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第四章 分岐点
起床時間
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「本当に良かったの?」
小さな部屋の真ん中に置かれた椅子に腰掛けて、丸い机の上に置かれた簡素な夕食を囲んでソフィに問いかける。
この宿は食堂は無いので部屋で、料理は小麦粉を練って平たくして鉄板で薄く焼いたパンを千切り、それに卵や野菜などを挟んで食べる。家では手間の掛かる膨らませたパンを使う事が多いとても一般的な食事だ。
「うん。これから旅でお金は色々必要だろうし、出来る所は節約していかないとね。それにロイ君なら……」
「ん?」
「ろ、ロイ君なら同じ部屋でもも、問題ないと、思うから」
そう言って少しだけ顔を赤くして俯くソフィに、僕は「あはは……」と苦笑を返す事しか出来なかった。
「そ、それより、食べ終わったら私が先に汗を流しても良いかな?」
そんな微妙な空気を誤魔化す様にソフィが質問してくる。
「いいよ」
「やった!」
もちろん僕だって早く入りたいけれど、今日は僕よりもソフィの方が歩き疲れているだろうから頷く。そうでなくても頷いていたとは思うけど。
ソフィが体を洗っている間、僕はベッドに腰掛けてユンの毛を刷毛で梳く。
僕が使ったあとの水を掛けて洗うからあまり意味のないただの暇潰しなんだけど、特に趣味らしい趣味の無い僕の数少ない暇潰し。
いつもならこういった事をしながら家族と話をするのだけど、ソフィと従魔だけで旅を始めた今はコンも窓から物珍しそうに外を眺めているから黙々と作業に没頭する。
「ロイ君、お風呂空いたよ」
そうして無心にユンの毛を梳いている所に声をかけられて顔を上げる。
するとそこには淡いピンクのパジャマを着た、まだ水気の残る髪を肩に掛けたタオルの上に乗せて立っている姿が目に入る。
「どうしたの?」
そうして見つめたまま黙り込んでいると、ソフィが不思議そうに首を傾げる。
「ソフィの髪ってやっぱり綺麗だなーって思って」
「え!」
「いつも綺麗だなって思うけど、濡れてたらまた普段と違っていいなって」
「うぇえ!?」
顔を赤くしたソフィにそれだけ言うと、僕はコンとユンを連れてお風呂へ向かう。
本当は髪だけじゃなくて、髪とパジャマと肌と、そういった今のソフィの姿全てに見惚れていた、とは流石に恥ずかしくて言えなかった。
「ふあぁ……」
朝、いつもと同じ時間に目を覚ます。
でも今日は少しばかり疲れが残っていてまだ寝ていたかったけれど、朝の仕事のために体を左右に捻ってから体を起こす。
「おはようだ、ロイ」
「おはようコン」
寝ていた僕の頭の上側で寝ていたらしいコンに挨拶して、僕はその時寝ていたのがいつもの布団ではなくベッドであることに気が付いた。
「あれ?」
不思議に思って周囲を見渡すとそこはいつもの部屋ではなく、向かいにはもう一つベッドがあって、そこには見慣れた淡い水色の髪をしたソフィが静かに寝息を立てていた。
と、そこでようやく今旅に出ていて宿に居た事を思い出した。
「お父さん、一人で大丈夫かなぁ」
今の時期は収穫も終わり、家では冬に向けての畑の準備とタームの世話なのでまだ楽な方だけど、タームの世話だけでも一人だとやっぱり時間も掛かる。
でもよく考えてみれば、僕が畑とタームの世話の半分くらいを負担するようになる前と後では木工の仕事の量を倍くらいにしていたから、きっとそちらを減らす事で調節するのかな。
「うーん、暇だなぁ」
二度寝しようとベッドに横になってみたものの、目が冴えてしまって寝られそうになかった。
ソフィが起きるのはいつも6時か7時くらいでユンも同じくらいだから起こすのは悪いし、コンと話をしてても起こすかもしれないし、この時間から散歩するのはちょっと憚られた。
「そうだ」
そこで少し思い付いて、僕はベッドから降りて部屋の反対側にあるベッドの脇でしゃがんで僕は横向きに寝ていたソフィの寝顔を静かに眺める。
ゆっくりソフィの寝顔を最後に見たのはもう何年も前で、先日家で気を失った時は申し訳無さからこうして眺めることはしなかったけれど、宿の同じ部屋で寝ているのだからいいかなと思う。
サラサラとした髪が数本顔に掛かり、規則正しい寝息に合わせて揺れる。
夢を見ているのか時折薄いピンクの唇がモゴモゴと動く。
何度か寝返りを打ったのか、髪は大きく乱れていた。
こうして眺めるソフィの寝顔は、やっぱりとても綺麗で可愛いと思う。
そうして朝日が昇るまでずっと眺めていると、ソフィが「うぅん」と唸って目を開く。
「……」
そして、ボーッとした様子で目を半開きにして僕に右手を伸ばして、ペチと音を立てて頬に手が当たる。
それから2度3度とペチペチと頬を優しく叩いて、そこでハッとした様子で目を大きく開くとガバッと体を起こした。
「うぇ!!ろろ、ロイ君!?なんで!どうして!?え!」
と、何故か混乱したように顔を左右に振って部屋を見渡すソフィの、勢い良く動くたびに大きく揺れる髪が明るい朝日を反射するように輝く。
「おはようソフィ」
慌てるソフィをどうしようかと思って、とりあえず挨拶をする。
「お、おはよう?」
「おはよう。もう朝だよ」
「……あっそっか、今宿に居たんだっけ」
「うん」
「え、でもなんでロイ君がそんなところに?」
「なんでって、やることが無かったから?」
「何をしてたの」
「ソフィの寝顔を見てた」
そう正直に答えていると、ソフィの顔が突然真っ赤になった。
「わ、え、私の寝顔を!?」
「うん。凄く可愛かった」
そう言うと、ソフィは口を小さく開けたり閉じたりを繰り返して、それから小さな声で言った。
「こ、これからはみ、見るのは良い、けど、私が起きる前には、やめてね?」
「え?うん、わかった」
小さな部屋の真ん中に置かれた椅子に腰掛けて、丸い机の上に置かれた簡素な夕食を囲んでソフィに問いかける。
この宿は食堂は無いので部屋で、料理は小麦粉を練って平たくして鉄板で薄く焼いたパンを千切り、それに卵や野菜などを挟んで食べる。家では手間の掛かる膨らませたパンを使う事が多いとても一般的な食事だ。
「うん。これから旅でお金は色々必要だろうし、出来る所は節約していかないとね。それにロイ君なら……」
「ん?」
「ろ、ロイ君なら同じ部屋でもも、問題ないと、思うから」
そう言って少しだけ顔を赤くして俯くソフィに、僕は「あはは……」と苦笑を返す事しか出来なかった。
「そ、それより、食べ終わったら私が先に汗を流しても良いかな?」
そんな微妙な空気を誤魔化す様にソフィが質問してくる。
「いいよ」
「やった!」
もちろん僕だって早く入りたいけれど、今日は僕よりもソフィの方が歩き疲れているだろうから頷く。そうでなくても頷いていたとは思うけど。
ソフィが体を洗っている間、僕はベッドに腰掛けてユンの毛を刷毛で梳く。
僕が使ったあとの水を掛けて洗うからあまり意味のないただの暇潰しなんだけど、特に趣味らしい趣味の無い僕の数少ない暇潰し。
いつもならこういった事をしながら家族と話をするのだけど、ソフィと従魔だけで旅を始めた今はコンも窓から物珍しそうに外を眺めているから黙々と作業に没頭する。
「ロイ君、お風呂空いたよ」
そうして無心にユンの毛を梳いている所に声をかけられて顔を上げる。
するとそこには淡いピンクのパジャマを着た、まだ水気の残る髪を肩に掛けたタオルの上に乗せて立っている姿が目に入る。
「どうしたの?」
そうして見つめたまま黙り込んでいると、ソフィが不思議そうに首を傾げる。
「ソフィの髪ってやっぱり綺麗だなーって思って」
「え!」
「いつも綺麗だなって思うけど、濡れてたらまた普段と違っていいなって」
「うぇえ!?」
顔を赤くしたソフィにそれだけ言うと、僕はコンとユンを連れてお風呂へ向かう。
本当は髪だけじゃなくて、髪とパジャマと肌と、そういった今のソフィの姿全てに見惚れていた、とは流石に恥ずかしくて言えなかった。
「ふあぁ……」
朝、いつもと同じ時間に目を覚ます。
でも今日は少しばかり疲れが残っていてまだ寝ていたかったけれど、朝の仕事のために体を左右に捻ってから体を起こす。
「おはようだ、ロイ」
「おはようコン」
寝ていた僕の頭の上側で寝ていたらしいコンに挨拶して、僕はその時寝ていたのがいつもの布団ではなくベッドであることに気が付いた。
「あれ?」
不思議に思って周囲を見渡すとそこはいつもの部屋ではなく、向かいにはもう一つベッドがあって、そこには見慣れた淡い水色の髪をしたソフィが静かに寝息を立てていた。
と、そこでようやく今旅に出ていて宿に居た事を思い出した。
「お父さん、一人で大丈夫かなぁ」
今の時期は収穫も終わり、家では冬に向けての畑の準備とタームの世話なのでまだ楽な方だけど、タームの世話だけでも一人だとやっぱり時間も掛かる。
でもよく考えてみれば、僕が畑とタームの世話の半分くらいを負担するようになる前と後では木工の仕事の量を倍くらいにしていたから、きっとそちらを減らす事で調節するのかな。
「うーん、暇だなぁ」
二度寝しようとベッドに横になってみたものの、目が冴えてしまって寝られそうになかった。
ソフィが起きるのはいつも6時か7時くらいでユンも同じくらいだから起こすのは悪いし、コンと話をしてても起こすかもしれないし、この時間から散歩するのはちょっと憚られた。
「そうだ」
そこで少し思い付いて、僕はベッドから降りて部屋の反対側にあるベッドの脇でしゃがんで僕は横向きに寝ていたソフィの寝顔を静かに眺める。
ゆっくりソフィの寝顔を最後に見たのはもう何年も前で、先日家で気を失った時は申し訳無さからこうして眺めることはしなかったけれど、宿の同じ部屋で寝ているのだからいいかなと思う。
サラサラとした髪が数本顔に掛かり、規則正しい寝息に合わせて揺れる。
夢を見ているのか時折薄いピンクの唇がモゴモゴと動く。
何度か寝返りを打ったのか、髪は大きく乱れていた。
こうして眺めるソフィの寝顔は、やっぱりとても綺麗で可愛いと思う。
そうして朝日が昇るまでずっと眺めていると、ソフィが「うぅん」と唸って目を開く。
「……」
そして、ボーッとした様子で目を半開きにして僕に右手を伸ばして、ペチと音を立てて頬に手が当たる。
それから2度3度とペチペチと頬を優しく叩いて、そこでハッとした様子で目を大きく開くとガバッと体を起こした。
「うぇ!!ろろ、ロイ君!?なんで!どうして!?え!」
と、何故か混乱したように顔を左右に振って部屋を見渡すソフィの、勢い良く動くたびに大きく揺れる髪が明るい朝日を反射するように輝く。
「おはようソフィ」
慌てるソフィをどうしようかと思って、とりあえず挨拶をする。
「お、おはよう?」
「おはよう。もう朝だよ」
「……あっそっか、今宿に居たんだっけ」
「うん」
「え、でもなんでロイ君がそんなところに?」
「なんでって、やることが無かったから?」
「何をしてたの」
「ソフィの寝顔を見てた」
そう正直に答えていると、ソフィの顔が突然真っ赤になった。
「わ、え、私の寝顔を!?」
「うん。凄く可愛かった」
そう言うと、ソフィは口を小さく開けたり閉じたりを繰り返して、それから小さな声で言った。
「こ、これからはみ、見るのは良い、けど、私が起きる前には、やめてね?」
「え?うん、わかった」
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