氷炎の輪廻

天海月

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第12話:未来への誓い

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ゼノンの憎悪が溶け、ルークとアリアの絆が深まった三人の間に、安堵の空気が流れた。しかし、その安堵は長くは続かなかった。

神殿の奥から、朗々とした声が響き渡った。

「その絆を、本物と証明できますか」

声の主は、エレノアだった。彼女は、神殿の壁に描かれた紋様の前で、静かに立ち尽くしていた。その手には、古びた魔導書が握られている。

「お祖母さま……?」

アリアは、不安げにエレノアを見つめた。

「私は、永い間この日を待っていました。番の刻印を持つあなたたちが、この場所に集う日を」

エレノアは、そう告げると、魔導書を広げ、呪文を唱え始めた。神殿の床に描かれた紋様が、眩い光を放ち、三人を包み込む。

だんだんと神殿の空気が重くなり、三人は身体から、魔力が吸い取られていくのを感じた。

「エレノア様……何をするつもりなのです?!」

ゼノンは、驚きと戸惑いの表情で、エレノアを見つめた。

「前世の悲劇は、あなたたちの無自覚な甘さと、他者を顧みるように見せかけながら、自分自身さえも騙すような虚ろな心が招いたものです。私は、この果てのない連鎖を断ち切るため、今あなたたちを試すのです。…あの日をもう一度!」

エレノアの瞳の奥では、悲しみの光が揺らめいていた。彼女自身も、この悲劇に囚われた一人だった。前世の悲劇で、彼女は大切な家族を失った。アリアとルーク、そしてゼノンが、再び同じ過ちを繰り返すことを、彼女は最も恐れていた。だからこそ、彼らの絆が、前世のような脆いものではないことを、自らの手で確かめなければならなかったのだ。

ミリアは、そう告げると、呪文を唱え終えた。神殿の床に描かれた紋様が、光を放ち、三人の足元から、三本の光の柱が立ち昇った。

アリアとルーク、そしてゼノンは、光の柱に包まれ、宙へと浮かび上がっていく。三人の意識は、再び、過去へと引き戻されていった。


***


彼らが辿り着いたのは、前世の悲劇が起こった場所だった。

ルークとゼノンは、過去の憎しみと絶望が渦巻いた神殿に立っていた。

ルークは、受け止めきれず暴走するゼノンから引き継いだ炎の力に苦しみ、ゼノンは、アリアが自分ではなくルークに力を託したことに絶望し、怒りに身を任せていた。

ルークはゼノンと向き合ううちに、激しい後悔の念がこみ上げてきた。

「俺は……俺自身の弱さに、負けていた……」

ルークは、そう呟くと、静かにゼノンと向き合った。
ルークは、アリアに受け入れられているゼノンへのひそかな嫉妬心、アリアからゼノンの力を託された事そのものが、彼女の『ゼノンへの愛』そのものに感じられてしまう苦しみ。そして、そんな邪な気持ちを抱いてしまう自分自身への嫌悪、その苦悩から自制心を失いかけていたのだったと気づいた


ゼノンもまた、ルークに対して、複雑な感情を抱いていた。アリアの愛を横取りされた憎しみ、ルークの持たないものゆえの天真爛漫さへの嫉妬。そして、自らアリアを傷つけてしまった後悔。彼は、永くその感情を抱き続けてきたが、ルークの言葉とアリアの愛に触れ、ようやくその感情を直視することができた。

「俺は……アリアに、愛されていたのに……その愛を、自ら壊してしまったのだ……」

ゼノンの瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちた。彼の心は、憎しみという氷が解け、温かい感情で満たされていく。それは、アリアへの愛、そして、ルークへの許しだった。

ルークは、ゼノンの瞳に映る悲しみと後悔を、痛いほど感じ取った。彼は、ゼノンが憎しみから解放されたことを知った。

ルークは、ゆっくりとゼノンに向かって手を差し伸べた。

「ルーク……俺を許してくれ……」

ゼノンの幻影が、ルークにそう語りかけた。それは、ゼノン自身の、心からの叫びだった。

「ゼノン……俺もだ」

ルークは、そう答え、ゼノンの幻影の手を強く握りしめた。その瞬間、二人の魂が、眩い光を放ち、一つになった。二人の心に、もはや憎しみはなかった。あるのは、ただ、互いの痛みを理解し、許しあう、深い絆だけだった。

その時、アリアの体が、光を放ち始めた。彼女の氷の刻印が、眩い光を放ち、ルークとゼノン、二つの刻印に共鳴する。

アリアの瞳には、強い意志が宿っていた。

「私たちは、もう、大丈夫…」

アリアは、そう呟くと、ルークとゼノン、二人の手を強く握りしめた。

三人の魂は、一つになり、眩い光となって、神殿の空へと舞い上がっていく。その光は、暗い森を、優しく照らし出した。

光が収束すると、三人は、再び神殿の床に立っていた。彼らの体は、温かく、そして、力が満ちているのを感じた。

アリアの首筋にある氷の刻印は、炎の刻印と交わり、一つの美しい紋様となって輝いていた。ルークの左手の手の甲にある炎の刻印も、氷の刻印と交わり、二人の魂が一つになったことを示していた。

そして、ゼノンの刻印は、そのあとを残さず、風にさらわれた砂絵のように消えていた。


「私たちは……」

アリアは、そう呟くと、ルークの顔を見つめた。

ルークは、アリアの瞳に、深い愛を宿していた。

「アリア、俺たちは、もう、一人じゃない」

ルークは、そう言って、アリアを優しく抱きしめた。

ゼノンは、二人の姿を見て、静かに微笑んだ。彼の瞳からは、もう悲しみの色は消えていた。

「アリア、ルーク……俺は、二人を、心から祝福する」

ゼノンは、そう告げると、二人に背を向け、静かに神殿を後にした。

エレノアは、三人の姿を見て、静かに涙を流した。彼女は、三人の絆が、前世とは比べ物にならないほど強いものだと確信した。

「これで、本当に、全ての因縁は終わったのですね…!」

アリアは、ルークと共に、エレノアの元へと歩み寄った。

「お祖母さま……ありがとう」

アリアは、エレノアを抱きしめた。

ルークとアリアは、ミリアと共に、神殿を出た。外は、すでに夜が明け、朝の光が、森の木々を優しく照らし出していた。

彼らは、この悲しい運命の鎖を、自らの力で断ち切ったのだ。そして、これから始まる、新しい人生を、共に歩んでいくことを誓った。

ルークは、アリアの手を強く握りしめた。

「アリア、行こう」

アリアは、ルークの言葉に、静かに頷いた。

彼らの心は、もう、過去に囚われることはない。
それぞれの愛を胸に、希望に満ちた、新たな未来を切り開いていくのだった。

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