5 / 6
蛇足
しおりを挟む
揺れる馬車の車窓から外を眺める、何ら変わり映えのない光景だ。
この国にいる気はもうないから、手始めに隣国にでも行こうと思ったが、思ったより時間が移動時間が長い。
退屈だ。
退屈だが、ちょっと前までもっと退屈なイベントを過ごしたから、それよりはマシと思っておこう。
本当に、つまらない奴らのために、つまらない時間を過ごした。
母はあのつまらない奴らに殺されてやるのだろうけど、アレはもう自分の命がどうでもよかっただけだろう。
ちょっと前に、母は「好きだったの」と言った。
静かに微笑んで「きっと、愛していたの」と、そう続けて、少女のように笑う女の肖像画の縁を指先で撫でた。
僅かに微笑む母の横顔は、生まれてから十数年見続けた物なのに思わずゾッとするほどには美しかった。
まるで無垢な少女のような顔、あるいは慈愛に溢れた聖母のような。
恋する少女というには些か歳食ってるし、聖母というには本性が腐りきってるけど、それでも恋は人を美しくするようだ。
愛する人を、自分の手で殺したくせに。
だからきっと、母はもういいのだろう。
命も人生も何もかも、もうどうでもいいのだ。
罪を非難して欲しい人はもういないし、自分を殺して欲しい人も憎んで欲しい人も、もうこの世にはいない。
そんな中生きることは、きっと苦痛以外の何でもない。
俺は母に似てるから、似てしまったから、その話を聞いた時に兄を思い出した。
初めて会った時、俺は哀れだったんだよ、貴方の事。
愚かな父と哀れな母の間に生まれて、愚かで哀れに育った子供。
だから無駄に厳しいだけの家庭教師に鞭で打たれて、池の縁で膝抱えて泣いてたところに声を掛けたのだ。
可哀そうだなぁって思って、慰めの言葉くらいはかけてやろうかって思った、普通に見下してたね。
でも、恨み言の一つでも聞いてやろうかと思ったのだ、だって俺の母親が原因だし。
「君が僕の弟なんでしょ? ずっと会いたかったんだ、よろしくね!」
そう言われた。
曇りのない笑顔で、明るい声で、何とも素晴らしく爽やかな言葉だった。
それで。
それで、気付いたら兄を池に突き落としてた。
意味が分からなくて、気味が悪くて、理解できなくて。
初めて、誰かを怖いと思った。
そこから、執拗にいじめるようになった。
理解できない存在を、理解できるようになりたいから。
いつか俺を憎んで恨んでくれたら、そうしたら俺はきっと満足できる思ったから。
俺と同じところに引きずり降ろしてやりたかった。
マァ、無理だったけど。
さよなら、兄上。
多分きっと、初恋だった。
墓がないから花を供えることは出来ないけど、貴方がいなくなったなんて誰も気付いてないけど、偶然気づいちゃったから俺だけは弔っておくよ。
多分貴方は喜ぶんだろうね。
俺からの弔いなんていらないって言ってくれればいいのに、供えた花を俺の顔に叩きつけるなりする人間だったらよかったのに。
貴方はきっと、最後まで俺を恨んではくれないんだろうね。
大嫌いだったよ。
本当に。
いじめて、いびって、いつか殺してやろうと思っていたんだよ。
そうしたら、俺を呪うと思ってた。
結局貴方は俺が殺す前に消えちゃったんだけどね。
酷い人。
いつか貴方が、あの世から蘇ってきて、俺を殺してくれることを願ってるよ。
有り得ないだろうけど。
この国にいる気はもうないから、手始めに隣国にでも行こうと思ったが、思ったより時間が移動時間が長い。
退屈だ。
退屈だが、ちょっと前までもっと退屈なイベントを過ごしたから、それよりはマシと思っておこう。
本当に、つまらない奴らのために、つまらない時間を過ごした。
母はあのつまらない奴らに殺されてやるのだろうけど、アレはもう自分の命がどうでもよかっただけだろう。
ちょっと前に、母は「好きだったの」と言った。
静かに微笑んで「きっと、愛していたの」と、そう続けて、少女のように笑う女の肖像画の縁を指先で撫でた。
僅かに微笑む母の横顔は、生まれてから十数年見続けた物なのに思わずゾッとするほどには美しかった。
まるで無垢な少女のような顔、あるいは慈愛に溢れた聖母のような。
恋する少女というには些か歳食ってるし、聖母というには本性が腐りきってるけど、それでも恋は人を美しくするようだ。
愛する人を、自分の手で殺したくせに。
だからきっと、母はもういいのだろう。
命も人生も何もかも、もうどうでもいいのだ。
罪を非難して欲しい人はもういないし、自分を殺して欲しい人も憎んで欲しい人も、もうこの世にはいない。
そんな中生きることは、きっと苦痛以外の何でもない。
俺は母に似てるから、似てしまったから、その話を聞いた時に兄を思い出した。
初めて会った時、俺は哀れだったんだよ、貴方の事。
愚かな父と哀れな母の間に生まれて、愚かで哀れに育った子供。
だから無駄に厳しいだけの家庭教師に鞭で打たれて、池の縁で膝抱えて泣いてたところに声を掛けたのだ。
可哀そうだなぁって思って、慰めの言葉くらいはかけてやろうかって思った、普通に見下してたね。
でも、恨み言の一つでも聞いてやろうかと思ったのだ、だって俺の母親が原因だし。
「君が僕の弟なんでしょ? ずっと会いたかったんだ、よろしくね!」
そう言われた。
曇りのない笑顔で、明るい声で、何とも素晴らしく爽やかな言葉だった。
それで。
それで、気付いたら兄を池に突き落としてた。
意味が分からなくて、気味が悪くて、理解できなくて。
初めて、誰かを怖いと思った。
そこから、執拗にいじめるようになった。
理解できない存在を、理解できるようになりたいから。
いつか俺を憎んで恨んでくれたら、そうしたら俺はきっと満足できる思ったから。
俺と同じところに引きずり降ろしてやりたかった。
マァ、無理だったけど。
さよなら、兄上。
多分きっと、初恋だった。
墓がないから花を供えることは出来ないけど、貴方がいなくなったなんて誰も気付いてないけど、偶然気づいちゃったから俺だけは弔っておくよ。
多分貴方は喜ぶんだろうね。
俺からの弔いなんていらないって言ってくれればいいのに、供えた花を俺の顔に叩きつけるなりする人間だったらよかったのに。
貴方はきっと、最後まで俺を恨んではくれないんだろうね。
大嫌いだったよ。
本当に。
いじめて、いびって、いつか殺してやろうと思っていたんだよ。
そうしたら、俺を呪うと思ってた。
結局貴方は俺が殺す前に消えちゃったんだけどね。
酷い人。
いつか貴方が、あの世から蘇ってきて、俺を殺してくれることを願ってるよ。
有り得ないだろうけど。
70
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された悪役令息は従者に溺愛される
田中
BL
BLゲームの悪役令息であるリアン・ヒスコックに転生してしまった俺は、婚約者である第二王子から断罪されるのを待っていた!
なぜなら断罪が領地で療養という軽い処置だから。
婚約破棄をされたリアンは従者のテオと共に領地の屋敷で暮らすことになるが何気ないリアンの一言で、テオがリアンにぐいぐい迫ってきてーー?!
従者×悪役令息
末っ子王子は婚約者の愛を信じられない。
めちゅう
BL
末っ子王子のフランは兄であるカイゼンとその伴侶であるトーマの結婚式で涙を流すトーマ付きの騎士アズランを目にする。密かに慕っていたアズランがトーマに失恋したと思いー。
お読みくださりありがとうございます。
闇を照らす愛
モカ
BL
いつも満たされていなかった。僕の中身は空っぽだ。
与えられていないから、与えることもできなくて。結局いつまで経っても満たされないまま。
どれほど渇望しても手に入らないから、手に入れることを諦めた。
抜け殻のままでも生きていけてしまう。…こんな意味のない人生は、早く終わらないかなぁ。
「お前を愛する事はない」を信じたので
あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」
お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。
俺の相棒は距離感がおかしい
夕月ねむ
BL
高ランク冒険者パーティの雑用係だった俺は、養父でもあったパーティリーダーの引退で、新しい仲間を探さなければいけなくなった。現れたのは距離感ゼロの人懐こい男。お試しからと言われてパーティを組んだ。
※FANBOXからの転載です。
※他サイトにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる