2 / 13
第2話:眠れる力
しおりを挟む
ルークとアリアを繋ぐ「番の刻印」が輝きを放ってから、数日が過ぎた。アリアは、自身の首筋にある氷の刻印が、もはや不完全さの象徴ではないという事実に、大きな安堵と喜びを感じていた。それは、彼女の心がずっと探していた、かけがえのない居場所を見つけたような感覚だった。
しかし、その喜びは、新たな戸惑いをもたらした。
ルークのそばにいると、アリアの体から、微かだが確かに、魔力の流れが感じられるようになったのだ。それは、彼女が今まで感じたことのない、冷たくも温かい、不思議な感覚だった。まるで、自分の内側に、凍てついた湖が溶け始めたような、そんな感覚。
「ルーク……ねぇ、私、少し変な気がするの」
いつものようにルークがアリアの元を訪れた夜、アリアは焚き火のそばで、不安げにそう呟いた。ルークは、静かに彼女の言葉を待つ。
「この間から、あなたのそばにいると、胸のあたりが温かくなるの。そして、この首の痣が、じんわりと熱を帯びるような……」
アリアは、恐る恐る自身の首筋に触れた。そこには、確かに氷の結晶の形をした痣がある。しかし、その痣から発せられる微かな光と熱は、以前とは全く違うものだった。
ルークは、その言葉を聞いて、内心で驚きを隠せなかった。彼は、騎士団の書庫で読んだ古文書の内容を思い出していた。
『番の刻印が共鳴するとき、眠れる魂が目覚め、太古の力が覚醒する』
その記述は、おとぎ話ではなかったのだ。アリアは、公爵家で唯一魔力を持たないとされてきたが、それは彼女の力が完全に封印されていたからに過ぎない。そして、その封印を解く鍵こそが、ルークの炎の刻印だった。
「それは、君の力が目覚め始めているのかもしれない」
ルークは、無表情な顔のまま、静かにそう告げた。アリアは、その言葉に目を見開いた。
「私の……力?」
アリアは、貴族として当然持つべき魔力を持たないことに、ずっと苦しんできた。家族は優しく「あなたはあなたのままでいい」と慰めてくれたが、それは彼女にとって、自分を不完全な存在として見ている言葉のように聞こえ、余計に胸を締め付けた。だからこそ、彼女は祖母の元で、自分をありのままに受け入れてくれるルークと過ごす時間を大切にしていた。
しかし、もし自分の中に、失われたはずの力があるのだとしたら…。
「そうよ、アリア。あなたの力は、ずっと眠っていただけ」
二人の会話を、背後から見守っていた祖母のエレノアが、静かに口を開いた。彼女は、太古の呪術師の血を最も濃く継ぐ存在だった。エレノアは、アリアの力に気づいていながら、あえてそのことを伝えてこなかった。
「お祖母様……」
アリアは、信じられない、といった表情で祖母を見つめた。
「あなたの力は、あまりにも強大すぎた…。前世のあなたは、その力で世界を救った反面、多くの悲劇も生んでしまった」
エレノアは、静かにゆっくりと語り始めた。その言葉は、アリアの頭の中に、今まで見たことのない光景の断片を呼び起こした。
それは、灼熱の炎が舞い踊り、氷の嵐が吹き荒れる、荒廃した世界の光景。そして、その中心に立つ、一人の巫女。彼女の首筋には、アリアと同じ氷の刻印があった。その巫女の隣には、炎の刻印を持つ男が立っている。二人は、互いを深く愛し、信頼し合っているように見えた。
「これは……何?」
アリアは、頭を抱えて呻いた。蘇る記憶の断片は、彼女の頭を激しくかき乱し、眩暈をもたらした。
ルークは、苦しむアリアを抱きしめた。その温かな腕の中で、アリアの混乱は少しずつ静まっていく。ルークには、アリアのような明確な記憶の断片は見えなかった。しかし、アリアの苦しみが、そのまま自分に伝わってくるような生々しい感覚があった。
「アリアの力について、詳しく教えてもらえないだろうか」
ルークは、冷静な声でエレノアに尋ねた。彼女は、ルークの問いに頷き、語り始めた。
「あなたの左手の手の甲にある炎の刻印と、アリアの首筋にある氷の刻印。それは、太古から続く『番の刻印』。二つの魂が、永遠に結びついている証なのです。前世のあなたは、この刻印の力を合わせて、世界を救うために戦った。しかし、力を制御できず、多くの悲劇も引き起こしてしまったのです」
エレノアの言葉は、ルークの胸に深い衝撃を与えた。自分の痣が前世から受け継いだ、アリアとの繋がりを示すものだったとは。そして、アリアが魔力を持たないことにも、そんな理由があったとは。
「そして私は、アリアの力を封印したのです。彼女が、悲しい運命を繰り返さないように……」
エレノアの言葉には、アリアへの深い愛と、そして後悔の念が滲んでいた。
アリアは、ルークの腕の中で、静かに涙を流していた。彼女の涙は、ただの悲しみから来るものではなかった。それは、今まで知らなかった自分の過去、ルークとの深い繋がりを知ったことに対して、そして本来の自分は「魔力無し」だと憐れまれるような持たざるものではなかったのだと知ったゆえの涙だった。
「ルーク……私、私たちのことをもっと知りたい」
アリアは、顔を上げてルークを見つめた。その瞳には、今まで抱えていたコンプレックスや孤独の影はなかった。あるのは、ただ、過去への純粋な好奇心と、そして彼との運命を、自分の手で切り開きたいという強い意志だった。
ルークは、アリアの言葉に、初めて明確な感情を抱いた。それは、彼女を守りたい、という強い決意。彼の心の中で、氷の壁が崩れ落ち、炎の刻印が熱く脈打つのを感じたのだった。
しかし、その喜びは、新たな戸惑いをもたらした。
ルークのそばにいると、アリアの体から、微かだが確かに、魔力の流れが感じられるようになったのだ。それは、彼女が今まで感じたことのない、冷たくも温かい、不思議な感覚だった。まるで、自分の内側に、凍てついた湖が溶け始めたような、そんな感覚。
「ルーク……ねぇ、私、少し変な気がするの」
いつものようにルークがアリアの元を訪れた夜、アリアは焚き火のそばで、不安げにそう呟いた。ルークは、静かに彼女の言葉を待つ。
「この間から、あなたのそばにいると、胸のあたりが温かくなるの。そして、この首の痣が、じんわりと熱を帯びるような……」
アリアは、恐る恐る自身の首筋に触れた。そこには、確かに氷の結晶の形をした痣がある。しかし、その痣から発せられる微かな光と熱は、以前とは全く違うものだった。
ルークは、その言葉を聞いて、内心で驚きを隠せなかった。彼は、騎士団の書庫で読んだ古文書の内容を思い出していた。
『番の刻印が共鳴するとき、眠れる魂が目覚め、太古の力が覚醒する』
その記述は、おとぎ話ではなかったのだ。アリアは、公爵家で唯一魔力を持たないとされてきたが、それは彼女の力が完全に封印されていたからに過ぎない。そして、その封印を解く鍵こそが、ルークの炎の刻印だった。
「それは、君の力が目覚め始めているのかもしれない」
ルークは、無表情な顔のまま、静かにそう告げた。アリアは、その言葉に目を見開いた。
「私の……力?」
アリアは、貴族として当然持つべき魔力を持たないことに、ずっと苦しんできた。家族は優しく「あなたはあなたのままでいい」と慰めてくれたが、それは彼女にとって、自分を不完全な存在として見ている言葉のように聞こえ、余計に胸を締め付けた。だからこそ、彼女は祖母の元で、自分をありのままに受け入れてくれるルークと過ごす時間を大切にしていた。
しかし、もし自分の中に、失われたはずの力があるのだとしたら…。
「そうよ、アリア。あなたの力は、ずっと眠っていただけ」
二人の会話を、背後から見守っていた祖母のエレノアが、静かに口を開いた。彼女は、太古の呪術師の血を最も濃く継ぐ存在だった。エレノアは、アリアの力に気づいていながら、あえてそのことを伝えてこなかった。
「お祖母様……」
アリアは、信じられない、といった表情で祖母を見つめた。
「あなたの力は、あまりにも強大すぎた…。前世のあなたは、その力で世界を救った反面、多くの悲劇も生んでしまった」
エレノアは、静かにゆっくりと語り始めた。その言葉は、アリアの頭の中に、今まで見たことのない光景の断片を呼び起こした。
それは、灼熱の炎が舞い踊り、氷の嵐が吹き荒れる、荒廃した世界の光景。そして、その中心に立つ、一人の巫女。彼女の首筋には、アリアと同じ氷の刻印があった。その巫女の隣には、炎の刻印を持つ男が立っている。二人は、互いを深く愛し、信頼し合っているように見えた。
「これは……何?」
アリアは、頭を抱えて呻いた。蘇る記憶の断片は、彼女の頭を激しくかき乱し、眩暈をもたらした。
ルークは、苦しむアリアを抱きしめた。その温かな腕の中で、アリアの混乱は少しずつ静まっていく。ルークには、アリアのような明確な記憶の断片は見えなかった。しかし、アリアの苦しみが、そのまま自分に伝わってくるような生々しい感覚があった。
「アリアの力について、詳しく教えてもらえないだろうか」
ルークは、冷静な声でエレノアに尋ねた。彼女は、ルークの問いに頷き、語り始めた。
「あなたの左手の手の甲にある炎の刻印と、アリアの首筋にある氷の刻印。それは、太古から続く『番の刻印』。二つの魂が、永遠に結びついている証なのです。前世のあなたは、この刻印の力を合わせて、世界を救うために戦った。しかし、力を制御できず、多くの悲劇も引き起こしてしまったのです」
エレノアの言葉は、ルークの胸に深い衝撃を与えた。自分の痣が前世から受け継いだ、アリアとの繋がりを示すものだったとは。そして、アリアが魔力を持たないことにも、そんな理由があったとは。
「そして私は、アリアの力を封印したのです。彼女が、悲しい運命を繰り返さないように……」
エレノアの言葉には、アリアへの深い愛と、そして後悔の念が滲んでいた。
アリアは、ルークの腕の中で、静かに涙を流していた。彼女の涙は、ただの悲しみから来るものではなかった。それは、今まで知らなかった自分の過去、ルークとの深い繋がりを知ったことに対して、そして本来の自分は「魔力無し」だと憐れまれるような持たざるものではなかったのだと知ったゆえの涙だった。
「ルーク……私、私たちのことをもっと知りたい」
アリアは、顔を上げてルークを見つめた。その瞳には、今まで抱えていたコンプレックスや孤独の影はなかった。あるのは、ただ、過去への純粋な好奇心と、そして彼との運命を、自分の手で切り開きたいという強い意志だった。
ルークは、アリアの言葉に、初めて明確な感情を抱いた。それは、彼女を守りたい、という強い決意。彼の心の中で、氷の壁が崩れ落ち、炎の刻印が熱く脈打つのを感じたのだった。
1
あなたにおすすめの小説
銀色の恋は幻 〜あなたは愛してはいけない人〜
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
森に薬草を採りに出掛けた幼い兄妹が出会った美しい少年王。王の森に勝手に入ったと咎められ、兄は殺されてしまう。そのショックで記憶を失った妹スイランは町の商人ガクに拾われリンファと名付けられる。
やがて美しく成長したリンファは後宮で働くことになる。後宮入りする前日、森で出会った見知らぬ青年と恋に落ちるのだが、名前も知らぬままその場を離れた。そして後宮で働くこと数ヶ月、観月祭に現れた王はあの時の青年だった!
王の妃となり幸せな日々を過ごすリンファ。だがその日々は長く続かなかった
……。
異世界の中華です。後宮の設定などはふんわりゆるゆるですので、ご了承ください。
捨てた騎士と拾った魔術師
吉野屋
恋愛
貴族の庶子であるミリアムは、前世持ちである。冷遇されていたが政略でおっさん貴族の後妻落ちになる事を懸念して逃げ出した。実家では隠していたが、魔力にギフトと生活能力はあるので、王都に行き暮らす。優しくて美しい夫も出来て幸せな生活をしていたが、夫の兄の死で伯爵家を継いだ夫に捨てられてしまう。その後、王都に来る前に出会った男(その時は鳥だった)に再会して国を左右する陰謀に巻き込まれていく。
この記憶、復讐に使います。
SHIN
恋愛
その日は、雲ひとつない晴天でした。
国と国との境目に、2種類の馬車と数人の人物。
これから起こる事に私の手に隠された煌めく銀色が汗に湿り、使用されるのを今か今かとまっています。
チャンスは一度だけ。
大切なあの人の為に私は命をかけます。
隠れ前世の記憶もちが大切な人のためにその知識を使って復讐をする話し。
リハビリ作品です気楽な気持ちでお読みください。
SHIN
【完結】婚約破棄の罰として、冷酷公爵様に引き取られたのですが…溺愛が過ぎます!
22時完結
恋愛
「公爵家に身柄を預ける。それが、きみへの罰だ」
社交界で“悪役令嬢”と噂されていた侯爵令嬢・リディアは、ある日突然、婚約者である王太子から婚約を破棄された。
その場で断罪され、王家の名誉を傷つけた罰として命じられたのは――冷酷で知られる隣国の大公爵、アレクセイ・レオンハルトへの“引き渡し”だった。
周囲は誰もが「破滅だ」と囁いた。
なぜなら、アレクセイ公爵は血も涙もない男として恐れられており、社交界では『氷の獣』とさえ呼ばれていたからだ。
だが、リディアを待ち受けていたのは――
「今夜は、私の隣で眠るといい。罰とは、そういう意味だよ」
「…え?」
戸惑う彼女に注がれるのは、冷たい瞳とは裏腹の、甘すぎる眼差しと過保護なほどの愛情。
強引で不器用なアレクセイの溺愛は日に日に増していき、ついには「君を誰にも渡したくない」と独占欲全開に!?
婚約破棄されたはずの令嬢が、冷酷公爵に甘やかされて溺愛される――
これは、人生のどん底から始まる、予想外すぎる恋の物語。
悪役令嬢の指南書
碧井 汐桜香
恋愛
いつも通り過ごしていたら、突然神が降臨なさいました。
「悪役令嬢らしく、ヒロイン リーンベルをいじめろ」と?
よくわかりませんが、私、人をいじめることは大得意ですのよ?
お任せくださいませ! 女神様!
……え? いじめが間違っているって?
そんなことありませんわ!
リーンベルちゃんも、こんなにも嬉しそうに毎日を過ごしておりますのよ?
転生公爵令嬢は2度目の人生を穏やかに送りたい〰️なぜか宿敵王子に溺愛されています〰️
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リリーはクラフト王子殿下が好きだったが
クラフト王子殿下には聖女マリナが寄り添っていた
そして殿下にリリーは殺される?
転生して2度目の人生ではクラフト王子殿下に関わらないようにするが
何故か関わってしまいその上溺愛されてしまう
【完結】0日婚の白魔女皇后は呪いの冷酷帝に寵愛される
さわらにたの
恋愛
「冷酷帝」エンジュに皇后として望まれ、政略結婚として輿入れした白魔術師キーラ。
初夜にて「俺は呪われている。本当は皇后などいらん、解呪のためだけにお前を呼んだ」と明かされて解呪に挑むことに……から次第にあれやこれやで結局ハピエンラブラブになるお話です
ほんのりと前作「魔力なしの転生少女は天才魔術師様に求婚される」と同じ世界線、時間軸です
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる