、わずかな明かり魔法だけを頼りに、馬が疾走する。こんなに早く走る馬に乗ったことがない。
激しい揺れに内臓が飛び出そうで、耳元ではヒュウヒュウ風が鳴っている。
ぐるぐる毛布を巻きつけられ、寒くないのが幸いだ。
オレは馬を駆るシグルスの前で、鞍から弾かれそうな体を支えられていた。

「――お前の機密が、逃げた奴らに漏れた。恐らく、奪いに来る」
「そっか」

ぽつぽつと思い出したように語られる言葉を総合すると、どうやら護送途中の騎士たちが、脱走したらしい。それが、オレの機密を知っていたらしいのが問題で。
本来大した罪にならないヤツらが、わざわざ重罪になる脱走を選んだ意味。
オレの情報を売ったにしろ、直接奪いに来るにしろ、いずれにせよ砦に入る前に襲撃があると踏んだらしい。

「もし、敵国に情報を売られたら……」

小さな呟きが、蹄の音に紛れて消えた。
ああ、そうか。ここは国境。シグルスは3人の騎士が奪いに来ることを恐れているんじゃないんだな。
オレの魔石は、そんなに価値があるのか。国家間の諍いになるほどに?

ひとまず場所の割れている野営地から可能な限り離れ、護送馬車を置いて来た地点まで向かっているそう。
こちらはシグルスがいるとはいえ、戦闘員3人。オレに全然身を守る力がないもんで、護送馬車内にでも入れておかなくては、戦闘になった時、不慮の巻き添えで簡単に死んじゃう。悪いね、守りにくくて。

正直オレ、どっちでもいいよ。
一緒じゃん、どっちの国に幽閉されても。案外、北の砦よりマシな扱いがあるかもしれない。

けど……まあ、お前の不手際になるもんな。
それに、こっちの国に利用されている方が、お前の役には立つかもしれない。
シグルスが着けていた魔道具を思い出し、少し笑った。
生真面目なやつだ、きっと思い出す。俺が作った魔石だって。
だったら、そっちの方がいいかもな。

むしろ、さっきまでより今の方が断然落ち着いている。
腹に回った腕が、痛いくらい締まっていて、背中と頭がシグルスの硬い防具にガンガン当たる。
そばに居るなあと思う。
これだけ激しい揺れの中、なんだか眠れそうな気がして可笑しかった。
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