氷炎の輪廻

天海月

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第2話:眠れる力

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ルークとアリアを繋ぐ「番の刻印」が輝きを放ってから、数日が過ぎた。アリアは、自身の首筋にある氷の刻印が、もはや不完全さの象徴ではないという事実に、大きな安堵と喜びを感じていた。それは、彼女の心がずっと探していた、かけがえのない居場所を見つけたような感覚だった。

しかし、その喜びは、新たな戸惑いをもたらした。

ルークのそばにいると、アリアの体から、微かだが確かに、魔力の流れが感じられるようになったのだ。それは、彼女が今まで感じたことのない、冷たくも温かい、不思議な感覚だった。まるで、自分の内側に、凍てついた湖が溶け始めたような、そんな感覚。

「ルーク……ねぇ、私、少し変な気がするの」

いつものようにルークがアリアの元を訪れた夜、アリアは焚き火のそばで、不安げにそう呟いた。ルークは、静かに彼女の言葉を待つ。

「この間から、あなたのそばにいると、胸のあたりが温かくなるの。そして、この首の痣が、じんわりと熱を帯びるような……」

アリアは、恐る恐る自身の首筋に触れた。そこには、確かに氷の結晶の形をした痣がある。しかし、その痣から発せられる微かな光と熱は、以前とは全く違うものだった。

ルークは、その言葉を聞いて、内心で驚きを隠せなかった。彼は、騎士団の書庫で読んだ古文書の内容を思い出していた。

『番の刻印が共鳴するとき、眠れる魂が目覚め、太古の力が覚醒する』

その記述は、おとぎ話ではなかったのだ。アリアは、公爵家で唯一魔力を持たないとされてきたが、それは彼女の力が完全に封印されていたからに過ぎない。そして、その封印を解く鍵こそが、ルークの炎の刻印だった。

「それは、君の力が目覚め始めているのかもしれない」

ルークは、無表情な顔のまま、静かにそう告げた。アリアは、その言葉に目を見開いた。

「私の……力?」

アリアは、貴族として当然持つべき魔力を持たないことに、ずっと苦しんできた。家族は優しく「あなたはあなたのままでいい」と慰めてくれたが、それは彼女にとって、自分を不完全な存在として見ている言葉のように聞こえ、余計に胸を締め付けた。だからこそ、彼女は祖母の元で、自分をありのままに受け入れてくれるルークと過ごす時間を大切にしていた。

しかし、もし自分の中に、失われたはずの力があるのだとしたら…。

「そうよ、アリア。あなたの力は、ずっと眠っていただけ」

二人の会話を、背後から見守っていた祖母のエレノアが、静かに口を開いた。彼女は、太古の呪術師の血を最も濃く継ぐ存在だった。エレノアは、アリアの力に気づいていながら、あえてそのことを伝えてこなかった。

「お祖母様……」

アリアは、信じられない、といった表情で祖母を見つめた。

「あなたの力は、あまりにも強大すぎた…。前世のあなたは、その力で世界を救った反面、多くの悲劇も生んでしまった」

エレノアは、静かにゆっくりと語り始めた。その言葉は、アリアの頭の中に、今まで見たことのない光景の断片を呼び起こした。

それは、灼熱の炎が舞い踊り、氷の嵐が吹き荒れる、荒廃した世界の光景。そして、その中心に立つ、一人の巫女。彼女の首筋には、アリアと同じ氷の刻印があった。その巫女の隣には、炎の刻印を持つ男が立っている。二人は、互いを深く愛し、信頼し合っているように見えた。

「これは……何?」

アリアは、頭を抱えて呻いた。蘇る記憶の断片は、彼女の頭を激しくかき乱し、眩暈をもたらした。

ルークは、苦しむアリアを抱きしめた。その温かな腕の中で、アリアの混乱は少しずつ静まっていく。ルークには、アリアのような明確な記憶の断片は見えなかった。しかし、アリアの苦しみが、そのまま自分に伝わってくるような生々しい感覚があった。

「アリアの力について、詳しく教えてもらえないだろうか」

ルークは、冷静な声でエレノアに尋ねた。彼女は、ルークの問いに頷き、語り始めた。

「あなたの左手の手の甲にある炎の刻印と、アリアの首筋にある氷の刻印。それは、太古から続く『番の刻印』。二つの魂が、永遠に結びついている証なのです。前世のあなたは、この刻印の力を合わせて、世界を救うために戦った。しかし、力を制御できず、多くの悲劇も引き起こしてしまったのです」

エレノアの言葉は、ルークの胸に深い衝撃を与えた。自分の痣が前世から受け継いだ、アリアとの繋がりを示すものだったとは。そして、アリアが魔力を持たないことにも、そんな理由があったとは。

「そして私は、アリアの力を封印したのです。彼女が、悲しい運命を繰り返さないように……」

エレノアの言葉には、アリアへの深い愛と、そして後悔の念が滲んでいた。

アリアは、ルークの腕の中で、静かに涙を流していた。彼女の涙は、ただの悲しみから来るものではなかった。それは、今まで知らなかった自分の過去、ルークとの深い繋がりを知ったことに対して、そして本来の自分は「魔力無し」だと憐れまれるような持たざるものではなかったのだと知ったゆえの涙だった。

「ルーク……私、私たちのことをもっと知りたい」

アリアは、顔を上げてルークを見つめた。その瞳には、今まで抱えていたコンプレックスや孤独の影はなかった。あるのは、ただ、過去への純粋な好奇心と、そして彼との運命を、自分の手で切り開きたいという強い意志だった。

ルークは、アリアの言葉に、初めて明確な感情を抱いた。それは、彼女を守りたい、という強い決意。彼の心の中で、氷の壁が崩れ落ち、炎の刻印が熱く脈打つのを感じたのだった。
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