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第一章 偽りの聖女と冷徹の騎士
21 不屈
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討伐で聞き慣れた、金属の擦れる音がした。
御者台から飛び降りたシグルスが、剣を抜いたのが分かって仰天する。
「何を?! シグルス! シグルス、逃げろ!! 馬鹿か!」
シグルスの、『最悪の想定』。
敵国に売られたら……小さく零したその呟きが思い出され、体が震える。
これ、これ、敵国の軍……! 中隊クラスの人数がいるんじゃないだろうか。
なんで今、剣を抜くんだ、早く逃げろよ!!
「う、うわああ!」
「隊長、逃げましょう!」
1人は、既に逃げている。頑張ってくれ、もう一人。シグルスを引っ張って行ってくれ!
「行っていい。事の次第を国へ伝達しろ、俺は責務を果たす」
「そんな責務、ないですよ?! 罪人より、あなたの方が大事です!」
「シグルス、早く! 早く行け!」
そうだ、オレが出ればいいんだ!
咄嗟に扉に飛びついた途端、即座に気付かれて思い切り閉められ、馬車内でひっくり返った。次いでトン、と馬車が揺れて、扉がびくともしなくなる。
「開けろ! 馬鹿、何やってんだよ! 馬鹿!」
「隊長、もう知りませんよ!」
扉の前に、何か突き立てられたらしい。頑丈な扉は、いくらオレが体当たりしてもビクともしない。
ふとこちらを向いたシグルスが、格子の隙間から小さな皮袋を中へ押し込んだ。
これは、収納袋? なぜ、今。
「出てくるな。それを持っていろ。お前の指図は受けない」
それだけ言って、背中を向けて離れていく。
ああ、ああ、行ってしまう。
震えて震えて、どうしようもない。
どうしよう、どうすればいい? なんでそんなことをする?
そこまでして、敵国に渡ることがダメなら、オレにとどめを刺して行けばいいだろ!
何を叫んでも、扉を叩いても、振り返ってくれない。
オレは初めて、オレ自身を恨んだ。
今すぐ、この息の根を止めてやりたいのに、護送馬車内にそんなものがあるはずもない。
何か大声でやり合っていた双方の意見が割れたらしい。
数回の剣戟が響いたあと、わっと大勢の怒りに満ちた声が轟き始めた。
こちらへ駆け寄って来る集団など、もはやどうでもいい。
人の群れの中に消えたシグルスを探して、必死で視線を彷徨わせた。
「居るか?」
「ああ、美人が居るぞ! 絶対こいつだ!」
「扉を壊せ! いや、このまま運べ!」
馬車に取りついた数人が、護送馬車を動かし始める。いいぞ、とっとと手に入れてくれ。
だから……諦めて逃げてくれ、シグルス。
強いから、絶対生きてる。絶対生きてる。
早鐘を打つ心臓は、もう破れんばかりで息苦しい。
「うあっ?!」
「ぐうっ!」
馬車周囲を囲んでにやついていた敵兵が、突如叫び声をあげて倒れた。真っ直ぐ飛来した魔矢が、馬車の壁をも揺らして掻き消える。
武装集団の一角が崩れて、飛び出してきた騎士。両手に持っていた剣が閃き、風の刃が立ち塞がる敵を吹っ飛ばす。左手にあったはずの剣は、既に馬車付近の敵の胸から生えていた。
一気に駆け戻って来たシグルスが、瞬きの間に馬車周囲の敵を一掃し、再び集団の中へ切り込んでいく。血の匂いと、激しい息遣いが、聞こえた気がした。
嘘だろ。
本気で、1人で相手するつもりか。
脳裏に浮かぶ、討伐時の姿。
ハッとした。
「回復、回復を……!」
震える手を握り込み、オレができるはずの最大の援護を思う。
何の手ごたえもない魔力を探して、首の魔道具を掴んで引っ張った。
邪魔だ、邪魔だ。
こんな時に使えないなら、もう二度と使ってやらない。
聖魔力なんて、今以外いらない。
魔力も、命も、魂も、全部使うつもりで。
響く怒号も、悲鳴も、剣戟も、全部意識の外に。
間に合え、間に合え。
ただひたすら、魔力を巡らせようと死に物狂いで集中した。
御者台から飛び降りたシグルスが、剣を抜いたのが分かって仰天する。
「何を?! シグルス! シグルス、逃げろ!! 馬鹿か!」
シグルスの、『最悪の想定』。
敵国に売られたら……小さく零したその呟きが思い出され、体が震える。
これ、これ、敵国の軍……! 中隊クラスの人数がいるんじゃないだろうか。
なんで今、剣を抜くんだ、早く逃げろよ!!
「う、うわああ!」
「隊長、逃げましょう!」
1人は、既に逃げている。頑張ってくれ、もう一人。シグルスを引っ張って行ってくれ!
「行っていい。事の次第を国へ伝達しろ、俺は責務を果たす」
「そんな責務、ないですよ?! 罪人より、あなたの方が大事です!」
「シグルス、早く! 早く行け!」
そうだ、オレが出ればいいんだ!
咄嗟に扉に飛びついた途端、即座に気付かれて思い切り閉められ、馬車内でひっくり返った。次いでトン、と馬車が揺れて、扉がびくともしなくなる。
「開けろ! 馬鹿、何やってんだよ! 馬鹿!」
「隊長、もう知りませんよ!」
扉の前に、何か突き立てられたらしい。頑丈な扉は、いくらオレが体当たりしてもビクともしない。
ふとこちらを向いたシグルスが、格子の隙間から小さな皮袋を中へ押し込んだ。
これは、収納袋? なぜ、今。
「出てくるな。それを持っていろ。お前の指図は受けない」
それだけ言って、背中を向けて離れていく。
ああ、ああ、行ってしまう。
震えて震えて、どうしようもない。
どうしよう、どうすればいい? なんでそんなことをする?
そこまでして、敵国に渡ることがダメなら、オレにとどめを刺して行けばいいだろ!
何を叫んでも、扉を叩いても、振り返ってくれない。
オレは初めて、オレ自身を恨んだ。
今すぐ、この息の根を止めてやりたいのに、護送馬車内にそんなものがあるはずもない。
何か大声でやり合っていた双方の意見が割れたらしい。
数回の剣戟が響いたあと、わっと大勢の怒りに満ちた声が轟き始めた。
こちらへ駆け寄って来る集団など、もはやどうでもいい。
人の群れの中に消えたシグルスを探して、必死で視線を彷徨わせた。
「居るか?」
「ああ、美人が居るぞ! 絶対こいつだ!」
「扉を壊せ! いや、このまま運べ!」
馬車に取りついた数人が、護送馬車を動かし始める。いいぞ、とっとと手に入れてくれ。
だから……諦めて逃げてくれ、シグルス。
強いから、絶対生きてる。絶対生きてる。
早鐘を打つ心臓は、もう破れんばかりで息苦しい。
「うあっ?!」
「ぐうっ!」
馬車周囲を囲んでにやついていた敵兵が、突如叫び声をあげて倒れた。真っ直ぐ飛来した魔矢が、馬車の壁をも揺らして掻き消える。
武装集団の一角が崩れて、飛び出してきた騎士。両手に持っていた剣が閃き、風の刃が立ち塞がる敵を吹っ飛ばす。左手にあったはずの剣は、既に馬車付近の敵の胸から生えていた。
一気に駆け戻って来たシグルスが、瞬きの間に馬車周囲の敵を一掃し、再び集団の中へ切り込んでいく。血の匂いと、激しい息遣いが、聞こえた気がした。
嘘だろ。
本気で、1人で相手するつもりか。
脳裏に浮かぶ、討伐時の姿。
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何の手ごたえもない魔力を探して、首の魔道具を掴んで引っ張った。
邪魔だ、邪魔だ。
こんな時に使えないなら、もう二度と使ってやらない。
聖魔力なんて、今以外いらない。
魔力も、命も、魂も、全部使うつもりで。
響く怒号も、悲鳴も、剣戟も、全部意識の外に。
間に合え、間に合え。
ただひたすら、魔力を巡らせようと死に物狂いで集中した。
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