農民の少年は混沌竜と契約しました

アルセクト

文字の大きさ
120 / 125
第四章 分岐点

貸牛馬車

しおりを挟む
 寝起きの小さな騒ぎから暫くして、僕とソフィは運ばれてきた朝食を食べたら宿を出た。
「イツキさん達、居るかな?」
「どうかなぁ」
 細かな時間は決めていなかったので不安だったけれど、街の北門に行ってみればそこにはフールさんとスーさんの姿があった。

「おはようございます。ロイさん、ソフィさん」
「おっはよう!」
 僕達の姿を見たフールさんは丁寧にお辞儀をして、スーさんは右手をブンブンと振る。
 僕達も頭を下げて挨拶をする。
「体の調子はどうですか?旅慣れてないと一日歩くだけでも辛いものですから、歩くのが辛いのであれば我慢せずに言ってください」
「僕は大丈夫です。一応農家をしてますから」
 そう答えてからソフィを見ると、少し考え込んでいた。
「私もたぶん大丈夫だと思いますけど、またユンのお世話になるかも」
「1日2日で慣れるものでもないですから、旅を続けていたらその内慣れると思いますよ。イツキがそうだったみたいですし」
 イツキさんが?と疑問に思うけれど、そういわれて見れば毎日タームの餌などの重い荷物を運んだりしてる自分より腕や足が細かったなと思い出す。
「イツキとメイさんは今この辺りの事を聞いてまわってるから、もう少ししたら来るよ」
 と、僕達の疑問に先回りするように教えてくれる。
「それと今日の予定についてなんだけど、牛馬車に乗って行って次の街の手前の村で降りて、村と街の間の街道の脇でキャンプするからそのつもりでね」
「キャンプですか?」
 街まで行けないから村でならともかく、わざわざ野宿をする理由がわからない。

「それは「依頼を受けたからだよ、そういうな」」

 と、フールさんの声に被せるようにイツキさんの声が後ろから聞こえた。
「おはようございます」
「おうおはよ」
 そう軽く挨拶を返すイツキさんの後ろには少しだけ機嫌良さそうに微笑んでいるメイさんが居たけれど、僕達の姿を見るとすぐに踵を返して街の中へ戻っていった。
「あれは気にすんな、たまにああなんだ」
 イツキさんもメイさんを見てそういうと、一度深く溜息をついた。
「とりあえず今日はメイが貸牛馬車を借りに行ってるから、それを使って行くぞ」
「え、貸牛馬車ですか!?」
 サラッとイツキさんはそういったけれど、一定の時間毎に人を乗せて街と街の間を行き来する乗り合い牛馬車より高くつくのだ。
「代金は俺ら持ちだから気にすんな。ほら俺以外……あー、こんなこと言いたかねぇけど純粋な人間じゃねぇだろ?だから目立つし好奇心で寄るか嫌な顔するかの二択でな、場合によっては亜人はお断りだってこともあるからよく借りんだよ」
 それを聞いて、僕とソフィは何にも言えずに黙り込んでしまう。
 隣で聞いていたフールさんとスーさんは気にせず笑っているからフォローみたいなのをするのは違うし、だからといって怒るとイツキさん達を困らせるだけだろう。
「この国は人国の奥地だけど、だからこそか?亜人に対する差別はそうねぇけど嫌な顔されるのは嫌だし、相手が嫌がることをわざわざして気分を害することもしたくはない。まあ俺らはこういったことは慣れっ子だから気にせんでいいさ」
 そう言って笑うイツキさんの目に少し寂しさが見えた気がするけど、僕には何も言うことは出来なかった。

「ま、だからこそ暖かく迎えてくれたお礼の意味も込めてお前さんの親父さんからのロイに色々教えてやってくれって依頼を受けてるって訳だ。ああ依頼って言ってるのは俺らの勝手だから正しくはお願いな」

「そうだったんですか」
 嬉しそうに笑うイツキさんに、僕も笑顔で返す。
「まあそれはそれとして、野宿すんのは王都に着くまでに野宿するのに適した場所だとか、焚き火の仕方だ何だと習ってるとは思うが聞くのとやるのとでは全然勝手が違うからな。何がいって何が要らんのかとか、やらんとわからんからやるんだ」
 言われて、昔学校で習った事が幾らか朧げになっていた事に気が付いた。


「わかりました、よろしくお願いします」
「おうよ、任せときな」

しおりを挟む
感想 84

あなたにおすすめの小説

元公務員、辺境ギルドの受付になる 〜『受理』と『却下』スキルで無自覚に無双していたら、伝説の職員と勘違いされて俺の定時退勤が危うい件〜

☆ほしい
ファンタジー
市役所で働く安定志向の公務員、志摩恭平(しまきょうへい)は、ある日突然、勇者召喚に巻き込まれて異世界へ。 しかし、与えられたスキルは『受理』と『却下』という、戦闘には全く役立ちそうにない地味なものだった。 「使えない」と判断された恭平は、国から追放され、流れ着いた辺境の街で冒険者ギルドの受付職員という天職を見つける。 書類仕事と定時退勤。前世と変わらぬ平穏な日々が続くはずだった。 だが、彼のスキルはとんでもない隠れた効果を持っていた。 高難易度依頼の書類に『却下』の判を押せば依頼自体が消滅し、新米冒険者のパーティ登録を『受理』すれば一時的に能力が向上する。 本人は事務処理をしているだけのつもりが、いつしか「彼の受付を通った者は必ず成功する」「彼に睨まれたモンスターは消滅する」という噂が広まっていく。 その結果、静かだった辺境ギルドには腕利きの冒険者が集い始め、恭平の定時退勤は日々脅かされていくのだった。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

処理中です...