誰にも言えないあなたへ

天海月

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クリスティーナはオスカーのところへ行く時、自分なりの覚悟を決めて、彼の返答次第では、自身を犠牲にしてでもマリオンの望み通りになってやろうと思わなくもなかった。

オスカーはその気も無いのにこんな所へ来るなんて不用心だと笑ったが、実際は何の考えも無しに行動したわけではなかった。

けれど、現実はクリスティーナが考えていたようなものとは大分異なっていた。


マリオンが実際に不能かどうかは別として、恐らく、彼もオスカーに懸想していたのだろう、けれど二人の間に子を儲けることはかなわない。

だから、悩んだ末に差し障りの無さそうな女に自分の代わりに相手の子を産ませれば良いと考えたのだろう。

きっと金銭的に身動きがとれなかった自分は、マリオンにとって金で動く都合の良い傀儡として丁度良かったのだろうから。

だからこそ、選ばれたに違いない。

クリスティーナは、オスカーの屋敷を出てからそんなことを考えていた。


良く考えてみれば、初めからこちらにばかり都合が良すぎた。

何か裏があるのではないかと、疑うべきだったのだ。

優しく美しいマリオンに一目ぼれだと言われて舞い上がり、挙句こんなところまで来てしまったが、結局、自分は最初から最後まで彼の掌の上で踊らされていただけだったのだ。

自分は彼に愛されてなど居なかった。

彼にとって妻など、詰まるところ誰でも良かったに違いない。

そう思うと、マリオンの今までの行動の全てが胡散臭く感じられて、クリスティーナの中にあった彼に対する気持ちが跡形も無く霧散していくような気がしたのだった。





クリスティーナは、これ以上マリオンの下に居ても埒があかないと思った。

所詮貴族の結婚の現実などこんなものかという、達観したような気持ちもクリスティーナには多少あった。

しかし、皆それぞれ好き勝手な事を考えているのに、どうして自分ばかりが言いなりになって耐えなければならないのかという、理不尽に対する怒りが彼女の中にふつふつと湧いて来たのだった。

一時は実家の為なら、何があっても我慢をしなくてはと思ったりもしたが、不幸中の幸いか、マリオンはクリスティーナがどんな選択をしても支援を続けるという意思を示している。

それならば、もうこんな馬鹿げた茶番に付き合う必要など無いではないか。

それこそ自分に中途半端に優しくしたりなどせずに、純粋に金銭で動いてくれる女性に初めから頼めば良かったではないか、ただそれをオスカーが何と思うかは知った事ではないが・・・とクリスティーナは思ったのだった。

もう自分抜きで皆好きにすればいい・・・。

そして、気が付くと衝動的に、クリスティーナはかつての思い人のところへと向かっていた。

伯爵夫人としてはいささか軽率な行為ではあったが、彼女に後悔は無かった。

もう自分も勝手にさせてもらう・・・と、彼女は思ったのだった。
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