【R15】気まぐれデュランタ

あおみなみ

文字の大きさ
82 / 88
第29章 【終】あなたのことが好きです

先を越された

しおりを挟む


 さよりのアルバイトは週4回、17時から21時までだ。
 17時にはカフェのバイトを上がり、大学に通っている佐竹とは、微妙に時間帯がずれていたので、バイト先のあるフロアが同じでも、顔を合わせることはまずない。

「お疲れさまー」
「おやすみなさい」
「また明日」

 佐竹が日中バイトしているカフェは、営業時間が23時までだ。
 時々は彼のシフトの間に、コーヒーでも飲みにいっちゃおうかな…と、ガラス越しに店内をぼんやりとながめた。

 俊也には「別れたい」という意思を伝えた。しかし俊也のあの様子では、納得はしていなそうである。
 きちんとすべきかと悩んでいたら、アヤが「契約関係じゃないんだから十分だよ。しつこく何か言ってくるようだったら、私がシメといてあげるから、いつでも言って」と言われた。
 あれから2週間、何もないので、「別れられた」と思って差し支えないのかもしれないが、よりも、佐竹との時間を取れない方が、さよりには気がかりだった。

 やはり佐竹には、きちんと会って、目を見て思いを伝えたい。
(とても背が高いから、目線は大分上向きになっちゃうかな…ふふ)
 そんなことを考えただけでも、胸がぽっと熱くなった。

 駅の改札方面に向かおうとしたら、背後から「水野さん、お疲れさま」という声が降ってきた。

「え?あ…佐竹君…」
「寮の門限って11時だっけ?」
「うん」
「じゃ――送るよ。送るまでの間に話したいことがあるんだ」
「いいの?ここから佐竹君のところより2駅先だけど…」
「絶対今日話したいけど、君に門限を破らせるわけにはいかないから、折衷案なんだ」
「ふふっ。何それ?」

◇◇◇

 電車内にはそこそこ人がいたので、佐竹は他愛のない世間話をさよりに振っただけだったが、これが「彼がどうしても話したいこと」ではないだろう。
 ホームに降り立つと、「ここから寮まで何分?」と聞いてきた。

「5分、かな」
「そうか…じゃ、ここで言うよ」
 佐竹はさよりを駅特有のシェル型のイス(6連)の一つに座らせ、その隣に腰掛けると、さよりの手を取って言った。

「俺は君のことが好きだ。君は、俺の恋人になる気はないか?」
「え…と…」
「駄目だったら言ってくれ。断っても寮までは送っていくから」
「その…あの…」
 
 さよりは佐竹の真剣な表情を正視できず、下を向いてしまった。

「君とああいう関係になって浮かれていたけれど、はっきり意思表示していなかったことに気づいたんだ」
「あ…だよね…(私も…)」
「君は優しいから、たとえ勢いだったとしても、そう言えないのかもしれないって思った」
「(そんなわけないでしょ!)」
「できたら今返事を…」
「…あのね、佐竹君。私が今、何を考えているか分かる?」
「え?」
「『あーあ、先越されちゃった』だよ」
「それじゃ…」
「あなたのことが好きです。ぜひ付き合ってください」

 さよりはまっすぐ、佐竹の目を見上げた。
 椅子に腰かけていたので幾分ましではあったが、やはり上目遣いになる。

「やば…こんなにうれしいものだと思わなかった…」

 佐竹は顔を背け、肩を軽く震わせた。
 顔をのぞき込んだり、少し意地悪したい気もしたが、ぐっとこらえてこう言った。

「門限までには泣き止んでね。送ってくれる約束でしょ?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

処理中です...