氷炎の輪廻

天海月

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閑話:呪いの巫女

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かつてのアリアは、幼い頃から人々に恐れられていた。

「あれが、呪いの巫女だ」

「近寄るな、関わると不幸になる」

人々は、アリアの姿を見るたびに、ひそひそと囁き合った。その声は、鋭い刃となって、幼いアリアの心を深く傷つけた。

アリアの母、エレノアは、彼女にこう言っていた。

「アリア、あなたの力は、呪いではないのです。それは、この世界の魔力を浄化する、特別な力なのですよ」

実際、アリアの氷の力は、周囲の魔力を吸収し、浄化する特別な陰の性質を持っていた。ただ強すぎるために制御することが難しいので、彼女の力は誤解を招いた。

人々の恐れは、幼いアリアの心を簡単に揺さぶった。アリアの心が不安に揺れるたびに、彼女の氷の力は暴走し、周囲の植物を凍らせ、動物たちを怯えさせた。その度に、人々の恐れは、さらに強くなった。

アリアは、自分の存在が、この世界に災厄をもたらすのではないかと、深く悩んでいた。彼女は、誰とも関わることなく、ただ一人、森の奥で、静かに暮らしていた。

ある日、アリアは、森の中で、一人の男性が倒れているのを見つけた。彼は、激しい炎の魔力によって、全身にひどい火傷を負っていた。

「大丈夫……ですか?」

アリアは、恐る恐る彼に近づいた。彼女の氷の力が、彼の炎の魔力に反応し、彼の体から、微かに魔力を吸い取っていく。

「近づくな……俺は、呪われた存在だ……」

男性は、苦痛に顔を歪ませながら、そう呟いた。

「私も……呪いの巫女です…」

アリアは、そう言って、彼のそばに膝をついた。彼女の瞳からは涙がぽろぽろと零れた。彼が自分と同じように、自分の力に苦しんでいること、自分を卑下していることを、強く感じ取ったのだった。

「俺は……ゼノンだ……」

男性は、そう言って、静かに意識を失った。

アリアは、ゼノンを、自分の小屋へと運び込んだ。彼女の氷の力は、ゼノンの炎の力を、少しずつだが、確実に浄化していった。

数日後、ゼノンは、意識を取り戻した。彼の体から、炎の魔力は消え、火傷も、すっかり治っていた。

「君の力は、呪いなんかじゃない。俺を救ってくれた、光の力だ」

ゼノンは、そう言って柔らかく微笑むと、アリアの手を優しく握った。

アリアは、ゼノンの言葉に、心が温かくなるのを感じた。生まれて初めて、自分の力を、呪いではないと、「救われた」と言ってくれた人がいた。

ゼノンは、アリアに、自分の力を制御するすべを教えた。彼自身もまだ不安定な部分はあったが、アリアの氷の力を、炎の力で包み込み、その力を安定させた。アリアは、ゼノンと共にいることで、自分の力を、自由に操れるようになった。

アリアは、ゼノンに、深い感謝と、そして、淡い恋心を抱いた。しかし、ゼノンは、ある日、アリアにこう言った。

「俺は、君に、この小さな森の中だけでなくて、この世界の全てを見せてあげたい。だから、君を、俺の信頼する友である騎士に託す」

アリアは、ゼノンの言葉に、戸惑いを覚えた。

その時、一人の騎士が、小屋を訪れた。彼の名は、ルーク。

彼は、当時の世界で、ただ一人、魔力を持たない特別な人間だった。

人々は、ルークを「魔力なし」と蔑み、彼を孤独な存在として扱った。ルークは、自分の無力さに苦しみ、武の鍛錬だけを心の支えとする孤独な日々を送っていた。

しかし、ゼノンは、そんなルークのまっすぐな心と、揺るぎない勇気を見抜き、彼の友となった。
ゼノンは、アリアを、魔力を持たないルークに託すことを決めた。

「アリア、君は、もう一人じゃない。ゼノンが大切にしている人は俺の大切な人でもある。俺が、君を守る」

ルークは、そう言って、アリアにはにかんだ笑顔を見せた。

アリアは、ルークの反応に、驚きを隠せなかった。彼は、彼女の氷の力を恐れるどころか、その冷たさを、まるで太陽のように温かく感じているようだった。

ルークは、魔力を持たないからこそ、アリアの力をありのままに受け入れることができたのかもしれない。

アリアの氷の力は、ルークの体から、魔力を吸い取ることはなかった。ルークの心は、何者にも染まらない、清らかで美しい水のようだった。アリアは、ルークと共にいることで、自分の心が、安らぎと平和に満たされていくのを感じた。

アリアは、ルークとゼノン、二人の愛によって、呪いから解放された。彼女の心は、もう、人々の言葉に傷つくことはなかった。

こんな日がいつまでも続けばいい、二人の笑顔を見るたびに、アリアはそんな風にぼんやりと思うのだった。
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