農民の少年は混沌竜と契約しました

アルセクト

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第四章 分岐点

水髪

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 僕達はイツキさん達の話を聞きながら、途中村を2つ超えてクルク村に一番近い街についた。
 街まではゆっくりと走らせる牛馬車でも半日はかかるから、朝早くから昼休憩以外はずっと歩き続けて日が暮れる頃にようやく辿り着いた。
 でも街とはいえここは最南の街でありこの辺りは農作が主なので、最南の大森林からの魔物の襲撃に備えたそこそこ高くて頑丈な石壁があり、その周囲には収穫後の茎等の焼き跡が残る畑が大きく広がっていた。
 この街は元々は最南の村だったらしいけど、国土の開拓が計画された時に街として周囲を切り拓く拠点として街になって拡張されており、村の北側に街として家屋を建てて周囲を石壁で囲んだので村の頃にあった畑は中に残っており、外にある畑はそのほぼ全てが街となった後に移住してきた人達の物だと聞いている。

「大丈夫?」
「うん!ユンちゃんに乗せてもらったから」
「ワフゥ」

 道中ソフィは2つめの村を越えて少しした頃に歩き疲れてしまったので、そこから街までは元気に走り回っていたユンの背に乗って来ていた。
 僕も一日でこんなに歩く事は稀だけれど、でも毎日それなりの距離を散歩しているし、それ以上に日々の農業とタームの世話で足腰が武芸者とは比べ物にはならないけど鍛えられている。
 イツキさん達は街に着くなり「ちょいとやる事あるから明日の朝北門で」と言って離れてしまったので今は僕とソフィと従魔達だけで歩いて宿に向かっている。
 この街はクルク村から一番近い街なので何度か来たことがあるので一応勝手は知っており、街に3つある宿の内一番安い庶民向けの宿屋へ向かう。
 他2つの宿屋は貴族向けの比較的綺麗な宿と旅人向けの案内で紹介されるもので、この近辺に住んでいるのなら寝泊まりと簡素な食事が付くだけの宿で充分だった。

「メイさん達はどこに泊まるのかな?」
 ソフィが街中を歩きながら首を傾げる。
「イツキさん達は旅人向けの所だと思うよ。確か市の近くだから色々買い込むと思うなぁ」
「たくさん食べてたもんね」
 僕とソフィはそう言って苦笑する。
 というのも僕とソフィの家で分かれて泊まっていたけれど、皆たくさん食べるから自前で持ってきた食材を山ほど使って調理していたのでその補充をする事は想像に難くなかった。
 そうして雑談をしていると小さな街だから、あっという間に目的の宿屋に着いたので中に入る。

「あらあら、水髪みずがみの娘じゃない!」

 中に入ると宿屋の女将さんがソフィを見てそう言った。
 これはソフィの髪色はとても珍しく、金か茶髪ばかりで仄かに赤や青み掛かっていることはあるけれど、ここまで鮮やかな薄い水色の髪はこの街周辺には他に居ないので「水髪の」と出会った人が覚えている事が多い。
「お久しぶりです」
「最南の子でしたっけ?もーここ暫く来てなかったよねぇ」
「私とロイ君が来たのは2年前になります」
「あらやだそうだったかしら?年をとると時間があっというまに過ぎちゃうよ。親御さんは後でくるの?」
「あ、私とロイ君の2人旅なんです」
 そうソフィが言うと女将さんは目を丸くした。
「おおそうかい!それはいい従魔にでも恵まれたのかい」
 そう言って、目に見えて強そうな狼のユンを連れた僕の方を見る。
「はい。コンは簡単な魔法が使えるくらい賢くて、ユンは普通の狼よりも頭一つ抜けてるくらいちょっと特別な、自慢の家族です」
 本当はコンは混沌竜だからたぶん学者さんが知らない事も一杯知ってるし、ユンはユンで知能はそう変わらないらしいけど力はもう既に種の平均の3倍はあるそうだけどそう言って、2人を撫でると嬉しそうに笑う。
「そうかいそうかい!そりゃあいいことだね」
 でももちろんそんな事を知るはずもない女将さんは笑うと、僕とソフィを見比べる。

「そうだね、子供……いや、独立してるなら大人2人別室で銅貨3枚だよ」

 女将さんはそう言って僕の方を見る。
 これはどの国でも成人は決まって18才と決まっているのだけれど、これは確かニホン人という人達が来た時に変わったもので、早い所では獣人なんかは7か8で成人を迎える種族もあれば、ドワーフなんかは100超えるまでと本当に様々であったらしい。
 だけれどあの国では成人だけれどこの国では成人ではない、では混乱してしまうので統一されたのであり、人国は元は15で成人としていた名残から法とは別に15越えれば成人というのが根強く残っていて、お酒も法では駄目だけれど15になれば普通に飲めるし街の衛兵なんかも止めるどころか勧めたりしてるんだとか。
 この成人の法と習慣のズレは他にも色濃く残っていて、今僕が仕事に就かずに旅をしているのもズレによる空白期間の間と言う事で3年間まで旅をして決めるようにとなっていたりする。

 あと1人につき銅貨1枚と鉄貨50枚の銅貨3枚は宿屋としてはほぼ最低限であり、小さな部屋に野宿よりはよっぽどマシな程度のベッドと簡素な食事が付く程度だ。
 あと王都で泊まった宿は旅人向けの少し高い所で、食費込みだと1人につき一泊銅貨5枚、2人だと銅貨10枚にもなる。
 だから元々コンに取り出して貰っていた銅貨をズボンのポケットから出そうとした。


「その!す、すみませんが、なるべくせっ節約したいので!ツインでお願いします」


 と、そこでソフィが声を詰まらせつつ、顔をほんのりと赤くして言った。
「それはいいけれど、そっちの子はそれでいいのかい?」
 女将さんは驚いたように目を丸くしたけれど、すぐに落ち着いて僕に聞く。
「本当にそれでいいの?僕はいいけど、お金の事ならそこまで切り詰めなくても……」
「それじゃあツインでお願いします」
 ソフィはまだちょっとだけ荒い声でそう言うと、女将さんはクスクスと笑う。

「なら大人2人ツインで一泊銅貨2枚だよ」



ーーーーーーーーーーーーーーーーー
 ちょっとした設定の話。

 この世界の共通言語が日本語で、英語をカタカナで読み上げる呼び方がその中に混ざっているのも(大層深く考えさせられるような事はないですが)理由は一応あったりします。
 後々説明回をどこかに挟みたいなーとは思っています(何時になることやら)
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