大嫌いな兄上へ、貴方が消えてから偽物が見当違いに頑張ってるよ

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 兄の姿をした誰かは、随分と人気があるらしい。
 凡庸で、ありふれた、兄とは似ても似つかない人間を、みんな凄い凄いと囃し立てている。
 ねぇ、お前らは兄の事が気に入らなかったの。
 ソレより凄い人だったよ、ソレより素晴らしい人だったよ、なんで兄よりソレの味方をしてるの。

 俺は別に、兄にどんな味方が出来ようが別にいいのだ。
 兄という人間は、本当にいい人だと思ってるし、だから味方が出来ることは納得できる。
 でもアレは兄じゃない、兄じゃないくせに兄の姿で生活してる。
 兄じゃないのに誰も気付いてない、そのくせまるで理解者のような面でアレの周りにいる。
 ソレが気に入らない、納得できない、受け入れられない。

 俺はあいつが嫌いじゃないけど、あいつの事は心底どうでもいい。
 あの程度の人間の周りを取り囲むつまらない人間だって、心底どうでもいい。

 だからそう。
 この事実もどうでもいいのだ。

「転生した、だそうです」

 俺の座るソファの背もたれに手を添えて、ひょっこり顔を出して、誉めて欲しそうに、兄の親友とやらは耳元に囁いてきた。
 ここ誰にも聞かれてる心配ないし、誰かが潜んでるならこの状況を見られるだけで問題だし、正直内緒話の必要は全くないんだけど。
 密偵気分を味わいたいだけのごっこ遊びだけど。
 こうしたいらしいから付き合ってあげる。

 どうも、アレはコイツを心を許せる相手って思ったから打ち明けてきたらしい。
 通ってる学園の級友、転生して戸惑ってるときに最初に声を掛けられた相手らしい。
 そこから一緒に仲良く学園生活を送ってるらしい、そして今や親友だとか何とか。

 今までの自分はもういないとかなんとか言ってるらしいけど、なんなんだろうね。
 そんなに今までの自分が気に入らないのかな。

 お前が信頼できるって言ってるその相手は、話を聞いて直ぐ俺のところに飛んできて打ち明けてきたけど。
 俺がありがとうって言ったら凄い喜んだけど。

 少なくとも、お前が気付かずに自分の秘密を打ち明けたソイツは、俺の事を自分の命より優先してるって事は察してたよ。
 俺に喜んで欲しくて、前々から話しかけてたけどやんわり躱されてたんだよね、その度に謝罪してきたよ。
 やれって命令した覚えも頼んだ憶えないけど。

 お前は気付けなかったんだね、だからあっさり秘密を打ち明けた。
 確かに、今までの兄はいなくなったね。
 もっとつまらない、姿だけ同じのまがい物が、我が物顔で過ごすようになった。
 何か色々頑張ってるみたいだけど、所詮は兄より劣ったまがい物だな。
 俺はあの凡夫、どうでもいいけど、みんなは好きらしい。

 にしても転生か、そんな感じの文献が教会にあるとか何とか母が昔言ってたような記憶がある。
 興味なかったから話半分に聞いてたんだけど、マジだったんだらしい。

「最近、何もしてこないけど、どうしたんだ?」

 ある日、あいつがそんな世迷いことを言い出した。

「……なぁに、お前、いじめて欲しいの? そういうのが好きでも俺を巻き込まずに専門の店に行くか、あの彼氏に頼みなよ」
「そんな趣味はない!」
「へぇ、そうなの、ならいじめられないことを喜んだら?」
「……ッ」

 何かを言おうとしてるそいつは、結局何も言わずにどっかに行った。
 兄ならこういう時は取り敢えず笑う、笑えばどうにかなると思ってわけじゃない、どうにかなって欲しいけどどうしようもないから笑ってるのだ。

 確かに最近執拗にしてたいじめを辞めた。
 だってあいつのことはどうでもいいもの、兄の姿をしてるだけで、兄じゃない。
 そんな奴を態々虐める気は起きないのだ。

 マァ頼まれたら鞭で打ち据えてから泥水掛けるくらいはしてやってもいいけど。
 俺は器用なのでね、そういう趣味の人間の相手はそこまで得意じゃないけど、出来なくはない。

 因みに、彼氏っていうのは最近あいつの傍によくいる男の事だ、半分くらい冗談だったんだけど、本当に彼氏だったんだね。
 あの王子様は、アレが好みらしい。

 王子様、別に比喩ではない。
 正真正銘、我が国の第二王子殿下だ、国王と、なんとびっくり王妃の間の息子。
 因みに第一王子は側室の息子だ、王位継承問題が色々面倒なのに、ここに来て男の恋人、しかも高位の貴族家の令息。
 同性同士の関係は法律的に問題ないけど、正妻が子供が出来ない男というのは問題だ。
 どうやら王子様はもう王位はいらなくなったらしい、それか側室でも取るのかな。

 歴史ある名門侯爵家嫡男を妻にしかねないレベルで入れ込んでる、王妃の息子として生まれた王子様。
 大分愉快なことになってるな、
 側室に対抗心燃やして息子を王にしようと躍起になってる王妃は、同性婚を法律で禁止にしようとするんじゃないかなこれ。
 そうなると息子と母親の争いか、母親およびその派閥が今のところ第二王子の一番の後ろ盾である、彼氏くん下手したら王位競争で負けに一歩近付いたなこれ。

 第一王子の策略の可能性を一瞬考えたぞ俺、事実は知らんし興味もないけど。

「感謝の言葉を、伝えた方がいい?」

 策略じゃないらしい。
 なんか勝手に答え合わせされた。
 金髪碧眼の美男子は、綺麗な顔に嬉しそうな笑みを浮かべてそう声を掛けてきた。
 第一王子である。
 流石は、国王が顔面に惚れて貧乏男爵家の令嬢から一国の王の妻になった人の息子だな。
 母と俺には劣るけど綺麗な顔してる。

 というか、侯爵といい国王といい、ここの権力者は顔のいい女に弱すぎやしないかな、ハニトラで崩せるんじゃないかこの国。

「俺何もしてないんだけど」
「そうなんだね」

 茶に誘われた時からもしやと思ってはいたけど、いきなり身に覚えのない感謝をされたら嫌でも察せてしまう。
 俺はマジで何もやってないぞ、君の為に第二王子にアレをけしかけるなんて事、するわけないだろう。

 アレと王子様は自主的にお付き合いを始めたらしい、ロマンスに浮かれ過ぎじゃないかあのロイヤルカップル。
 因みに我が家は今のところ中立だけど、俺個人は第一王子と仲良くしている。していたって方が正しいかな。
 もうそろそろこの国の事情とは関係ない人間になる予定だから、これからは国政とは完全なる無関係の人間だ。勝手にやってな。

 第一王子とは、ちょっと生まれが似てるお陰で話すきっかけができて、以来仲良くしているのだ。
 派閥形成を手伝ったり、第一王子の母親が調子に乗ってやっちゃった可愛いらしい悪事を隠蔽したり、母方の実家が調子に乗ってやっちゃった後ろ暗い不祥事を握りつぶしたり。

 アポなしで玄関を無視してベランダから部屋に転がり込んできた、焦ったような王子様を見た時は驚いた。助けてって言われた時はもっと驚いたし、心底やりたくなかった。
 下手したら俺も道ずれで沈んでたよ、少なくとも十回は見捨てようと思ったんだからなあの時。
 結構大変だったんだけどね、無駄になっちゃったな。
 一応残しておいた証拠は燃やしておいてあげる、王位に一歩近づいたお祝いだよ。

「このまま潰しちゃう?」

 その身自らが輝かんばかりの貴公子は、春風が似合いそうな笑みを浮かべて物騒な事を囁いた。
 ずっと気に入らないっていってたもんね、第二王子の事、あわよくばこのまま消えて欲しいよね。

 もうちょっと待ってあげな。
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