誰にも言えないあなたへ

天海月

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クリスティーナのかつての思い人、オリバーは彼女を温かく迎えてくれた。

「急にどうしたの?君はお嫁に行ったと聞いていたけれど・・・伯爵と喧嘩でもしてしまったのかい?」

まずは飲み物でも飲んで落ち着いて・・・、と穏やかな口調でお茶を差し出してくれるオリバー。

それは伯爵家で出されるものとは比べ物にならないような粗末なものだったが、クリスティーナとっては彼が淹れてくれたというだけで、同じように美味しいような気がした。

二人は久方ぶりに気の置けない会話を楽しんだ。


「そろそろお暇するわ・・・」

クリスティーナはオリバーの顔を見つめて、やはり今日はクラークの屋敷に帰らなくては・・・と思った。

勢いでここへ押し掛けてしまったクリスティーナだったが、彼の優し気な菫色の瞳を見ると、何だか急にマリオンの事を思い出して居心地が悪くなったのだった。

やはり、今日またオリバーに再開して、今でも彼が愛しいと思った。

けれど、よく考えれば、いくら嘘ばかりつかれている形だけの妻とは言え、愛は無くとも、マリオンからは経済的に破格の待遇を受けている。

そもそも、自分はマリオンの恩に対して相応しい見返りを提供できていただろうか。

恐らく、彼のあの無情な頼みを引き受けるということが、自分が彼にしてやれる唯一の価値ある見返りだったに違いない。

それなのに、止むを得ない事情もあったとはいえ、マリオンの唯一の頼みを自分は叶えてやらなかったのだ。

先ほどは、頭に血が上って全てがどうでも良く、自分も勝手にしてやろうと思った。

しかし、落ち着いて考えてみれば、向こうからもう不要だと切り捨てられるならばともかく、自分からマリオンを裏切るような不誠実な真似は出来ない・・・。

そう、クリスティーナは思った。

マクレーンの屋敷を出た時は、このままオリバーと駆け落ちをしてやろうという位の気概を持って、彼の家にやってきたはずのクリスティーナだったが、今となっては何だか急に気持ちが萎んでしまったような気がしていた。

「今日は急にお邪魔してごめんなさい・・・。楽しい時間をありがとう。」





クリスティーナが、オリバーの家を出てクラークの屋敷に帰る途中、彼女を探し続けていたマリオンが彼女を見つけて駆け寄ってきた。

彼は心から心配そうな表情を浮かべていた。

「随分探したよ。無事でよかった・・・」

思わず彼女を抱きしめたマリオンの腕の中で、クリスティーナは思っていた。

支離滅裂な方ではあるけれど・・・今、私を大切に思っていてくださるのは本心だと感じる・・・。

やっぱり、私が帰るところはマリオン様のところしか無いのかしら・・・。

「一緒に帰ろう」

クリスティーナは帰り際にオリバーに手渡された、一つのボタンを握り締めたのだった。
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