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3 これで死んだら笑い話にもならない
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で、問題の洞窟である。途中までは順調だった。洞窟の入り口からは細長い通路の一本道があって、そこを通り抜けると円形の巨大空間に出る。泥棒の証言どおり、そこには金銀の装飾品や硬貨といった財宝が散らばっていて、無造作に積み重ねられている。それらに囲まれるように、巨大空間の中央に赤龍が、猫を思わせるポーズで体を丸めて眠っていた。
広場のような空間が大きすぎて感覚がおかしくなるが、猫どころか赤龍は立ち上がれば十メートルはあろうかというサイズだ。人間など一飲みにできそうな生物が、今は生臭い息でイビキをかいて寝ている。忍び足で私達は、龍の周囲にある財宝へと近づいて行った。
洞窟の内部は意外と明るい。光る苔が壁にあって、それに加えて赤龍の体は発光していた。体内に貯めている溶岩のエネルギーが、龍の体を赤く輝かせているのだ。その明かりに照らされた財宝の山を見ていた相棒が、「こっちよ」と囁いた。
「なるほど。それが、お目当ての首飾りか」
相棒が目的の宝を見つけて、その彼女に私は囁き声で話した。赤いルビーが付いた物で、美術的な価値は全く分からない。冒険者ギルドから支給された袋に相棒は首飾りを入れた。
「よし、じゃあ外に出ようぜ」
「冗談でしょう、これだけの宝があるのよ。袋に詰められるだけ詰めて、早く早く」
唖然としている私を置いて、相棒は財宝の山に居座って物色を始めた。頭が、おかしいとしか思えない。すぐ側にはイビキをかいて龍が寝ているのだ。この世界で最も危険な生物と言っていい。一目散に逃げ出すべきで、そうしない私も相棒と同様、頭がおかしくなっていたのだろう。
「何、言ってんだ! 早く出ようぜ!」
「うるさいわね、口より手を動かしなさい。私は指輪やピアス、宝石を探すから、貴女は短剣みたいな装飾品を見て回って。武器の価値は貴女の方が見分けられるでしょ」
相棒は梃子でも動きそうにない。説得は無駄だと悟って、私は相棒が満足するよう、彼女の近くで宝を袋に詰めて見せた。価値など分からないので、できるだけ軽い物を手に取っていく。
「おい、金貨は止めとけって! そんなに入れたら重くなるぞ!」
「大丈夫よ、重力魔法が袋には掛けられてるんだから。それより、もっと私から離れなさいよ。手分けして宝を探した方が効率的じゃない」
「馬鹿じゃないのか。龍が至近距離で目覚めたら、魔法使いのお前が物理攻撃に耐えられるのか。前衛職のあたしが、お前を守る必要があるんだよ」
私は裸みたいなビキニアーマーしか防具を着けていないが、前世の江戸時代は侍同士が刀だけで試合をしていたのだ。必要なのは防具ではなく技量だと私は信じている。
「……な、何よ……カッコつけちゃって」
何故か相棒の手が止まる。少し顔が赤くなっている気がするが、これは龍の体が赤く発光しているからかも知れない。どうでもいいから、早く洞窟の出口に向かってほしい。
「お前の体は柔らかくて気持ち良いんだよ。ベッドで寝る時、落ち着くんだ。そんな体を傷つけてほしくないから、早く洞窟から出ようぜ」
「な!? わ、私の体だけが目的みたいな言い方をしないでよ! 何、胸なの? 私の胸だけが好きなの? 他はどうでもいいの? ちょっとハッキリ言って! 私は貴女の大きなお尻以外も好きよ!」
「は!? あたしの尻は関係ないだろ!? これは鍛えた結果であって、お前の胸とは訳が違ってだな! お前、あたしの尻をそういう目で────」
私達二人は、本当に頭がおかしくなっていたのだろう。そもそも龍のイビキが大きかったのが悪い。囁き声では会話が上手く行かなくて、私達は知らず大声を上げていて──気が付けば龍のイビキが聞こえてこない。二人で顔を向けると、ちょうど目覚めた巨大な爬虫類の、見開かれた瞳と視線が合った。
「逃げろぉぉぉ!」
こう言った私の言葉が先だったか、同時のタイミングで走り出した私達の動きが先だったかは分からない。その後は冒頭で述べた通りの展開だ。これで龍に殺されたら、こんな間抜けな死に方も無いだろう。私達は洞窟の出口に頭を突っ込んで動けない、レッドドラゴンを尻目に財宝の山へと戻ってきていた。
広場のような空間が大きすぎて感覚がおかしくなるが、猫どころか赤龍は立ち上がれば十メートルはあろうかというサイズだ。人間など一飲みにできそうな生物が、今は生臭い息でイビキをかいて寝ている。忍び足で私達は、龍の周囲にある財宝へと近づいて行った。
洞窟の内部は意外と明るい。光る苔が壁にあって、それに加えて赤龍の体は発光していた。体内に貯めている溶岩のエネルギーが、龍の体を赤く輝かせているのだ。その明かりに照らされた財宝の山を見ていた相棒が、「こっちよ」と囁いた。
「なるほど。それが、お目当ての首飾りか」
相棒が目的の宝を見つけて、その彼女に私は囁き声で話した。赤いルビーが付いた物で、美術的な価値は全く分からない。冒険者ギルドから支給された袋に相棒は首飾りを入れた。
「よし、じゃあ外に出ようぜ」
「冗談でしょう、これだけの宝があるのよ。袋に詰められるだけ詰めて、早く早く」
唖然としている私を置いて、相棒は財宝の山に居座って物色を始めた。頭が、おかしいとしか思えない。すぐ側にはイビキをかいて龍が寝ているのだ。この世界で最も危険な生物と言っていい。一目散に逃げ出すべきで、そうしない私も相棒と同様、頭がおかしくなっていたのだろう。
「何、言ってんだ! 早く出ようぜ!」
「うるさいわね、口より手を動かしなさい。私は指輪やピアス、宝石を探すから、貴女は短剣みたいな装飾品を見て回って。武器の価値は貴女の方が見分けられるでしょ」
相棒は梃子でも動きそうにない。説得は無駄だと悟って、私は相棒が満足するよう、彼女の近くで宝を袋に詰めて見せた。価値など分からないので、できるだけ軽い物を手に取っていく。
「おい、金貨は止めとけって! そんなに入れたら重くなるぞ!」
「大丈夫よ、重力魔法が袋には掛けられてるんだから。それより、もっと私から離れなさいよ。手分けして宝を探した方が効率的じゃない」
「馬鹿じゃないのか。龍が至近距離で目覚めたら、魔法使いのお前が物理攻撃に耐えられるのか。前衛職のあたしが、お前を守る必要があるんだよ」
私は裸みたいなビキニアーマーしか防具を着けていないが、前世の江戸時代は侍同士が刀だけで試合をしていたのだ。必要なのは防具ではなく技量だと私は信じている。
「……な、何よ……カッコつけちゃって」
何故か相棒の手が止まる。少し顔が赤くなっている気がするが、これは龍の体が赤く発光しているからかも知れない。どうでもいいから、早く洞窟の出口に向かってほしい。
「お前の体は柔らかくて気持ち良いんだよ。ベッドで寝る時、落ち着くんだ。そんな体を傷つけてほしくないから、早く洞窟から出ようぜ」
「な!? わ、私の体だけが目的みたいな言い方をしないでよ! 何、胸なの? 私の胸だけが好きなの? 他はどうでもいいの? ちょっとハッキリ言って! 私は貴女の大きなお尻以外も好きよ!」
「は!? あたしの尻は関係ないだろ!? これは鍛えた結果であって、お前の胸とは訳が違ってだな! お前、あたしの尻をそういう目で────」
私達二人は、本当に頭がおかしくなっていたのだろう。そもそも龍のイビキが大きかったのが悪い。囁き声では会話が上手く行かなくて、私達は知らず大声を上げていて──気が付けば龍のイビキが聞こえてこない。二人で顔を向けると、ちょうど目覚めた巨大な爬虫類の、見開かれた瞳と視線が合った。
「逃げろぉぉぉ!」
こう言った私の言葉が先だったか、同時のタイミングで走り出した私達の動きが先だったかは分からない。その後は冒頭で述べた通りの展開だ。これで龍に殺されたら、こんな間抜けな死に方も無いだろう。私達は洞窟の出口に頭を突っ込んで動けない、レッドドラゴンを尻目に財宝の山へと戻ってきていた。
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