いずれ、生(う)まれ出(い)ずるもの

転生新語

文字の大きさ
6 / 7

第5話 荒波(あらなみ)を掻(か)き分(わ)け、切り開いて出航(しゅっこう)せよ

しおりを挟む
 バンドのメンバーは、お母さん以外はみな、パンク・ロックというのか派手はで服装ふくそうで。ちょっと十代じゅうだいにはえないような、毛羽けば毛羽けばしいメイクで超絶ちょうぜつギターソロをプレイしている。黒髪のお母さんがつくったきょくは、かなりはげしくアレンジされていて、プロ仕様しようとしかいようがないレベルになっていた。

 他校たこうからのバンドメンバー(高校生こうこうせいなのだろうか?)は、演奏えんそう能力のうりょくたかすぎて、高校の文化祭レベルをはるかにえている。生徒のものとして、これはどうなのかと私は思うけれど、きっと学園長の娘さんがまわして出演しゅつえん許可きょかりたのだろう。

 しかしもっとすぐれていたのは、バンドのなか一人ひとりだけ学校の制服せいふく姿すがたである、髪を染めたお母さんの歌唱かしょうであった。卓越たくえつ、という表現ひょうげんかぶ。バンドの演奏が、彼女のこえまえではかすんでしまうのだ。ならもののない、女王じょおう威厳いげんがステージじょうにはあった。一曲目いっきょくめわって、かいじょうだい喝采かっさいだ。

素敵すてきですわ、お姉さま」

 校庭こうてい設営せつえいされたステージを見上みあげながら、学園長の娘さんがった。椅子いす用意よういされてなくて、観客ギャラリーみなである。学園長の娘さんと黒髪のお母さん、そしてクラスメートはいっしょあつまって、中央ちゅうおうでステージをている。

「彼女……こんなにうたすごかったの?」

「いや、カラオケでいたことはあったけど、ここまでじゃなかったよ。才能さいのう開花かいかしてるわ……」

 黒髪のお母さんとクラスメートは呆然ぼうぜんとしていた。だれもがかる。これほどの才能さいのう周囲しゅういほうっておかない。髪を染めたお母さんは歌手かしゅとしてメジャーデビューをたすだろう。髪を染めたお母さんは、あっという大人おとな世界せかいへプロとしてばたいて、私たちをりにするのだ……黒髪のお母さんたちのこころには、そんなかんがえがかんだようだった。

 二曲目にきょくめはじまった。バラードの要素ようそもあって、それでいて今風いまふうのテンポがはや曲調きょくちょうだ。そしてきょく中盤ちゅうばん間奏かんそう部分ぶぶんかる。髪を染めたお母さんは一息ひといきついて──客席きゃくせきにいる、黒髪のお母さんへとってマイクでびかけた。

「おーい、最愛さいあいひとぉ! 素敵すてききょくつくってくれてありがとう! そんな貴女にいたいことがあるからいて!」

 髪を染めたお母さんは、学校の勉強べんきょうをしていないから視力しりょくい。中央ちゅうおうにいた黒髪のお母さんをつけて、とおこえをかけている。『なんなんだ?』と観客ギャラリー視線しせんいてきて、ちたくない黒髪のお母さんはビックリしていた。

「ネットで発表はっぴょうされてる、貴女のきょくいてさ。すぐにかったよ、貴女が私をあいしてるって。うれしかった。だから私も、貴女をきになってさ。そして貴女のきょく歌詞かしけて、うたってみたくなった! 作詞さくしはスムーズにできたよ。だってきょくが、私へのあいからまれたってかってたし。それで、『私も貴女をあいしてる』って気持きもちをめて歌詞かしにしただけ!」

「ちょっと……めてよ……」

 黒髪のお母さんが、ひたすらアタフタしている。一向いっこうかまわず髪を染めたお母さんはつづけた。

「そしたらさ! 自分じぶんうのもなんだけど、きょくも私のうたすごいことになって! バンドのメンバーからは『天才てんさいだ!』ってめられちゃった。でも私だけのちからじゃないよ。貴女のきょくが、そして貴女のあいがあったから、私の才能ははなひらいたの。貴女がなかったら、私は複数ふくすうたちのあいだをフラフラしてるだけのバカでわってたわ! 貴女が私をえてくれたの。だから今度こんどは、私に貴女をえさせて!」

 ギャーン、とタイミングく、ギタリストが楽器がっきらす。間奏かんそう部分ぶぶんつづいていて、つまり髪を染めたお母さんによる、黒髪のお母さんへの告白こくはくはまだまだつづくようだ。

「バンドのメンバーからわれたわ! 『貴女は自分じぶん才能さいのうからげられない。どこまでもけんが、貴女をってくる』って! それは貴女もおなじよ。たぶん私たちは一生いっしょう世間せけんから、こうからのがれられない。だったらさ、一緒いっしょってようよ! 『きなひときだとせんげんして、なにわるい!』ってってやるの。二人ふたり世界せかいえましょう!」

 髪を染めたお母さんと、黒髪のお母さんの視線しせんう。からへ、情熱じょうねつのエネルギーがつたわっていくのが私にはかる。つねうつむきがちだった、黒髪のお母さんのには、いまほのおともっていた。

「そういうわけだから、私をきでいてくれてる子猫こねこちゃんたち、ゴメンね! 私には最愛さいあいひとがいるの! おびとってはなんだけど、これからも私を応援おうえんしてくれれば、あたらしい世界せかいせてあげる。私は世界せかいひらいてみせるわ! だから、どうか私たちを祝福しゅくふくして!」

 あちこちから『キャー! おねえさま、素敵すてきぃ!』と歓声かんせいがる。そんななか、学園長の娘さんとクラスメートが、黒髪のお母さんへはなしかけた。

告白こくはくこたえてあげては、どうですか。返事へんじはやほうがいいですよ」

「そうそう、あのバカにわれっぱなしってのもはらつでしょ。私たちがみちひらくから、まえきな!」

 クラスメートたちが集団しゅうだんで、『はいはい、みちけてー』と強引ごういんってはいっていく。うなずいて、黒髪のお母さんはまえすすんでいった。かせたバンドのメンバーは、まだ間奏かんそうつづけている。そしてステージのまえへと辿たどいた黒髪のお母さんは、全力ぜんりょくさけんだ。

「まったく、もう! 目立めだたずきていきたかったのになにもかも滅茶苦茶めちゃくちゃ! ええ、いいわよ! 私の人生じんせい全部ぜんぶ、貴女にあげる! 私が貴女をささえていくから、責任せきにんって、ちゃんと世界せかいえなさいよね!」

 とおこえひびく。そして、その一番いちばんの、祝福しゅくふく歓声かんせい二人ふたりのお母さんをつつんでいったのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

春に狂(くる)う

転生新語
恋愛
 先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。  小説家になろう、カクヨムに投稿しています。  小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/  カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...