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19.深く沈む
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ロザリアは息絶えた彼の身体に回復魔術を掛け続けた。
その傷が消えても、何度も何度も掛け続けた。
けれど、彼は決して起き上がらなかった。
彼女は激しい動悸に襲われた。
「どうして・・・どうして、アーロン・・・」
ロザリアは本当は解っていた。
彼の魂がもうここには無くなってしまったから、いくら肉体を修復しても彼が戻ってこないのだと。
けれど、どうしてもそれを認めたくなかった。
ロザリアは自分が死ぬ覚悟はしていたが、彼が死ぬ覚悟など出来ていなかった。
彼に騎士として守ってほしいとは思っていたけれども、自らの命を引き換えにしてまで救ってほしいとは少しも思っていなかった。
愛している彼には、例え自分がもう居ない世界の中だったとしても、生きていて欲しかった。
彼女は自分が死んでも構わないから、彼を返してほしいと誰にでもなく強く願った。
「お願い・・・彼を返して・・・」
ロザリアは唐突に視界が暗転し、自分の存在が形を失くして融けだしていく様な不思議な感覚にとらわれた。
それは、自分と世界の境界が揺らぎ、自分が世界に拡がって霧散していくような、けれどこれ以上ないくらいの温かな気持ちで満たされるような・・・。
彼女は意識を手放した。
◇
彼女は気付くと、洞窟の中とは別の暗闇の中にいた。
そこは寒々とした洞窟とは違って、上も下もなく、どんな事でも全てが赦されるような安心感に満たされていた。
彼女の周囲には、白く輝く星のような光が点々と存在している。
そして、それはどこまでも拡がっているのだと彼女には、誰に説明されることもなく理解した。
・・・彼はここにいる。
彼女は理由は解らなくても、この場所に彼が居るのだとその存在を確信した。
彼は何処?
ロザリアはその疑問と同時に、一つの光球の前に移動していた。
それが、彼なのだと彼女にはすぐに解った。
彼女はそれに優しく触れた。
すると彼女の中に、生前の彼の記憶とその時の感情の全てが、一瞬で怒涛のように流れ込んできた。
それはまるで彼女自身が体験したこと以上の、異様な程の現実感を伴なって感じられた。
幼いころの彼と、その家族の幸せな記憶。
騎士の試験に受かった時の喜び。
彼女と初めて出会った時の不安と喜び。
彼女に対する慈しみの気持ち。
尊敬する父を殺さなくてはならなかった事と殺せずに仲間達を全滅させた絶望。
そんな無力な己に対する失望。
彼女の元を去った時の気持ち。
何をしても罪悪感から逃れられない長い苦悶の日々。
彼女に再開した時の彼の覚悟。
彼女への愛を自覚したことへの戸惑い。
そして、最期に彼女を守りきれたことに対する達成感と、彼女を残して逝かなくてはならないことへの無念・・・
また自分のせいで一人きりになる彼女が寂しくならないかという惧れ・・・
◇
「アーロン、私はあなたのことを何も解っていなかったのね・・・」
いつの間にか、洞窟の中で意識を取り戻したロザリアは、彼の亡骸を抱きしめながら、思わず虚空に向かって呟いていた。
彼の全てに深く触れ、その胸が一杯になった彼女は、嬉しさのような悲しさのような様々な思いが綯い交ぜになって、溢れ出してくる涙を自分では止められなくなっていた。
その傷が消えても、何度も何度も掛け続けた。
けれど、彼は決して起き上がらなかった。
彼女は激しい動悸に襲われた。
「どうして・・・どうして、アーロン・・・」
ロザリアは本当は解っていた。
彼の魂がもうここには無くなってしまったから、いくら肉体を修復しても彼が戻ってこないのだと。
けれど、どうしてもそれを認めたくなかった。
ロザリアは自分が死ぬ覚悟はしていたが、彼が死ぬ覚悟など出来ていなかった。
彼に騎士として守ってほしいとは思っていたけれども、自らの命を引き換えにしてまで救ってほしいとは少しも思っていなかった。
愛している彼には、例え自分がもう居ない世界の中だったとしても、生きていて欲しかった。
彼女は自分が死んでも構わないから、彼を返してほしいと誰にでもなく強く願った。
「お願い・・・彼を返して・・・」
ロザリアは唐突に視界が暗転し、自分の存在が形を失くして融けだしていく様な不思議な感覚にとらわれた。
それは、自分と世界の境界が揺らぎ、自分が世界に拡がって霧散していくような、けれどこれ以上ないくらいの温かな気持ちで満たされるような・・・。
彼女は意識を手放した。
◇
彼女は気付くと、洞窟の中とは別の暗闇の中にいた。
そこは寒々とした洞窟とは違って、上も下もなく、どんな事でも全てが赦されるような安心感に満たされていた。
彼女の周囲には、白く輝く星のような光が点々と存在している。
そして、それはどこまでも拡がっているのだと彼女には、誰に説明されることもなく理解した。
・・・彼はここにいる。
彼女は理由は解らなくても、この場所に彼が居るのだとその存在を確信した。
彼は何処?
ロザリアはその疑問と同時に、一つの光球の前に移動していた。
それが、彼なのだと彼女にはすぐに解った。
彼女はそれに優しく触れた。
すると彼女の中に、生前の彼の記憶とその時の感情の全てが、一瞬で怒涛のように流れ込んできた。
それはまるで彼女自身が体験したこと以上の、異様な程の現実感を伴なって感じられた。
幼いころの彼と、その家族の幸せな記憶。
騎士の試験に受かった時の喜び。
彼女と初めて出会った時の不安と喜び。
彼女に対する慈しみの気持ち。
尊敬する父を殺さなくてはならなかった事と殺せずに仲間達を全滅させた絶望。
そんな無力な己に対する失望。
彼女の元を去った時の気持ち。
何をしても罪悪感から逃れられない長い苦悶の日々。
彼女に再開した時の彼の覚悟。
彼女への愛を自覚したことへの戸惑い。
そして、最期に彼女を守りきれたことに対する達成感と、彼女を残して逝かなくてはならないことへの無念・・・
また自分のせいで一人きりになる彼女が寂しくならないかという惧れ・・・
◇
「アーロン、私はあなたのことを何も解っていなかったのね・・・」
いつの間にか、洞窟の中で意識を取り戻したロザリアは、彼の亡骸を抱きしめながら、思わず虚空に向かって呟いていた。
彼の全てに深く触れ、その胸が一杯になった彼女は、嬉しさのような悲しさのような様々な思いが綯い交ぜになって、溢れ出してくる涙を自分では止められなくなっていた。
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