あなたが残した世界で

天海月

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5.再起

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八年前に騎士たちの魂を喰らった洞窟の災厄は、しばらく沈黙を貫いていた。

だが、やはり条件に見合っていない『食事』では、空腹を完全に満たすことは出来なかったのだろう。

だからこそ、今になってまた新たな生贄を求めて動き出したに違いなかった。





ロザリアに再開した日からアーロンは、あれだけ溺れていた酒と女を一切絶った。

そして、鍛錬に明け暮れた。

凋落した彼しか知らない周囲の人々は、人が変わったようなその変貌ぶりに驚いたが、一時は落ちるところまで落ちたとはいえ、厳しすぎる程の苦行を自らに課す今の姿こそが実際の彼の本質だった。

己の選択の誤りによって、数えきれない程多くのものを失った彼は、自分自身に失望しその闇に長く沈んだ。

酒も女も望んで溺れたわけではなかった。

酒が美味いと思ったことは一度も無かったし、相手の女を愛しいと思ったことも皆無だった。

そこに愉しさなど欠片もなかった。

ただの苦しみからの逃避の手段だった。

酒を飲んで思考を麻痺させ、女を抱いてその熱と快楽に身を委ねれば、その時だけは自分が自分であることを忘れることが出来た。

自分は騎士とは名ばかりで何一つこの手で救えなかったろくでなしなのだという、己の絶え間ない謗りから、束の間だけ逃れる事ができた。

彼はそうやって、追いかけてくる現実と自らが休みなく与える苦痛から逃げ続けてきた。

そうしなくては、その日一日すら生きていられなかった故に。

自ら命を断ってしまいたい衝動が無かったわけではない。

けれど、あの日生き残ってしまった自分にしか出来ないことがきっとあるはずだと、無くては困ると、どこかで思っていた。

自分の命の使いどころがあるはずだと。

そして、まだそれが済んでいないうちに、殺されるなら兎も角、自分から命を投げ出すような真似は出来ないという思いからだった。

それだけが、彼を今まで生き長らえさせていた。



だが、今ロザリアの苦境を知り、彼はようやく自分の使い道を見つけ出すことが出来たのだった。

それが、生贄に選ばれたロザリアを自らの手で救う事だった。

彼女は、かつて彼の行く先を照らしてくれる存在だった。

そして、それは今でも変わらなかった。


錆びついていた彼は、今ようやくその輝きを取り戻したのだった。

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