現実的な愛の妄想

タロウ

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うなじに落ちる唇に、思わず首が仰け反る。
 「……っ」
 声を抑えようと噛みしめた唇の隙間から、息が零れる。

 見上げると、誠一の眼差しがそこにあった。
 静かに、揺るがず、ただ「欲しい」と訴える自分の視線を正面から受け止めている。
 目を逸らせなかった。逸らしたら、今の熱が切れてしまう気がした。

 彼は短く息を吐き、口角をわずかに上げる。
 「……もう少し、溶かしたいんです」
 それだけを告げて、再び首筋へ唇を押し当てた。

 撫でていた指先が、背中の曲線をなぞっていく。
 肩甲骨の縁を掠め、背骨を上下に行き来し、腰骨の少し上で止まる。
 布越しに触れられているのに、肌の奥まで甘い熱が浸透していく。

 「や……やだ、そこ……っ」
 声は拒絶に似ているのに、体は逃げない。
 むしろ彼の手の動きを追うように、背中が勝手に反ってしまう。

 「やめますか」
 耳元に落とされた問い。
 私は、首を振った。
 「……違う、やめないで。……もっと」

 彼の喉が小さく鳴る。
 「分かりました」
 その声には、安堵と高揚の両方が滲んでいた。

 今度の愛撫は、一段強かった。
 指の腹で、乳房の外縁をなぞる。先端には触れない。けれど、近づいては離れ、離れてはまた戻る。
 その曖昧さが、逆に鋭く胸の奥を抉った。
 「……っ、ふ、あ、ああ……っ」
 甘い痺れが胸から広がり、肺の奥まで波を打つ。

 脚にも手が移る。
 太腿の外側をゆっくり撫で上げ、内腿の境界線すれすれで止まる。
 布の上から、けれどクリトリスに近い場所をわずかに擦られるたび、腰が勝手に浮いた。
 「っ、あ、だめ、もう……」
 口では否定する。
 でも身体は、彼の指に吸い寄せられるように反応してしまう。

 「奈緒さん……身体は正直ですね」
 耳元で囁かれて、視界が滲んだ。

 途切れ途切れの甘イキが、次々と押し寄せる。
 まだ浅い。けれど止まらない。
 背中を、胸を、太腿を、撫でては口づけ、口づけてはまた撫でる。
 「っ、や、あ、あぁ……っ、だめ、止まらない……っ」
 言葉と反対に、体は彼に縋りついて離れなかった。
脚の奥が勝手に痙攣して、シーツを爪で掴んだ。
 「っ……あ、や、だめ……っ」
 言葉は拒絶の形をしているのに、脚の付け根から熱い雫が零れ落ちる。
 シーツを濡らすその感触に、自分で驚き、羞恥と快感が一気に込み上げた。

 誠一は、その光景を見て目を細める。
 「……もう、耐えられないですか」
 低い声。責めではなく、確認でもなく、ただ真実を突きつける響き。

 逃げ場はなかった。視線を逸らすこともできずに、首を振る。
 「ち、違う……もっと……」
 かすれ声で絞り出す。否定のはずなのに、願いになってしまう。

 誠一の口元が、満足げにゆるんだ。
 「じゃあ、いいものをあげますね」

 次の瞬間、愛撫の質が変わった。
 背中や太腿の外側をなぞっていた手が、今度は内へ、内へ。
 乳房の輪郭の外をゆっくり描いていた指先が、徐々に中心へ近づく。
 そして――唇と舌が、秘部のすぐ上に落ちた。

 「……っ、あああぁ……っ!」

 布越しにかすめる熱が、そこだけ別の温度を帯びる。
 舌が布の山を押し上げ、クリトリスの周囲を舐め回す。直撃はしない。だが、近い。近すぎる。
 「やっ、やぁ……っ、そんな……っ」
 否定の言葉と同時に、腰が勝手に浮いた。

 誠一は舌先を上下に滑らせ、時折強く押し当て、すぐに離す。
 焦らされるたび、痺れが全身を駆け上がり、呼吸が荒くなる。
 「っ……ん、んんんっ、あ、あぁ……っ!」
 翻弄されて、甘イキが何度も押し寄せる。

 脚が止まらない。膝が震えて閉じられず、シーツに爪を立てた手が汗で滑る。
 誠一はそんな私の様子を見て、わずかに笑った。
 「……かわいいですね。まだ、いけますよ」

 舌がさらに深く潜り、今度はクリトリスを軽く吸い上げる。
 「っ、あああああ……っ!」
 背中が反り返り、涙が滲む。
 浅い絶頂が、重い甘イキに変わっていく。

 「もう……む、無理……っ」
 口からは限界の言葉しか出ない。
 けれど、身体は違った。腰が彼の舌を追い、脚が逃げる代わりに開かれていく。
 「……身体は正直ですね」
 その囁きに、羞恥と快感が混ざって頭が真っ白になる。

 誠一の手が胸に戻る。乳首には触れない。けれど輪郭をなぞる指が、甘さを何重にも重ねていく。
 下では舌がクリトリスを転がし、上では胸を撫で回す。
 上下から挟まれるみたいに責められ、声が途切れ途切れに溢れた。
 「っ、あ、あぁ……っ、だめ、やっ、ああ……っ!」

 絶頂が連続して襲う。
 ひとつが終わる前に、次が始まる。
 波が重なり合い、境界が消えていく。
 「……っ、やぁ、やぁぁっ……っ!」
 言葉にならない声が、喉を突いて漏れる。

 脚の痙攣はさらに強くなり、シーツに濡れた跡が広がる。
 誠一はその様子を見ても焦らず、むしろ嬉しそうに目を細めた。
 「……いいですね。もっと、溶けてください」

 クリトリスを舐め上げ、舌先で小さく弾く。
 「っ……ひ、あぁぁぁっ!」
 脳が揺れる。
 背中を逸らすたびに胸が震え、指先が勝手に彼の髪を掴んだ。
 「だめ、やめ……っ、でも……やめないで……っ」
 矛盾した言葉しか出せない。

 誠一はそれを聞いて、さらに舌を強めた。
 「もっと声、聞かせてください」
 囁きと同時に、吸い上げ、転がし、離してまた吸う。
 刺激が重なり、絶頂が途切れなく連続して重なった。

 「っ、ああ、あぁ……っ、もう……むり、むり……っ!」
 涙が頬を伝う。
 けれど身体は、まだ求めていた。
 腰が浮き、腕が彼を離さず、脚は震えながらも彼の口元に開かれていく。

 「奈緒さん」
 名前を呼ぶ声が、熱に溶けて耳の奥へ沈む。
 「……すごく、綺麗ですよ」

 その言葉とともに、またひとつ、重い波が全身を飲み込んだ。
 止まらない。
 いや、止めたくなかった。
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