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第一章 偽りの聖女と冷徹の騎士
22 騎士の遺言
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そうだ……思い出せ、無理やり引きずり出されていた、あの感覚を。
魔道具に触れた時。あの全身を引き絞られるような苦痛を、血管を引き抜かれるようなおぞましさを。
今度はオレが、やってやる。
感謝するよ、あれを体に覚え込ませてくれたこと!
ブチブチ、身体のどこかで音がする気がした。
引きずり出してやる……!
ぼたぼた落ちるのは脂汗だろうか。
ゴホッとむせ込んだ口内に、鉄臭い味が広がった。
掴みかけた魔力が、ままならずに歯噛みする。
「この野郎……!」
どのくらい経った?
早く、早く。あの青い瞳が、失われる前に。
いいから、出て来い!
ブチリ――!
ひと際激しく全身を貫いた痛みに意識を飛ばしかけ、両手をついてぐっと歯を食いしばった。
荒い呼吸の合間に、みるみる楽になっていく体を感じる。
魔力が、巡っている……!
でも。
「くそっ!! くそ!」
魔力を縛る枷は、一つ外れた。
だけど――この世界は、とことんオレが嫌いらしい。
魔力はオレの身体を巡るものの、それでも内側に閉じ込められたまま。
魔法として放出ができない……!
「シグルスは?!」
荒い呼吸もそのままに、窓に縋りついて驚いた。
百人を超えていただろう軍が、累々と地に折り重なっている。
遠くに、バラバラと逃げていく背中が見える。
でも、シグルスは……?!
叩いても蹴っても、扉が開かない。
必死に体当たりを繰り返していた時、物音が聞こえた。
「シグルス?!」
どん、と馬車に体を預け、ほとんど目を閉じた血濡れの騎士が、扉の前に手を伸ばす。
激しい呼吸の合間を縫って、力を振り絞るように扉前に刺さっていただろう剣を引き抜いた。
オレがまろび出るのと、シグルスが崩れ落ちるのが、ほぼ同時。
倒れ伏した身体の下から、じわじわと広がっていく赤に青ざめた。
どこを押さえればいいかも分からない、方々からの出血。どろどろに汚れた精悍な顔に、べったりと黒髪が貼りついていた。
「シグルス! 生きてろよ、待ってろよ?! 回復、待って、頼むから!」
早く早く早く、今すぐ回復しないと間に合わない。今、すぐに。
こんな勢いで血液が溢れたら、なくなってしまう。空っぽになってしまう。
シグルスの荒かった呼吸が静かになっていくのが恐ろしくて、揺さぶるのも怖くて、ただその手を取った。
ただただオレの中を空回りする魔力は、欠片も外に出て行かない。
うっすらまぶたが持ち上がったのを見て、縋りついた。
「シグルス、待って! もう少しだけ!!」
「聞け、時間……、ない。これでいい」
何がいいのかも分からないまま、ただ頷いた。
「当面、必要な……袋の、中に。地図、思い出せ。谷、に沿って、川……渡るルートから、行け」
「何……? 何の話? なあ、きっと報告に行った騎士が戻って来るから。お前、強いだろ? 待てるよな?」
ふ、と微かにシグルスの口角が上がった気がした。
「無茶、言う……な」
一瞬静かになって、止まっている呼吸に気が付いた。
「やめろ! シグルスってば!」
思わず揺さぶって、はく、と動いた口元に安堵する。
「……計、画を、潰すな。お、れの、嘘……無駄に、なる。それ、見ろ」
「計画……?」
それ、と言われたのが収納袋だと気付いて、慌ててそれを開ける。もしかして、回復薬でも――そう思ったのに。
内部空間の拡張された収納袋には、何も、何も役に立つものが入っていない。
服、金、地図、水袋、保存食――まるで、旅の一式のような。
計画……? お前、これ、いつ、どこで?
何のために。
「逃がして、やる」
虚ろだった青い瞳が一瞬オレを見て、はっきりそう言った。
魔道具に触れた時。あの全身を引き絞られるような苦痛を、血管を引き抜かれるようなおぞましさを。
今度はオレが、やってやる。
感謝するよ、あれを体に覚え込ませてくれたこと!
ブチブチ、身体のどこかで音がする気がした。
引きずり出してやる……!
ぼたぼた落ちるのは脂汗だろうか。
ゴホッとむせ込んだ口内に、鉄臭い味が広がった。
掴みかけた魔力が、ままならずに歯噛みする。
「この野郎……!」
どのくらい経った?
早く、早く。あの青い瞳が、失われる前に。
いいから、出て来い!
ブチリ――!
ひと際激しく全身を貫いた痛みに意識を飛ばしかけ、両手をついてぐっと歯を食いしばった。
荒い呼吸の合間に、みるみる楽になっていく体を感じる。
魔力が、巡っている……!
でも。
「くそっ!! くそ!」
魔力を縛る枷は、一つ外れた。
だけど――この世界は、とことんオレが嫌いらしい。
魔力はオレの身体を巡るものの、それでも内側に閉じ込められたまま。
魔法として放出ができない……!
「シグルスは?!」
荒い呼吸もそのままに、窓に縋りついて驚いた。
百人を超えていただろう軍が、累々と地に折り重なっている。
遠くに、バラバラと逃げていく背中が見える。
でも、シグルスは……?!
叩いても蹴っても、扉が開かない。
必死に体当たりを繰り返していた時、物音が聞こえた。
「シグルス?!」
どん、と馬車に体を預け、ほとんど目を閉じた血濡れの騎士が、扉の前に手を伸ばす。
激しい呼吸の合間を縫って、力を振り絞るように扉前に刺さっていただろう剣を引き抜いた。
オレがまろび出るのと、シグルスが崩れ落ちるのが、ほぼ同時。
倒れ伏した身体の下から、じわじわと広がっていく赤に青ざめた。
どこを押さえればいいかも分からない、方々からの出血。どろどろに汚れた精悍な顔に、べったりと黒髪が貼りついていた。
「シグルス! 生きてろよ、待ってろよ?! 回復、待って、頼むから!」
早く早く早く、今すぐ回復しないと間に合わない。今、すぐに。
こんな勢いで血液が溢れたら、なくなってしまう。空っぽになってしまう。
シグルスの荒かった呼吸が静かになっていくのが恐ろしくて、揺さぶるのも怖くて、ただその手を取った。
ただただオレの中を空回りする魔力は、欠片も外に出て行かない。
うっすらまぶたが持ち上がったのを見て、縋りついた。
「シグルス、待って! もう少しだけ!!」
「聞け、時間……、ない。これでいい」
何がいいのかも分からないまま、ただ頷いた。
「当面、必要な……袋の、中に。地図、思い出せ。谷、に沿って、川……渡るルートから、行け」
「何……? 何の話? なあ、きっと報告に行った騎士が戻って来るから。お前、強いだろ? 待てるよな?」
ふ、と微かにシグルスの口角が上がった気がした。
「無茶、言う……な」
一瞬静かになって、止まっている呼吸に気が付いた。
「やめろ! シグルスってば!」
思わず揺さぶって、はく、と動いた口元に安堵する。
「……計、画を、潰すな。お、れの、嘘……無駄に、なる。それ、見ろ」
「計画……?」
それ、と言われたのが収納袋だと気付いて、慌ててそれを開ける。もしかして、回復薬でも――そう思ったのに。
内部空間の拡張された収納袋には、何も、何も役に立つものが入っていない。
服、金、地図、水袋、保存食――まるで、旅の一式のような。
計画……? お前、これ、いつ、どこで?
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「逃がして、やる」
虚ろだった青い瞳が一瞬オレを見て、はっきりそう言った。
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