あなたが残した世界で

天海月

文字の大きさ
3 / 20

3. side ロザリア

しおりを挟む
待ち望み続けて、やっと会う事がかなった憧れのアーロンは、かつての面影を失くしていた。

正義感と優しさに満ちていたはずの、彼の空色の瞳は色あせてしまったかのように何も映してはいなかった。

少し前まで、誰かと肌を重ねていた様な気だるい空気を漂わせながら、朝から酒場の隅に陣取って、独りきりで浴びるように酒を口にする彼は、まるで自分の知らない人のように見えた。

けれど、話をしてみれば、刺々しさはあるものの、記憶の中にあるよりも少し大人びて掠れたような彼の声に胸が締め付けられるようだった。


アーロンとはもう二度と会う事も無いだろう。

彼は随分変わってしまっていたし、酷い言葉もかけられ、自分が思っていた様な再会にはならなかった。

けれども、それでも最期に彼に一目でも会えて良かったと思った。

死にたくはなかったけれど、これで思い残すことは無い・・・。





私が七歳になったばかりの頃、王女付きの近衛騎士としてアーロンがやってきた。

彼は十七歳で、まだ騎士になったばかりだった。

彼自身の才能に加え、彼の父も祖父も代々騎士団長を務めてきた家系という期待の高さから、若くして近衛に抜擢されたのだ。


当時のアーロンと同じ年齢になった今思い返してみれば、どこか未熟な初々しさを感じさせるような表情だったが、初めて出会った日、はにかむ様に微笑んだ彼は、あの時幼かった私の目にはひどく大人びて眩しく映った。

彼の晴れ渡る夏の空のような瞳に心を射抜かれた。

その日から、アーロンは私のお気に入りになった。

どこへ行くにも彼を連れて歩いた。

気が付くと、彼を自分だけのものにしたくなっていた。

そして、彼は誓ってくれた。

私を一生守ると。

私は彼を独り占め出来たような気持ちになって嬉しかった。

けれど、その誓いは約束して幾らも経たないうちに破られることになった。


初めて彼に会ってから二年後の冬だった。

騎士団に洞窟の災厄の討伐話が持ち上がったのだ。

この国の中から、そろそろ生贄を出さなくてはならない時期になったが、当時、条件に見合うような魔力の高い年頃の娘を見つける事が出来なかった。

それに連動して、どうせ贄を用意できずに災厄に蹂躙されるのならば、駄目で元々だとしても、討伐を試みるべきだという意見が国中で多く挙がったのだ。

そして、彼の父である総騎士団長を代表として、各騎士団から優秀な者を選抜した討伐部隊が臨時に組織された。

洞窟の災厄は、魔力を込めた攻撃でなくては傷つける事がかなわないという理由から、魔術の才もあったアーロンは近衛騎士にも関わらず、その部隊に加えられる事になった。

出征の前の彼は、必ず手柄をあげて戻りますと言って、自分の父の力になれる事を喜んでいた。

けれど、討伐は失敗に終わってしまった。

討伐に向かった彼以外の全ての人間が命を落とした。

もちろん、その中には彼の父も含まれていた。


その後、彼は近衛騎士として私のところに戻ってきたが、以前のような明るさは無く、一言も口をきかなくなってしまった。

そして、それからしばらくすると突然騎士を辞し、私の前から姿を消してしまったのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「ばっかじゃないの」とつぶやいた

吉田ルネ
恋愛
少々貞操観念のバグったイケメン夫がやらかした

【完結】365日後の花言葉

Ringo
恋愛
許せなかった。 幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。 あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。 “ごめんなさい” 言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの? ※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。

すべてはあなたの為だった~狂愛~

矢野りと
恋愛
膨大な魔力を有する魔術師アレクサンダーは政略結婚で娶った妻をいつしか愛するようになっていた。だが三年経っても子に恵まれない夫妻に周りは離縁するようにと圧力を掛けてくる。 愛しているのは君だけ…。 大切なのも君だけ…。 『何があってもどんなことをしても君だけは離さない』 ※設定はゆるいです。 ※お話が合わないときは、そっと閉じてくださいませ。

冷たい王妃の生活

柴田はつみ
恋愛
大国セイラン王国と公爵領ファルネーゼ家の同盟のため、21歳の令嬢リディアは冷徹と噂される若き国王アレクシスと政略結婚する。 三年間、王妃として宮廷に仕えるも、愛されている実感は一度もなかった。 王の傍らには、いつも美貌の女魔導師ミレーネの姿があり、宮廷中では「王の愛妾」と囁かれていた。 孤独と誤解に耐え切れなくなったリディアは、ついに離縁を願い出る。 「わかった」――王は一言だけ告げ、三年の婚姻生活はあっけなく幕を閉じた。 自由の身となったリディアは、旅先で騎士や魔導師と交流し、少しずつ自分の世界を広げていくが、心の奥底で忘れられないのは初恋の相手であるアレクシス。 やがて王都で再会した二人は、宮廷の陰謀と誤解に再び翻弄される。 嫉妬、すれ違い、噂――三年越しの愛は果たして誓いとなるのか。

皇子の婚約者になりたくないので天の声に従いました

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
幼い頃から天の声が聞こえるシラク公爵の娘であるミレーヌ。 この天の声にはいろいろと助けられていた。父親の命を救ってくれたのもこの天の声。 そして、進学に向けて騎士科か魔導科を選択しなければならなくなったとき、助言をしてくれたのも天の声。 ミレーヌはこの天の声に従い、騎士科を選ぶことにした。 なぜなら、魔導科を選ぶと、皇子の婚約者という立派な役割がもれなくついてきてしまうからだ。 ※完結しました。新年早々、クスっとしていただけたら幸いです。軽くお読みください。

拝啓 お顔もお名前も存じ上げない婚約者様

オケラ
恋愛
15歳のユアは上流貴族のお嬢様。自然とたわむれるのが大好きな女の子で、毎日山で植物を愛でている。しかし、こうして自由に過ごせるのもあと半年だけ。16歳になると正式に結婚することが決まっている。彼女には生まれた時から婚約者がいるが、まだ一度も会ったことがない。名前も知らないのは幼き日の彼女のわがままが原因で……。半年後に結婚を控える中、彼女は山の中でとある殿方と出会い……。

婚約破棄をしてくれた王太子殿下、ありがとうございました

hikari
恋愛
オイフィア王国の王太子グラニオン4世に婚約破棄された公爵令嬢アーデルヘイトは王国の聖女の任務も解かれる。 家に戻るも、父であり、オルウェン公爵家当主のカリオンに勘当され家から追い出される。行き場の無い中、豪商に助けられ、聖女として平民の生活を送る。 ざまぁ要素あり。

初恋の呪縛

緑谷めい
恋愛
「エミリ。すまないが、これから暫くの間、俺の同僚のアーダの家に食事を作りに行ってくれないだろうか?」  王国騎士団の騎士である夫デニスにそう頼まれたエミリは、もちろん二つ返事で引き受けた。女性騎士のアーダは夫と同期だと聞いている。半年前にエミリとデニスが結婚した際に結婚パーティーの席で他の同僚達と共にデニスから紹介され、面識もある。  ※ 全6話完結予定

処理中です...