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ヘタレマスターに召喚されたんだが
ヘタレマスターの大勝負
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「ちょっと黙ってて」
珍しく、ゼロが強い口調で俺を諌めた。
顔は俺の方を見ているが、どうやらギルドマスターと低レベル冒険者との交渉に聞き耳を立てているらしい。
会話を真剣な表情で聞いていたゼロは、暫くすると、ふう……っと息を吐いて、顔をあげた。
「次、行こう?」
わけも分からないまま、有名ギルドばかりを連れ回される。そして同じように暫くギルドマスターと冒険者たちの会話を聞いては、無言でギルドをあとにした。
いったい何がしたいんだ。
わけを聞いてもゼロはニコニコと笑ってごまかすだけで、まったく口を割らない。
なんなんだ、この頑固さは!
日も暮れかかってきた頃に辿りついたのは、この街でNO.1の呼び声高い、超有名ギルドだった。
「…………!!!」
入った瞬間、ヤバいと分かる。
ダメだ!
ゼロの正体がバレる!
ゼロが殺されてしまう!!
体中に戦慄が走った。腕には鳥肌がいっぱいに浮き出て、気を抜くと腰が抜けてしまいそうなほどの恐怖が全身を苛んでいく。
俺は咄嗟にゼロの腕を掴み、ギルドを出ようと試みる。
だが、それは叶わなかった。
あろう事かゼロ本人が、柱をしっかり掴んで抵抗しているのだ。目立ちたくない俺は、小声で説得を試みる。
「ゼロ、何したいのか知らねぇが、ココだけはマズい! 頼むから……!」
「イヤだ! 」
ひ弱なくせに、なぜかゼロは全力で抵抗してくる。アイツに気付かれたらお終いなんだぞ。一刻を争うんだって!
「うるせぇ! 行くぞ!」
焦れた俺は、柱からゼロの指を剥がしにかかる。そんなひょろっこい腕で、俺に敵うと思うなよ!
指が一本、また一本と柱から剥がされていくのに危機感を覚えたのだろう、ゼロは必死に身をよじって抵抗してくる。ちくしょう、しぶとい……!
「離せよっ! ここが最後の望みなんだ! 嫌ならハクだけ帰れよ!!」
「う……わっ」
慌ててゼロの口をふさいだ。頼むからでかい声出すなよ、このヘタレマスターめ! 俺がこんなに心配してんのが分かんねーのか!
もがくゼロを抑えようと悪戦苦闘する俺の背中に、いきなり激しい悪寒が走る。
次の瞬間、俺が一番恐れていた事態が起こってしまった。俺の戦慄の元凶、ギルドマスターが声をかけてきたんだ。
「よう、オレ様の店で仲間割れとは、勇気があるなァ」
ふざけたようにも聞こえるその声に、一瞬で全身の毛穴が開くのを感じる。この街で今一番強いのは、間違いなくこいつだと、本能が告げていた。
「元気なヤツは嫌いじゃねぇが、店先で騒がれるのは迷惑だ。ココアでも奢ってやるから、大人しくそこの席に座ってろ」
凶悪な気配を纏ったまま、ギルドマスターがカウンター横の席を指して笑う。
もはや逃げる事も出来ない。
完全にバカにされている感じだが、実力差があり過ぎて体がすくむ。ギルドマスターはニヤニヤと笑いながらゆっくりと俺に近づいて来ると、威圧感たっぷりに見下ろして来た。
「とって喰いやしないって。お前のマスター様にも、今は手出しはしねぇよ。……お仲間サン」
小さく耳打ちすると、ギルドマスターはカウンターに戻り、冒険者の相手を再開する。
やっぱり完全に何もかもバレてるよな……あの口調。
冷や汗が身体中を伝って気持ち悪い。悔しいが、もらったココアの熱が有難かった。
ゼロはここでも飽きずに、ギルドマスターと冒険者の交渉を見つめている。
さっきのギルドマスターは何事もなかったかのように、いかにもぺーぺーっぽい駆け出し冒険者のデコを小突きながら忌憚ない笑みを見せているし、このギルド兼酒場はさっきまでと何も変わらず、ガタイの言いおっさん達が酒を酌み交わしては騒いでいる。
その中で、俺だけが小刻みに震え、冷や汗を垂らしていた。
ちくしょう、なんで人間はアイツの威圧感を感じないんだ! これじゃ俺がチキンみたいじゃねえかよ。
納得がいかなくて腹立たしいが、アイツが威圧感を完全に俺に向けて放ってるから、指一本気軽に動かせない。そしてゼロはそんな俺にも気づかない程一心に、アイツ……ギルドマスターを見つめていた。
駆け出し冒険者とギルドマスターとの交渉が終わったのを見届けると、ようやくゼロは俺に視線を戻す。
「さっきはゴメン、ハク」
「………」
シカトしてやる。
無言でカップに視線を落として見せれば、ゼロは困ったように笑ってそのまま席を立った。
「僕、ギルドマスターと話してくるね。ハクはここで待ってて」
「お前は、アホかぁ!」
何も分かってねぇ!
コイツはホントに何も分かってねぇ!
「あのなぁ! なんでギルドマスターなんかしてるのか知らねぇが、あいつ火龍だ。レア度11、ウルトラレアのバケモノだぞ!? しかも絶対、レベル150はある! あり得ねぇ威圧感だ。お前、殺される……行かせられるかよ!」
俺は必死に、小声でまくし立てた。
なのにゼロは、決意に満ちた目で俺を制する。
「大丈夫。あの人さっき、今は手を出さないって言ってたよね」
くそぅ、ばっちりゼロにも聞こえてるじゃねぇか! 何のための耳打ちだよ!
態度も声もでかいギルドマスターを心中で恨みながらゼロと睨み合うが、ぶっちゃけ勝てる気がしない。
こうと決めたらテコでも動かないのは、この町に来てからの動きでイヤという程分かっている。暫く睨み合った後、俺は折れた。
「しょうがねぇ、俺もいく」
「いや、ここで待ってて欲しい」
間髪いれずに断られた。ホンっト、ムカつくな! こいつ!
「テメェ、いい加減にしろよ? 一人で行かせられるわけねーだろ」
「じゃあ何があっても、あの人に攻撃しないで欲しい。イヤならここで待ってて」
「……しねぇよ」
渋々だがちゃんとそう誓ったのに、さらに「何があっても、だからね!」と念を押される。さっきから、まるで信用されてないみたいに思えて傷つくんだけどな、実際。
そこに、笑いを堪えた声が割って入った。
「あー、そろそろ内輪モメは終わったかぁ? オレ様に話しがあるんだろ、上の個室に来な」
**********************************
そして今、俺の目の前には火龍が悠然と座っている。
見た目は20代後半に見えるが、実際は2000年以上は生きているだろう。火龍の特徴でもある真っ赤な髪は緩いウェーブの短髪だ。真っ赤な瞳、精悍な顔、浅黒い肌、190cmあろうかという長身、口調。全てがあいまって、豪快な印象を醸し出していた。
「で? 坊ちゃん達が二人して、一体何を話そうってんだぁ?」
火龍は試すような笑顔を向けてくる。
ちっ、完全に面白がってるな。……でも、俺も聞きたい、ゼロが一体何を考えてるのか。
散々街を歩き回って、ようやくゼロがこれまでとは違う動きを見せたんだ。きっと、これでゼロの目的が分かるだろう。
黙って見守る俺の横で、ゼロは大きく息を吸って、緊張した面持ちで話し始めた。
「え、と……はじめまして。僕、ゼロっていいます。昨日からダンジョンマスターする事になりました」
はあ!!??
な、な、何、普通に言っちゃってるんだ!? 俺は驚愕でのけぞった。
「へぇ、オレ様のギルドでそれをカミングアウトとは勇気があるねぇ。……殺されてぇのかぁ?」
ニヤリと口の端を上げて、火龍はあからさまに脅してくる。もちろん火龍にしてみれば、軽いジャブと言ったところだろう。それでも十分に肝が冷えた。
ゼロの顔も自然、引き締まる。それでも覚悟を決めたのか、ゼロは一息にこう言い切った。
「実はあなたにお願いしたい事があって来たんです。……僕のダンジョンを、このギルド専用の、低レベル冒険者用の訓練所に出来ませんか?」
それを聞いて、火龍は爆笑しだした。
「おまっ! いきなり核心から話したなぁ! 普通いきさつとかっ、もったいぶるだろー!」
町中に響き渡るんじゃないかという勢いで、火龍はまだ笑っている。どこがこいつのツボだったんだか知らねえが、ゼロもポカンとした表情でただただ火龍を見ていた。
「いやー、悪くねぇ!」
「はぁ」
テーブル越しにバンバンとゼロの肩を叩きながら、火龍はなおも笑っている。俺は……俺は、こっそりと息を吐きだした。とりあえず、問答無用で殺されるわけではないらしいと思えたからだ。
「お前が頼みたい事は大体分かった。そんで、だ。なんでそんな事考えついたのか、順を追って話してみな。話によっちゃあ力になるぜぇ?」
「え? えっと」
爆笑されて緊張が解けたのか、ゼロは、初めて俺と出会った時のように、ヘタレ感丸出しでポツリポツリと話し始めた。
俺に話してくれたように、記憶がない事も異世界から召喚されたようである事も……ダンジョンコアの事まで、洗いざらい話している。
そこまで話していいものかと内心ハラハラしっぱなしだが、ゼロが何をしようとしているのかが分からない以上、止めるわけにもいかない。火龍の機嫌を損ねても死に直結しそうなだけに、俺もおとなしく話をきくしかなかった。
「僕、いきなりダンジョン作って、侵入者殺せって言われても怖いしムリで……」
「なるほどなぁ。お前、戦闘経験なさそうだもんなぁ」
そして、なぜか目の前の火龍も、親身になってゼロの話を聞いている。
ダンジョンマスターと、そのダンジョンを攻略する冒険者たちを束ねるギルドマスターが、穏やかに話してるとか意味がわからねぇんだが。
俺の混乱を他所に、ゼロはボソボソとつぶやくように、それでも必死に話していた。
「でもハクは」
「ハク……? ああ、召喚したダンジョンモンスターってのがコイツなんだな?」
コクリとひとつ頷いて、ゼロが続ける。
「ハクは、龍に進化したいから経験値沢山欲しいみたいだし。僕、なんとか平和に、ダンジョン使って撃退ポイントだけで経験値が稼げないかと思って……」
その言葉に、俺はゼロを二度見した。
まさかゼロ、俺のために経験値を効率良く稼ごうって考えてたのか!?
驚きでゼロを凝視する俺を見て、火龍は面白そうにニヤニヤ笑う。そして、顎をさすりながら少し考えると、素朴な疑問を口にした。
「それで、なんでいきなり訓練所なんて思いついたんだ?」
「今、僕が欲しいから。安全な、駆け出し冒険者用の訓練所」
「なるほどなぁ。で、ギルドなら需要があると踏んだんだな? なぜ俺様のギルドを選んだ?」
「力が足りない依頼は絶対にやらせないって、さっき冒険者の人に言ってたから。他のギルドは、冒険者が怖がっててもキツめの依頼をやらせてた。初心者用の訓練所なんて、他のギルドなら鼻で笑われそうだったし……」
それを聞いた火龍は、またも豪快に笑い出した。
珍しく、ゼロが強い口調で俺を諌めた。
顔は俺の方を見ているが、どうやらギルドマスターと低レベル冒険者との交渉に聞き耳を立てているらしい。
会話を真剣な表情で聞いていたゼロは、暫くすると、ふう……っと息を吐いて、顔をあげた。
「次、行こう?」
わけも分からないまま、有名ギルドばかりを連れ回される。そして同じように暫くギルドマスターと冒険者たちの会話を聞いては、無言でギルドをあとにした。
いったい何がしたいんだ。
わけを聞いてもゼロはニコニコと笑ってごまかすだけで、まったく口を割らない。
なんなんだ、この頑固さは!
日も暮れかかってきた頃に辿りついたのは、この街でNO.1の呼び声高い、超有名ギルドだった。
「…………!!!」
入った瞬間、ヤバいと分かる。
ダメだ!
ゼロの正体がバレる!
ゼロが殺されてしまう!!
体中に戦慄が走った。腕には鳥肌がいっぱいに浮き出て、気を抜くと腰が抜けてしまいそうなほどの恐怖が全身を苛んでいく。
俺は咄嗟にゼロの腕を掴み、ギルドを出ようと試みる。
だが、それは叶わなかった。
あろう事かゼロ本人が、柱をしっかり掴んで抵抗しているのだ。目立ちたくない俺は、小声で説得を試みる。
「ゼロ、何したいのか知らねぇが、ココだけはマズい! 頼むから……!」
「イヤだ! 」
ひ弱なくせに、なぜかゼロは全力で抵抗してくる。アイツに気付かれたらお終いなんだぞ。一刻を争うんだって!
「うるせぇ! 行くぞ!」
焦れた俺は、柱からゼロの指を剥がしにかかる。そんなひょろっこい腕で、俺に敵うと思うなよ!
指が一本、また一本と柱から剥がされていくのに危機感を覚えたのだろう、ゼロは必死に身をよじって抵抗してくる。ちくしょう、しぶとい……!
「離せよっ! ここが最後の望みなんだ! 嫌ならハクだけ帰れよ!!」
「う……わっ」
慌ててゼロの口をふさいだ。頼むからでかい声出すなよ、このヘタレマスターめ! 俺がこんなに心配してんのが分かんねーのか!
もがくゼロを抑えようと悪戦苦闘する俺の背中に、いきなり激しい悪寒が走る。
次の瞬間、俺が一番恐れていた事態が起こってしまった。俺の戦慄の元凶、ギルドマスターが声をかけてきたんだ。
「よう、オレ様の店で仲間割れとは、勇気があるなァ」
ふざけたようにも聞こえるその声に、一瞬で全身の毛穴が開くのを感じる。この街で今一番強いのは、間違いなくこいつだと、本能が告げていた。
「元気なヤツは嫌いじゃねぇが、店先で騒がれるのは迷惑だ。ココアでも奢ってやるから、大人しくそこの席に座ってろ」
凶悪な気配を纏ったまま、ギルドマスターがカウンター横の席を指して笑う。
もはや逃げる事も出来ない。
完全にバカにされている感じだが、実力差があり過ぎて体がすくむ。ギルドマスターはニヤニヤと笑いながらゆっくりと俺に近づいて来ると、威圧感たっぷりに見下ろして来た。
「とって喰いやしないって。お前のマスター様にも、今は手出しはしねぇよ。……お仲間サン」
小さく耳打ちすると、ギルドマスターはカウンターに戻り、冒険者の相手を再開する。
やっぱり完全に何もかもバレてるよな……あの口調。
冷や汗が身体中を伝って気持ち悪い。悔しいが、もらったココアの熱が有難かった。
ゼロはここでも飽きずに、ギルドマスターと冒険者の交渉を見つめている。
さっきのギルドマスターは何事もなかったかのように、いかにもぺーぺーっぽい駆け出し冒険者のデコを小突きながら忌憚ない笑みを見せているし、このギルド兼酒場はさっきまでと何も変わらず、ガタイの言いおっさん達が酒を酌み交わしては騒いでいる。
その中で、俺だけが小刻みに震え、冷や汗を垂らしていた。
ちくしょう、なんで人間はアイツの威圧感を感じないんだ! これじゃ俺がチキンみたいじゃねえかよ。
納得がいかなくて腹立たしいが、アイツが威圧感を完全に俺に向けて放ってるから、指一本気軽に動かせない。そしてゼロはそんな俺にも気づかない程一心に、アイツ……ギルドマスターを見つめていた。
駆け出し冒険者とギルドマスターとの交渉が終わったのを見届けると、ようやくゼロは俺に視線を戻す。
「さっきはゴメン、ハク」
「………」
シカトしてやる。
無言でカップに視線を落として見せれば、ゼロは困ったように笑ってそのまま席を立った。
「僕、ギルドマスターと話してくるね。ハクはここで待ってて」
「お前は、アホかぁ!」
何も分かってねぇ!
コイツはホントに何も分かってねぇ!
「あのなぁ! なんでギルドマスターなんかしてるのか知らねぇが、あいつ火龍だ。レア度11、ウルトラレアのバケモノだぞ!? しかも絶対、レベル150はある! あり得ねぇ威圧感だ。お前、殺される……行かせられるかよ!」
俺は必死に、小声でまくし立てた。
なのにゼロは、決意に満ちた目で俺を制する。
「大丈夫。あの人さっき、今は手を出さないって言ってたよね」
くそぅ、ばっちりゼロにも聞こえてるじゃねぇか! 何のための耳打ちだよ!
態度も声もでかいギルドマスターを心中で恨みながらゼロと睨み合うが、ぶっちゃけ勝てる気がしない。
こうと決めたらテコでも動かないのは、この町に来てからの動きでイヤという程分かっている。暫く睨み合った後、俺は折れた。
「しょうがねぇ、俺もいく」
「いや、ここで待ってて欲しい」
間髪いれずに断られた。ホンっト、ムカつくな! こいつ!
「テメェ、いい加減にしろよ? 一人で行かせられるわけねーだろ」
「じゃあ何があっても、あの人に攻撃しないで欲しい。イヤならここで待ってて」
「……しねぇよ」
渋々だがちゃんとそう誓ったのに、さらに「何があっても、だからね!」と念を押される。さっきから、まるで信用されてないみたいに思えて傷つくんだけどな、実際。
そこに、笑いを堪えた声が割って入った。
「あー、そろそろ内輪モメは終わったかぁ? オレ様に話しがあるんだろ、上の個室に来な」
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そして今、俺の目の前には火龍が悠然と座っている。
見た目は20代後半に見えるが、実際は2000年以上は生きているだろう。火龍の特徴でもある真っ赤な髪は緩いウェーブの短髪だ。真っ赤な瞳、精悍な顔、浅黒い肌、190cmあろうかという長身、口調。全てがあいまって、豪快な印象を醸し出していた。
「で? 坊ちゃん達が二人して、一体何を話そうってんだぁ?」
火龍は試すような笑顔を向けてくる。
ちっ、完全に面白がってるな。……でも、俺も聞きたい、ゼロが一体何を考えてるのか。
散々街を歩き回って、ようやくゼロがこれまでとは違う動きを見せたんだ。きっと、これでゼロの目的が分かるだろう。
黙って見守る俺の横で、ゼロは大きく息を吸って、緊張した面持ちで話し始めた。
「え、と……はじめまして。僕、ゼロっていいます。昨日からダンジョンマスターする事になりました」
はあ!!??
な、な、何、普通に言っちゃってるんだ!? 俺は驚愕でのけぞった。
「へぇ、オレ様のギルドでそれをカミングアウトとは勇気があるねぇ。……殺されてぇのかぁ?」
ニヤリと口の端を上げて、火龍はあからさまに脅してくる。もちろん火龍にしてみれば、軽いジャブと言ったところだろう。それでも十分に肝が冷えた。
ゼロの顔も自然、引き締まる。それでも覚悟を決めたのか、ゼロは一息にこう言い切った。
「実はあなたにお願いしたい事があって来たんです。……僕のダンジョンを、このギルド専用の、低レベル冒険者用の訓練所に出来ませんか?」
それを聞いて、火龍は爆笑しだした。
「おまっ! いきなり核心から話したなぁ! 普通いきさつとかっ、もったいぶるだろー!」
町中に響き渡るんじゃないかという勢いで、火龍はまだ笑っている。どこがこいつのツボだったんだか知らねえが、ゼロもポカンとした表情でただただ火龍を見ていた。
「いやー、悪くねぇ!」
「はぁ」
テーブル越しにバンバンとゼロの肩を叩きながら、火龍はなおも笑っている。俺は……俺は、こっそりと息を吐きだした。とりあえず、問答無用で殺されるわけではないらしいと思えたからだ。
「お前が頼みたい事は大体分かった。そんで、だ。なんでそんな事考えついたのか、順を追って話してみな。話によっちゃあ力になるぜぇ?」
「え? えっと」
爆笑されて緊張が解けたのか、ゼロは、初めて俺と出会った時のように、ヘタレ感丸出しでポツリポツリと話し始めた。
俺に話してくれたように、記憶がない事も異世界から召喚されたようである事も……ダンジョンコアの事まで、洗いざらい話している。
そこまで話していいものかと内心ハラハラしっぱなしだが、ゼロが何をしようとしているのかが分からない以上、止めるわけにもいかない。火龍の機嫌を損ねても死に直結しそうなだけに、俺もおとなしく話をきくしかなかった。
「僕、いきなりダンジョン作って、侵入者殺せって言われても怖いしムリで……」
「なるほどなぁ。お前、戦闘経験なさそうだもんなぁ」
そして、なぜか目の前の火龍も、親身になってゼロの話を聞いている。
ダンジョンマスターと、そのダンジョンを攻略する冒険者たちを束ねるギルドマスターが、穏やかに話してるとか意味がわからねぇんだが。
俺の混乱を他所に、ゼロはボソボソとつぶやくように、それでも必死に話していた。
「でもハクは」
「ハク……? ああ、召喚したダンジョンモンスターってのがコイツなんだな?」
コクリとひとつ頷いて、ゼロが続ける。
「ハクは、龍に進化したいから経験値沢山欲しいみたいだし。僕、なんとか平和に、ダンジョン使って撃退ポイントだけで経験値が稼げないかと思って……」
その言葉に、俺はゼロを二度見した。
まさかゼロ、俺のために経験値を効率良く稼ごうって考えてたのか!?
驚きでゼロを凝視する俺を見て、火龍は面白そうにニヤニヤ笑う。そして、顎をさすりながら少し考えると、素朴な疑問を口にした。
「それで、なんでいきなり訓練所なんて思いついたんだ?」
「今、僕が欲しいから。安全な、駆け出し冒険者用の訓練所」
「なるほどなぁ。で、ギルドなら需要があると踏んだんだな? なぜ俺様のギルドを選んだ?」
「力が足りない依頼は絶対にやらせないって、さっき冒険者の人に言ってたから。他のギルドは、冒険者が怖がっててもキツめの依頼をやらせてた。初心者用の訓練所なんて、他のギルドなら鼻で笑われそうだったし……」
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