【完結】異教(男)の聖女は監禁・強制労働エンドを迎えるはずでした。が、冷徹騎士がオレの手を掴んでいます

藍 雨音(アイ アオト)

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第一章 偽りの聖女と冷徹の騎士

20 砦を前に

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ほとんど駆け続け、馬の限界ギリギリアウトまで頑張った結果、1日半ほどで放置された護送馬車にたどり着いた。
辿り着きはしたけど。
つ、つら……。
オレ、完全抱えられて乗ってるだけなのに、割と体調最悪だよ? 結構回復したと思ってたのに。
あの時、移動を諦めて野営していたシグルスの判断って、すげえ大事だったんだな。

やっと馬車内に横たえられて、ぐったり目を閉じる。
もう、軽口を叩く力もない。
自分の荒い呼吸と高い体温を感じながら、眠ったのか気を失ったのか、いつの間にか意識は沈んでいた。


――ガタガタ揺れる中、目が開いた。
どのくらい意識がなかったんだろう。
途中も何度か起こされ、多分、何か飲まされていた気がする。おかげで干上がるほどの口渇感はない。
ということはつまり、一日以上経っているのかも。
それはつまり、もう砦が目の前ということかも。
……もったいないことをした。オレの、大事な残り時間だったのに。

ミシミシする体を起こして、息を吐いた。
襲撃は、大丈夫だったんだろう。シグルスの判断が早いおかげか。
格子のはまった窓から覗いてみたけれど、変わらぬ荒野と、左手には森が広がっている。
やや日の低い今は午後かな、それとも明け方かな。
いくら視線を動かしても、シグルスの姿は見えなかった。

馬車が徐々に速度を落とし始め、停車を察知して座席に掴まっておく。
思いのほかゆっくり止まってしばし、扉が開いて見慣れた顔が覗き込んだ。
ああ、居た。

「……起きたか。出ろ」
「もう、砦? 今って朝?」

立てるかな、と用心しいしい腰を上げると、なんとか足は立つよう。
方々に掴まりながら扉まで体を運ぶ最中、ひょいと両脇を支えて子供のように馬車から下ろされ、驚いた。

「まだだ。いい加減、飯を食え。もう既に昼を過ぎた」
「お前……そればっかだな」

食え、寝ていろ、動くな、そんなことばっかり言われている気がする。
自然と浮かぶ笑みに、シグルスは相変わらず唇を引き結んだ仏頂面を返してきた。

既に食事を終えたらしい兵たちが、随分憔悴しているのが分かる。大分、強行軍で向かっているんだろうな。
ふと、見回した視界の中に、見慣れないものがあって息を止めた。

オレの様子に気付いたシグルスが、何も言わずに湯気のたつ椀を押し付ける。
視線を引きはがすように、温かい手の中に意識を持って行った。
……あれが、砦。もう、すぐだな。
明日か、それともこのまま発って、夜中のうちに到着するのだろうか。
顔を上げると、青い瞳と目が合った。

「ちゃんと食うよ」
「そうか」

約束だからな。ちゃんと、砦まで生きてるから。
中々喉を通らない液体を、気合でごくりと飲み込んで笑みを浮かべてみせる。
スッと逸らされた視線をいいことに、オレは舐めるようにスープを飲みながら、その横顔を眺めていた。

警戒を怠っていないのだろうな。遠くを見る瞳が険しい。
高い鼻梁と締まった口元を見ながら、そういえば笑った顔を見たことがないなと思う。
でもさ、オレだって。
思えばオレが本当に笑った顔って、お前しか見てないかも。特別だぞ、覚えておけよ?

お前はさ、任務終わったら何するの? 美味いもん食って、いっぱい寝ろよ。
オレはまあ、せいぜい頑張って魔石作るよ。お前に当たる魔石が、いいもんになるように。
ちょっとくらい、思い出せよ? 聖魔石が、どこから来てんのかさ。

ひたすら胸の内で話しかけながら、少しずつ冷めていくスープを何とか腹の中に落とし込んでいた。
その時――

ハッと立ち上がったシグルスが、ぐるりと周囲を見回したかと思うと、声を張った。

「来るぞ! 多い! 馬車を出せ、武器以外全て置いて行け!」
「は、え、はい!」
「はい……っ?!」

目を瞬く間に、荒っぽく抱えられて手から椀が転がって行った。
オレを馬車に放り込むや否や、シグルス自ら御者台に立って馬を走らせる。
慌てて窓に縋りつくと、同じく慌てふためく兵たちが馬に乗って駆けてくるのが見えた。

襲撃……? でも、まだ何にも……。
首を傾げた時、カカッと馬車を打つ音がした。
何だろうと思う間もなく、突き立ったものを発見して青ざめる。
矢……! シグルスは?!

「シグルス?! 大丈夫か!」
「誰を案じている! 引っ込め、絶対に出るな!」

今さらながら、護送馬車の必要性をありありと感じた。下手したら最初の矢で、オレ死んでる。相手方は馬鹿なんだろうか、オレが欲しいんじゃないのか。それとも、回復の能力があるから大丈夫だとでもと思っているんだろうか。

どうやら、左手の森に身を潜めた一団がいるらしい。そちらから矢が飛んでくる。疾走する馬車の向きを変えようとした時、シグルスの舌打ちが聞こえた。

「た、隊長、無理です、軍が!」

前方の森から流れ出すように現れたのは、数人どころではなかった。
行く手を阻まれ、急旋回して停車した馬車内で、思い切り壁にぶつかる。
同時に、左手の森からも武装した集団が現れた。
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