誰にも言えないあなたへ

天海月

文字の大きさ
20 / 24

20(side マリオン)

しおりを挟む
マリオンの出生時の名前はマリーで、『マリオン』は一つ上の兄の名だった。

その兄は、彼女が生まれた翌年に流行り病で無くなってしまった。

クラーク家には、さらにもう一人男児がいたが、彼もその少し前に早世したばかりだった。


当時、近衛騎士で王太子付きであった父は、その仕事に誇りを持っていた。

しかし、自らが男児をたて続けに亡くした事によって、反対派の貴族から『そんな不吉な家の者が王太子付きなど相応しくない』と噂を立てられその任を解かれることを何より恐れた。

そして、苦肉の策として、マリーを『マリオン』に仕立てたのだった。

便宜上、『マリーは寝たきり』ということにされ、その存在には箝口令が敷かれた。

彼女は物心ついた時から、対外的には男として『マリオン』として生きることを強制された。

人形遊びをしたくても、剣を握らされた。

綺麗なドレスを着てみたくても、動きやすい飾り気の無い服を着せられた。

美しい長い髪に憧れても、少しでも伸びれば短く切りそろえられた。

男よりも男らしくならなければいけないという重圧があった。

彼女は何でも我慢する間に、いつの間にか、自分が何者で何を望むのかも分からなくなっていた。

自分の意思など無く、他人が望む自分になりきる事だけが、彼女の存在意義になりつつあった。


仕事には熱心だが、留守がちで家庭のことを顧みない父に失望した末、心を病んだ母は、彼女をのように扱った。

それはある種狂った愛だったが、彼女はになりきって、それを受け入れた。

母が望む『物語の騎士』にもなりきった。

可哀そうな母が束の間でも喜びに浸れるのであれば、自分は道化だろうが何だろうが、それで構わないという考えからだった。


父は時が来れば、彼女を『マリー』に戻すつもりで軽く考えていたが、実際はそう上手くはいかなかった。

年の離れた弟であるオリビエが誕生して、その重圧から解き放たれると思ったのも束の間、彼は幼くして水難事故で消息不明となってしまい、彼女は『マリオン』の辞め時を失ったのだった。

もし、彼女が極端に小柄であったり、武芸の才が皆無だったとしたならば、自分から辞めずとも、それは自ずと成り立たなくなっていたかもしれない。

だが、下手に素質があったことが災いして、彼女は誰にも気取られることなく男を続けることが出来てしまった。

それが、彼女を不幸たらしめた一番の要因だった。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

半日だけの…。貴方が私を忘れても

アズやっこ
恋愛
貴方が私を忘れても私が貴方の分まで覚えてる。 今の貴方が私を愛していなくても、 騎士ではなくても、 足が動かなくて車椅子生活になっても、 騎士だった貴方の姿を、 優しい貴方を、 私を愛してくれた事を、 例え貴方が記憶を失っても私だけは覚えてる。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ ゆるゆる設定です。  ❈ 男性は記憶がなくなり忘れます。  ❈ 車椅子生活です。

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

完結 愛される自信を失ったのは私の罪

音爽(ネソウ)
恋愛
顔も知らないまま婚約した二人。貴族では当たり前の出会いだった。 それでも互いを尊重して歩み寄るのである。幸いにも両人とも一目で気に入ってしまう。 ところが「従妹」称する少女が現れて「私が婚約するはずだった返せ」と宣戦布告してきた。

「好き」の距離

饕餮
恋愛
ずっと貴方に片思いしていた。ただ単に笑ってほしかっただけなのに……。 伯爵令嬢と公爵子息の、勘違いとすれ違い(微妙にすれ違ってない)の恋のお話。 以前、某サイトに載せていたものを大幅に改稿・加筆したお話です。

すれ違う思い、私と貴方の恋の行方…

アズやっこ
恋愛
私には婚約者がいる。 婚約者には役目がある。 例え、私との時間が取れなくても、 例え、一人で夜会に行く事になっても、 例え、貴方が彼女を愛していても、 私は貴方を愛してる。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 女性視点、男性視点があります。  ❈ ふんわりとした設定なので温かい目でお願いします。

無愛想な婚約者の心の声を暴いてしまったら

雪嶺さとり
恋愛
「違うんだルーシャ!俺はルーシャのことを世界で一番愛しているんだ……っ!?」 「え?」 伯爵令嬢ルーシャの婚約者、ウィラードはいつも無愛想で無口だ。 しかしそんな彼に最近親しい令嬢がいるという。 その令嬢とウィラードは仲睦まじい様子で、ルーシャはウィラードが自分との婚約を解消したがっているのではないかと気がつく。 機会が無いので言い出せず、彼は困っているのだろう。 そこでルーシャは、友人の錬金術師ノーランに「本音を引き出せる薬」を用意してもらった。 しかし、それを使ったところ、なんだかウィラードの様子がおかしくて───────。 *他サイトでも公開しております。

婚約者の心変わり? 〜愛する人ができて幸せになれると思っていました〜

冬野月子
恋愛
侯爵令嬢ルイーズは、婚約者であるジュノー大公国の太子アレクサンドが最近とある子爵令嬢と親しくしていることに悩んでいた。 そんなある時、ルイーズの乗った馬車が襲われてしまう。 死を覚悟した前に現れたのは婚約者とよく似た男で、彼に拐われたルイーズは……

貴方は私の

豆狸
恋愛
一枚だけの便せんにはたった一言──貴方は私の初恋でした。

処理中です...