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コーチの弟子は長男くんです

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「で、この肉に食らいついて離れない子はトマが、そこのおどおどしてる子はジョットが鍛えてやって」


アルマさんのお話なんかどこ吹く風の長男くんは、相変わらずおっきなお肉にぴったりとくっついている。だいぶ消化しちゃって、今やお肉だって半分くらいの大きさになってるし、もう体の中に全部取り込んじゃって一気に消化しちゃえばいいんじゃないかしら。

コーチがのしのしと近づいて行って真横で胡座を組んで座り込んでも、鼻がくっつくくらい近くに顔を寄せても、長男くんはお肉の魔力に取り憑かれたみたいに一心にお肉と向き合っている。

その姿を数秒見守ったコーチは、楽しそうに破顔した。


「いーんじゃねえか? 気に入った!」


お肉の塊をグイッと長男くんに押し込んで「そんなに肉が気に入ったなら全部食っちまえ」と太っ腹な事を言う。このパーティーで一番お肉を食べるのはコーチだから似たもの同士かもね。


「食え食え、肉さえ食ってりゃ力なんか勝手につくもんだ。この食いっぷり、頼もしいじゃねえか!」


豪快にコーチが笑えば、長男くんもプルプルと揺れる。どうやらコーチはお肉をたくさんくれるいい人として、長男くんに認識されたらしい。良かった、意外にも二人はうまくいきそう。

長男くんはちょっと荒いところもあるけど、一番勇敢で元気がいいから、コーチともきっとウマが合うんじゃないかな。


「おっし、オマエの名前はトップだ!スライム界で一番の漢になれよ!」


コーチらしいアツい檄が飛ぶ。でもさ、あたしが言うのもなんだけど、スライム界で一番って言われてもなんとなく凄そうではない気がするんだけど、そこんとこどうなんだろう。


「えーっと、なんか目印になるもんが要るんだったな。そうだな……一番を目指すオマエにはコレだ!」


ずいっと差し出された物を見て、長男くん改めトップくんが若干身を引いた。

うん、気持ちは分かる。だってなんかこう、こ汚い布切れだもんね。リーナさんがぽよちゃんにあげたバンダナとは雲泥の差っていうか。


「オマエ、スラ吉なみに失礼なヤツだな! 言っておくがこのハチマキは俺が駆け出しの頃から愛用している努力と根性と汗と涙が染み込んだ、二つと無い品だぞ!これを頭に巻くだけで勇気とやる気が湧いてくるという、まぼろしのマジックアイテムをくれてやる、俺の心意気が分かんねえのか!」


あっ……。

トップくんたら嬉しげに跳ね始めた。コーチにハチマキを締めてもらって、ご機嫌にジャンプをかましている。

うわあ……これもう、洗脳じゃないの? トップくん、残念だけど多分それ、マジックアイテムでもなんでもない、コーチの汗まみれのハチマキだから……。

そうは思うものの、トップくんは嬉しそうだし、コーチは満足げに「じゃあ一緒にうさぎ跳び千回だ!」とか、スライムには無理なこと言いながらノリノリで訓練に入っちゃったし、なんかもうこれはこれでいい気がしてきた。

もう、二人で仲良くうさぎ跳びすればいいと思うよ。
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