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第9章 さよりの帰省
実家への電話
しおりを挟む※一部、犯罪行為の記述がありますが、もちろんこれを奨励するものではありません。ご了承ください。
◇◇◇
さよりは夏休みの間、片山の実家に帰っていた。
短大が年内に決まる推薦入学なら、高校在学中に運転免許を取ることもできたが、2月の一般入試だったので、その後に手続してとなると、結構混み合ってしまう。だから夏休みに地元に戻って免許スクールに通うということで、東京に行く前から話はまとまっていた。
父親の知人がとあるスクールに勤めており、「お宅のさよりちゃん、今年高3でしょ?」と、進級したぐらいのタイミングで早々と打診があったので、そこに通うことも決まっていた。
夏休みに実家でのんびりするのも悪くないし、などと思っていたのだが、東京を離れるということは、せっかくいい感じになりつつある俊也と会えないことを意味する。
こちらの都合のいいときに公衆電話から電話をかけ、アポを取って会って話すだけという、まだ「カレカノ」には程遠い付き合いではあるから、さよりはそこまで調子に乗っているわけではないが、少なくとも俊也が自分からの電話を嫌がっていないという空気くらいは分かる。
しかしそれだけに、「俊也さんのお部屋に行ってみたい」とか、「届けを出せば、外泊できますよ」的な意味ありげで慎みのないことを、自分から言い出すこともできず、実際、「進展」はあまりしていないのだ。
◇◇◇
スクールの方は、時々ヘマをやりながらも、結構勘がつかめてきたので、何とか夏休み中に免許は取れそうだ。
俊也には一応電話をしたが、「今、片山に帰っていて、8月いっぱいはコッチだと思います」「東京に戻ったら、またお話ししたいです」程度のことしか言えなかった。ただ、そんな会話の中で、「もしよかったら…」と、自宅の電話番号を教えることはできた。
◇◇◇
8月盆が近づいてきた頃、俊也から電話がかかってきた。
最初に取ったのは母で、全く知らない男性からの娘あてということで警戒したが、晴海の大学の「友達」という説明と、礼儀正しい対応により、「あら、そうなの?お付き合いしているの?」とからかわれる程度で済んだ(父親だったらこうはいかなかったかもしれない)。
『15日頃にそっちいきたいんだけど、会える…かな?』
「え、片山にですか?」
『無理ならやめておくけど…』
「そんな!会いたいです!」
さよりのほかに知人がいるわけでもない、特に何の変哲もないこの街に、わざわざ俊也が来てくれる。もうそれだけで、踊り出したい気分だった。
「何時頃になりますか?」
『えーとね…11時ぐらいかな?』
「新幹線ですよね。ホームまで迎えにいきます」
『いや…片山ってそんなに大きな駅じゃないよね?』
「まあ、そんなには」
『じゃ、場所を指定してくれれば多分行けるよ。そこで11時半頃で』
「そうですか?では、西口の…」
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