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冬休みの語(かた)らい、誘拐
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その後も、万里愛さまのゲーム作りは続いていった。夏休みが終わって季節が秋から冬になっても、私とお姉さまの関係は変わらず、むしろ深まっていって。私は教室や学校で、自分がどう見られているかなどということは何も気にならず、年が明けた一月の冬休みにも万里愛さまの屋敷に招かれていた。
「ゲームの出来が、更に良くなりましたね。このまま製品化できるかもです」
「お世辞でも嬉しいわ。でも、いいの。これはプライベートな趣味だからね」
私も万里愛さまも東京出身で、実家への帰省などはない。お正月を過ぎた冬休みの今日も、私はお姉さまの自室でテストプレイを行っていた。内容はアクションゲームで、髪が長い女の子を操って、襲い掛かってくる敵を倒しながら先の面へ進んでいくものだ。ベルトスクロールアクション、というジャンルに分類されるらしい。
「この『パリィ』ってテクニックは強力ですよね。ヒロインの女の子が、敵の攻撃を無力化して、無敵時間を得てから攻撃できるんですから」
「そうね、パリィの効果はゲームによって違うけど。私のゲームでは、パリィでバリアみたいな障壁をヒロインの周りに発生させて、その障壁に触れた敵へダメージを与えることもできるわ」
ゲームのヒロインは、姿が万里愛さまにそっくりだ。お姉さまがゲーム作りを『プライベートな趣味』と言っていたけれど、それと関係あるのかなと思った。
「覚えてますか、お姉さま。去年、私を野球部のボールから守ってくれたことを。硬球を素手で取れたなんて、今でも信じられないくらいです。まるで、このゲームみたいに、特殊な能力で私を守ってくれたようで」
「覚えてるわよ、もちろん。……現実もゲームみたいに、シンプルだったらいいのにね」
万里愛さまが、何かを言おうかどうか、告白しようかどうかを迷っている気配があった。夏休みの時期、今と同じようにテストプレイをしていた時、お姉さまが倉餅家に付いて話していたことを思い出す。あれ以来、お姉さまが家のことに付いて話すことはなかった。
「……駄目ね。臆病だわ、私って」
ため息をついて、そう言ったお姉さまの悩みは何なのだろう。正確には私にわからない。このお屋敷には何度も招かれているけど、私はお姉さまのご家族に一度も会ったことがなかった。万里愛さまが「わが家の執事よ」と紹介してくれた、老齢の男性と会っただけである。
「ちょっと雑談しながら、テストプレイを続けてもいいですか? お姉さまの声を聴きながら楽しみたいです」
「あら、この子ったら。そんなに私を求めているの? 仕方ないわね」
お姉さまが申し出に応じてくれる。もちろん私は万里愛さまを求めている。そして同様に、お姉さまも私のことを求めているのはわかっていた。ご家族とは複雑な関係らしくて、温かい語らいの場をお姉さまが家庭で築けているのか、私は知らない。万里愛さまが私と語らうことで、少しでも温かい気持ちになってくれれば私は満足なのだ。
「そう言えば年末、物騒というか怖いニュースがありましたよね。どこかの暴力団事務所で火事が起きたとかで。同時期に、その暴力団の悪事が警察に発覚して、構成員の殆どが逮捕されて壊滅状態になったんですって。ニュース記事の受け売りですけど」
警察には、誰かが悪事に付いての情報を流したらしい。正義の告発者だろうか、謎である。
「怖い世の中よね。何と言っていいか、わからないわ」
困ったような表情でお姉さまが笑う。確かに雑談の話題選びとしては不適切だったろう。その後も私とお姉さまは楽しく、おしゃべりを続けて。私が屋敷をお暇したのは午後五時過ぎで。そして私が路上で誘拐されたのは、その直後だった。
「死にたくなけりゃ、車に乗りな」
人気のない夜道で、ナイフを持った男性にそう凄まれれば、従うしかない。それからは目隠しをされて車で運ばれた後、どこかの地下階に監禁されて。倉餅万里愛さまが、私と男性がいる部屋に入室したのは、それから間もなくだった。
「ゲームの出来が、更に良くなりましたね。このまま製品化できるかもです」
「お世辞でも嬉しいわ。でも、いいの。これはプライベートな趣味だからね」
私も万里愛さまも東京出身で、実家への帰省などはない。お正月を過ぎた冬休みの今日も、私はお姉さまの自室でテストプレイを行っていた。内容はアクションゲームで、髪が長い女の子を操って、襲い掛かってくる敵を倒しながら先の面へ進んでいくものだ。ベルトスクロールアクション、というジャンルに分類されるらしい。
「この『パリィ』ってテクニックは強力ですよね。ヒロインの女の子が、敵の攻撃を無力化して、無敵時間を得てから攻撃できるんですから」
「そうね、パリィの効果はゲームによって違うけど。私のゲームでは、パリィでバリアみたいな障壁をヒロインの周りに発生させて、その障壁に触れた敵へダメージを与えることもできるわ」
ゲームのヒロインは、姿が万里愛さまにそっくりだ。お姉さまがゲーム作りを『プライベートな趣味』と言っていたけれど、それと関係あるのかなと思った。
「覚えてますか、お姉さま。去年、私を野球部のボールから守ってくれたことを。硬球を素手で取れたなんて、今でも信じられないくらいです。まるで、このゲームみたいに、特殊な能力で私を守ってくれたようで」
「覚えてるわよ、もちろん。……現実もゲームみたいに、シンプルだったらいいのにね」
万里愛さまが、何かを言おうかどうか、告白しようかどうかを迷っている気配があった。夏休みの時期、今と同じようにテストプレイをしていた時、お姉さまが倉餅家に付いて話していたことを思い出す。あれ以来、お姉さまが家のことに付いて話すことはなかった。
「……駄目ね。臆病だわ、私って」
ため息をついて、そう言ったお姉さまの悩みは何なのだろう。正確には私にわからない。このお屋敷には何度も招かれているけど、私はお姉さまのご家族に一度も会ったことがなかった。万里愛さまが「わが家の執事よ」と紹介してくれた、老齢の男性と会っただけである。
「ちょっと雑談しながら、テストプレイを続けてもいいですか? お姉さまの声を聴きながら楽しみたいです」
「あら、この子ったら。そんなに私を求めているの? 仕方ないわね」
お姉さまが申し出に応じてくれる。もちろん私は万里愛さまを求めている。そして同様に、お姉さまも私のことを求めているのはわかっていた。ご家族とは複雑な関係らしくて、温かい語らいの場をお姉さまが家庭で築けているのか、私は知らない。万里愛さまが私と語らうことで、少しでも温かい気持ちになってくれれば私は満足なのだ。
「そう言えば年末、物騒というか怖いニュースがありましたよね。どこかの暴力団事務所で火事が起きたとかで。同時期に、その暴力団の悪事が警察に発覚して、構成員の殆どが逮捕されて壊滅状態になったんですって。ニュース記事の受け売りですけど」
警察には、誰かが悪事に付いての情報を流したらしい。正義の告発者だろうか、謎である。
「怖い世の中よね。何と言っていいか、わからないわ」
困ったような表情でお姉さまが笑う。確かに雑談の話題選びとしては不適切だったろう。その後も私とお姉さまは楽しく、おしゃべりを続けて。私が屋敷をお暇したのは午後五時過ぎで。そして私が路上で誘拐されたのは、その直後だった。
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