【完結】異教(男)の聖女は監禁・強制労働エンドを迎えるはずでした。が、冷徹騎士がオレの手を掴んでいます

藍 雨音(アイ アオト)

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第二章 嘘をやめた騎士と、聖女をやめたオレ

1 嘘をやめた騎士

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――シグルスが、おかしい。
ぼやけた頭で、それだけは分かる。
人間って、混乱が上限を振り切ると頭の中、本当に真っ白になるんだな。
お前、今、なんて。
絶対、お前が言わないことを言った?

顔、熱い。
ゆっくり顔を離したシグルスの視線は、絡んだまま。
自分が何を言おうとしたのか分からないまま、喘ぐように唇を開閉した。
じっと間近くオレを見下ろす瞳が、目を細めて笑みを深くする。
あ、また――

当たり前のように下りてきた精悍な顔に、焦点が合わなくなって。
唇って、男もこんな柔らかいんだな。
はふ、と漏れた息まで食われるような。確かめるような、それ。
恐ろしい勢いで心臓が鳴って、息苦しい。

もう、無理だって。
そんなに、無理だって。
分かったから、もう十分に。
ちゅ、と音をたてて離れて行った途端、唇がすうっと冷たい。
じっとしているのに、どうしてこんなに息が上がるんだ。

見ないでくれよ、その目で。
オレ、目の裏まで熱くて死にそう。

「……大丈夫か?」

可笑しそうに――愛おしそうに笑ったシグルスを、精一杯睨みつけた。
もう、心臓と肺がめちゃくちゃだ。

「大丈夫な、わけ……!! 何、で……」
「理由か? それは、もう一度聞きたいということか?」
「ち、ちがっ……!!」

思わず体を捻って、壁に顔を伏せた。
……でもこの壁、シグルスなわけで。
ぐっと抱き寄せた腕が、くつくつ笑う振動が、すげえダイレクトに伝わってきて、これはこれで死ぬ。

でも、今はこうしてちょっと、落ち着こう。
アイツの顔を見ちゃダメだ。一旦、心臓と肺を落ち着けて、オーバーヒートしている脳みそを保護しなくては。

はあ、ふう、深呼吸のたびに血なまぐささが鼻をついて、少し頭が冷えた。

そうだよ、何やってんだよ。
オレら……というかお前、死闘を潜り抜けたばっかりで、なんかおかしくなってるんじゃないか?
一旦の危機は抜けたとはいえ、楽観できる状況じゃないよな?!
ホント、何やってんの?!
……そういやオレ、抱っこされたままだし?!

「……下ろせよ。歩ける」

シグルスの胸に顔を埋めたまま、もそもそ主張してみる。
返事が、ものすごく近い位置から吹き込まれて、ビクッとした。

「ダメだ、もう暗い。この方が守りやすい」
「嘘つけ、両手塞がってんじゃん」
「そう思うなら、片手を空けてくれるか」

ゆっくりシグルスの腕が位置を変え、横抱きになっていたオレの身体が、シグルスの腕に腰かけるような形になった。
今度はオレが見下ろす形になった、端正な顔。
随分と温度を上げた、青い瞳。この色は、冷たいものだと思っていたのに。

「……落ち着いたか?」
「だっ、誰のせいで!!」
「俺だ」

にやっと笑う顔が、あまりに堂々としていて、わけがわからない。
こいつ、さっき、オレに――オレのこと、好き、って言った?
普通に、き、キス、した??
情況を整理しようとして、墓穴を掘った。
耳まで熱いから、きっと赤い。暗い森の中であったことが幸いだ。

ふい、とシグルスの身体が動いて、ギャンと鋭い悲鳴が上がる。
続けざまに、もう一度、もう一度。
いとも簡単に魔物を屠って、まるで町中のような速度ですたすた歩くシグルス。
命のやり取りに、熱かった身体が冷えていく。
いやほんと、馬鹿なこと考えてる場合じゃない。
それもこれもお前のせいだけどな!!

一旦意味不明な数々は脇へ置いておき、深呼吸する。

「森を抜けるのか? これ、危険なルートだろ?」
「俺がいる場合は、別だ。お前はもう少しけていてもいいぞ」
「い、言うなっ! せっかく、冷静に……!!」

だ、ダメだダメだ!!
このシグルスの口車に乗っては。
こいつ、ちょっとおかしくなってんだよ。
もしかして、聖魔力に酩酊効果とかあるのかもしれない。だとしたら、凄い量の聖魔力注いだからな。さもありなん、だ。

……そう、明日になれば、きれいさっぱり覚えてないかもしれない。

言いようのない胸苦しさが重く、重く体の中に沈み込む。
明日になって、何にも覚えてなかったら。
あの、冷徹な瞳で見下ろされたら。
再び、砦へ向けて出発したら。

オレは、果たして耐えられるだろうか。
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